膵β細胞の時差ぼけが糖尿病を引き起こす〜体内時計と糖尿病の驚くべき関係性とそのメカニズムの解明〜
大学院医学系研究科の太田康晴准教授、田口昭彦助教、谷澤幸生教授らの研究グループは、時計遺伝子ネットワークからのシグナルの低下により、インスリン分泌不全が起きることを発表しました。シフトワーカーや睡眠障害、体内時計(生体リズム)を乱す生活習慣がどのようなメカニズムで耐糖能障害をきたすのか、その一端を明らかにしたことで、糖尿病の新たな治療概念の構築が期待できます。
なお、この研究成果は、2017年3月30日付けで、科学誌「EbioMedicine」にオンラインで公開されました。「EbioMedicine」は「Cell」と「The Lancet」の共同編集によるオープンアクセスジャーナルです。
【研究成果概要】
重度の糖尿病をきたすWolfram症候群は、WFS1という遺伝子の変異により発症します。今回、我々はWFS1欠損マウスの膵β細胞(インスリン分泌細胞)には、時計遺伝子ネットワークの出力に相当する転写因子(注1)に異常がある(DBP活性の低下)ことを見出しました。DBP活性が膵β細胞特異的に抑制されるような遺伝子改変マウスを作製したところ、このマウスでは顕著なインスリン分泌不全を伴う耐糖能障害が起きていることがわかりました。正常なマウスの膵β細胞は、摂食が始まる時間に備え、インスリンが速やかに分泌されるような準備状態を作ります。一方、DBP活性が常に抑制されている膵β細胞は、このような準備状態を作ることが出来ないということがわかりました。ヒトが生体リズムの異常をもっとも強く感じるのはいわゆる時差ぼけの時です。今回の我々の研究結果は、膵β細胞を時差ぼけの状態にすると、インスリン分泌不全さらには糖尿病を引き起こしてしまうという事実を示しているものと考えています。
なお、本研究は、文部科学省・科学研究費補助金制度の支援を受けて行ったものです。
研究成果の詳細については、こちらをご参照ください。