2019年採択プロジェクト

(1)山口・食の温故知新 〜長州食材・料理を復活し新たな価値を見出す〜

(2)文化財修復の温故知新:日本画の新潮流及び山口型・文化財保存修復研究センタープロジェクト

(3)無線LAN 技術によるスマート商店街の構築と観光回遊データ連携分析に基づく活性化方針立案への展開

(4)山口県におけるハワイ移民のビッグデータ解析と新規事業の創出

(5)SDGsによる山口県内スポーツ観光資源の開発

 

 ※2016年採択プロジェクトはこちら 

プロジェクト(1)/研究代表者:五島 淑子 教授(教育学部)
 プロジェクト名:山口・食の温故知新 〜長州食材・料理を復活し新たな価値を見出す〜

 

 五島先生

  

概要を教えてください。

 本プロジェクトは、山口の隠れた魅力を「食」を通じて再発見し、得られた学術的結果や成果を幅広く発信することを目指しています。
 本プロジェクトでは『江戸時代後期の史料を基にして、現代科学による実験、データサイエンスやDNA分析技術を活用すること、復元させた「幻の長州食材」の栄養的価値の検討、長州食材を起点とした過去の食文化を現代に甦らせ、生理機能の評価を行います。現存する郷土食材も含めた長州食材についても、過去の調理法や歴史的なイベントで用いられた料理を再現する』ことを計画しています。 これにより、科学的な価値以外に文化的価値や歴史的価値を与え、「山口・食」のローカルバリューを高めて地域貢献を行いたいと考えています。
 メンバーは、真野 純一先生(大学研究推進機構総合科学実験センター・教授(生化学))、教育学部の柴田 勝先生(教育学部・准教授(植物学))、森永 八江先生(教育学部・准教授(栄養学))、セネック・アンドリュー先生(教育学部・助教 (国際理解))と私(食物学)の計5名です。
 特色は、文系・理系の分野を融合した学際研究を行うことです。このため、様々な分野を横断する学際研究に最適な課題として、すそ野が広く身近である「食」を題材として取り扱います。また、山口県の強みである「貴重な文献史料、幕末維新の震源地、欧米文化を取り入れる革新性」を生かしながら、「山口・食」を通した山口の魅力を再発見したいと考えています。

プロジェクトを計画しようと思ったきっかけは何ですか?

 昨年の2018年が明治150年にあたることから、山口大学と防府市との包括連携事業の一環として、日英饗応料理の再現を行いました。そこでは、幕末に三田尻(現在の防府市)で、毛利藩主父子とイギリスのキング提督が会見した際の料理を再現しました。その一部は、昨年度の山口学研究プロジェクト「明治150年から見える山口県の未来」で『日英饗応料理から現在に至る食文化の変遷』として報告しています。
 本研究プロジェクトは、これまでの成果を踏まえ、江戸~現代の長州食材の再発掘として、さらに文理融合の立場で、研究を進めるものです。山口大学という総合大学の利点を活かして、総合的・学際的に展開していきたいと考えました。
 個人的には、山口大学で文理融合の研究会を行いたいという長年の思いの実現です。大学院生のときに、国立民族博物館(大阪府吹田市)で実施されている共同研究会に参加させていただき、いろんな分野の人がディスカッションして研究が展開し成果がでていく様子に、とても刺激を受けました。いつかそのような研究会を自ら主催してみたいと思っていました。

具体的にどのようなことをするのですか?

 本プロジェクトの目標として、【文化・歴史・機能をあわせもつ食材の再発見】、【時代と地域を超えた食文化による価値の創出】、【食による地域活性のキラーコンテンツの作成】の3つがあります。
 具体的には大きく2つの課題を設けています。1つ目の課題は、「山口の食材の復元・再発見 と科学的な高付加価値化」であり、「江戸~現代の長州食材の再発掘」として、史料から見た江戸から現代の長州食材の再発見、データベースと遺伝子多型による幻の長州食材の復元などを実施します。2つ目の課題は、「食の歴史的・地理的な比較および調理の変化と教育への影響」であり、「江戸~現代の長州・英国の食文化」として、文献資料から見た江戸から現代の長州・英国の食文化、食の歴史・国際化・比較文化による食の価値の創出、食の学び・味わい・体験を通じた食育・教育・産業への提言をいます。
 これらを文理融合のスパイラルとして、定期的に研究会を開催しながら研究を進めています。
 

最後に一言お願いします。

 山口大学、および山口県内には幅広い分野の研究者がおられます。ご協力をお願いすることもあると思いますので、そのときはどうぞよろしくお願いいたします。
 学生のみなさんには、山口や食に関心を持って、さらに学際研究の面白さを感じていただけるような機会をつくることを考えてみたいと思います。
 また、地域のみなさまには、講演会等で山口の食に関して発信していきたいと思いますし、むしろ、いろいろ教えていたきたいと思っています。

プロジェクト(2)/研究代表者:中野 良寿 教授(教育学部)
 プロジェクト名:文化財修復の温故知新:日本画の新潮流及び山口型・文化財保存修復研究センタープロジェクト 

 

 中野先生

  

概要を教えてください。

 この研究は、平成28~30年度に行ったプロジェクト「山口から始める文化財修復と日本画の新潮流」を引継ぐもので、山口型とも呼べるような地域密着型文化財保存修復研究を目指すと共に、最終的には、文化財保存修復センターの設立と、センターにおける研究活動を目指します。文化財保存修復の第一人者である馬場良治氏が開発した絵画の剥落止めの膠(にかわ)や美祢市にある長登銅山のリサーチなど日本画では本来使用していた素材に回帰するような方法での新たな保存修復技術の新潮流の可能性を探ります。山口県は、縄文、弥生時代から大陸への窓口として栄え、多数の遺跡群があります。また、奈良時代以降の歴史を反映する多数の文化財が残っているのですが、これら文化財を本格的に学術機関と連携し保存、修復できる専門研究機関は山口県にはありません。
 一方、馬場良治氏(国指定:選定保存技術保持者[建造物彩色])が宇部市に在住しており、自宅に工房、さらに自宅近くに文化財修復研究所を設立し、全国規模での文化財修復作業を手掛けています。加えて山口大学には埋蔵文化財に関連するセクションとして、埋蔵文化財資料館も設置されています。また本県には、他県には、あまり設置されていないユニークな文化施設、メディア・アートの専門館としての「山口情報芸術センター」(YCAM)があって、近年、このYCAMにおいて、近・現代におけるメディア・アートの保存継承についての展覧会があり、研究・模索活動がスタートしています。つまりメディア・アートにおける機器類(映像や音響など)の故障や技術環境の変化による動作・再生不能など新しい形態の文化財の未来への保存継承が困難となりつつある現状がありYCAMはその方面も着中しようとしています。このような山口県、および山口大学の特殊な状況をふまえ、構築した研究体制の維持及び山口型の文化財保存修復研究センターの設置を目指したプロジェクトとして展開したいと考えています。

プロジェクトを計画しようと思ったきっかけは何ですか。

 私は教育学部で平面造形や絵画、現代アートなどの内容を含む授業を担当しているのですが、10年位前の集中講義から毎年馬場良治先生をお呼びしてまして、以前のプロジェクトの前から先生の活動内容は紹介してもらっていました。京都の三千院などの再現模写をスライドで見せてもらったり、どういう軸で仕事をされているのか、お聞きしていました。また膠や墨、顔料などの素材や技法を教えていただいたり、日本画家の大家で日本のみならずアジアの文化財の保存修復に尽力なさった平山郁夫先生との繋がりだったり、狭い意味での専門は違うのですが、広い意味で私の周りの知り合いが関わっていて、関連付けしやすいジャンル(保存修復)でした。宇部市に馬場先生の自宅、工房、文化財修復研究所があり、そこと大学と繋いで何かできないかというのがきっかけです。

具体的にどのようなことをするのですか。

 このプロジェクトは、《素材研究部門》と《文化財保存修復部門》の2つの部門からなります。《素材研究部門》は、文化財保存修復に関わる素材研究を推進します。具体的には、絵画(顔料〈岩絵具〉、膠、紙、絹など)、彫刻(木材、石材、金属など)、工芸(漆、木竹、釉薬など)の素材研究で、この部門で「山口から始める文化財修復と日本画の新潮流」を引き継ぐ形で、「膠関連グループ(堤、野崎、堀川)」による膠の構造科学的研究、「文化財修復美術史グループ(菊屋、中野、上原)」による修復を必要とする文化財調査に関する研究、「顔料関連グループ(永嶌、菊屋、中野、上原)」による顔料に用いられる鉱石・岩石に注目した研究、以上の3グループが独自の研究を行うと共に、各グループによる会議を設置して、プロジェクトの全体的な方向性の協議や協議結果の共有、進捗状況の共有を行います。
 《文化財保存修復部門》は、対象とする文化財による分類、[古美術・古文化財修復セクション]では馬場良治氏をその中心メンバーとし、[埋蔵文化財修復セクション]では既設の埋蔵文化財資料館との連携として(模索中)、[現代美術・メディア・アート保存アーカイブスセクション]では山口情報芸術センター(YCAM)との連携を中心として(模索中)、3つのセクションを置き、それらの保存修復、アーカイブ化の研究をするというイメージがあります。
 まだまだそれぞれの部門の関係性を構築したり連携を進める必要があるのですが、本プロジェクトの要になる馬場良治先生の助言や総括を仰ぎつつ進め、独自に授業や講演会などを実施し、このプロジェクトの質と量の拡充を図っていきます。

最後に一言お願いします。

 山口県の文化財の保存修復の現状は管理やコストの面で非常に難しい面もありますが、宇部市に馬場先生がいて保存修復のノウハウや施設空間などの条件が揃っていますし、なおかつ山大では創成科学研究科などの理系研究者や文系学部での美術系研究者や埋蔵文化財資料館もあるので、できれば古美術・埋文・現代アートのアーカイブを含めたうえでの文化財修復センターというものを構想できたら素晴らしいと思います(模索中)。それはアジアにも視野を広げて展開して行きたいです。さらに山大の産学連携という意味で、ベースになっている開発した膠をぜひ世に出して、様々な領域の人たち、センター、専門家と連携し、文化財の保存修復に貢献するプロジェクトを発展させたいと思っています。

プロジェクト(3)/研究代表者:松野 浩嗣 教授(創成科学研究科(理))
 プロジェクト名:無線LAN 技術によるスマート商店街の構築と観光回遊データ連携分析に基づく活性化方針立案への展開

 

松野先生

  

概要を教えてください。

 山口市でもそうですが、地方都市にある多くの中心商店街が衰退傾向にあり、IT を使った活性化活動が各地で行われています。山口市内においても大手通信系企業によって公衆Wi-Fiの設置がされています。利用者はネットに繋ぐためにWi-Fiにアクセスしますが、そのデータ(滞在時間や移動などの回遊情報)は蓄積されており、それがビッグデータとして活用されることになります。私の研究室では、山口市の受託研究で平成27 年度にオープンソースソフトウエアを活用した公衆Wi-Fi システムを開発し、現在、香山公園と菜香亭で運用中です。今年度、開始時に利用者の性別や年代などの属性を取得できる機能を加え、さらに、アクセスポイントに接近したスマホなどの端末を自動検出し、その履歴を記録できるようシステムを拡張しました(端末検知Wi-Fi システム)。これにより、来客者が興味を持ちそうな販売情報を、入店時にスマホに表示することなど、アプリ無しに利用者属性に応じた情報提供ができるようになりました。
 本プロジェクトでは、山口市中心商店街活性化事業を展開する「株式会社街づくり山口」と協働し、中市商店街で端末検知Wi-Fi システムを実験運用し、来街者にWi-Fi 接続を提供すると共に、商店街内アクセスポイント(AP)への接続履歴データを蓄積する機能をもった「スマート商店街」を構築します。さらに、既設の香山公園と菜香亭に加え、一の坂川の公園、十朋亭などの観光スポットに公衆Wi-Fiアクセスポイントを設置し、スマート商店街ネットワークと統合的に運用して来街者と観光客の利用データを一元的に取得し、このデータを統計的または機械学習的に分析し、街づくり山口と共に、新たな回遊促進や新たな街の魅力創出などを図る計画を立案し、地域活性化の取り組みを行います。
 この事業は大学教育センターの木下准教授、山口で街づくり活動をしている弘中明彦氏らと共に、取得したデータを分析し、活性化のための方針を得ます。また、本学経済学部の藤田健准教授から、他の商店街での過去の成功事例の提示と助言を受けます。得た方針を基に、顧客別の店舗誘導ができるweb ページなど、活性化のためのシステム構築を行います。このように、このプロジェクトは、無線技術とデータ分析を基にして社会経済学的な観点から地域活性化のための方針を得ようとする文理融合型研究です。

プロジェクトを計画しようと思ったきっかけは何ですか?

 これまでに山口市の佐山地区において災害時の無線LANによる情報共有ネットワークを作ってきましたが、これを「被災情報共有」から「商店街活性化」へ応用しました。山口市出身であるので、私のできることで地元の山口を元気にできないものかと。また、概要でお話しましたが、Wi-Fiにアクセスした際のデータは様々な情報があり、それをどうすれば、商店街の活性化に繋がるかを考えました。

具体的にどのようなことをするのですか?

 アプリを入れずにスマホなどの端末を検出する機能(無線LAN による端末検出機構)を中市商店街の一部店舗等に導入し、実用的場面での動作検証を行って、それ以降も一部店舗で継続して運用し実用化を行い、商店街全体に拡張します。2018 年3 月に、株式会社街づくり山口の協力を得て、マルシェ中市(マルシェ)とコミュニティホールNac(Nac)に無線LAN アクセスポイントを設置するための工事(有線LAN を含む)を行いました。これからは中市商店街アーケード全体で無線LAN アクセスを可能にするための工事を行い、その後、スマホ検出のための機能をインストールし、実験範囲を拡大させます。また、店舗に入ってきたスマホを検知し、そのスマホのブラウザに表示させるweb システムを導入し動作検証し、街づくり山口と共同してマルシェとNac の利用が促進されるような、実験店舗用web システムのコンテンツを製作し、その効果を検証します。その後、webサービスに参加する店舗を募集し、その店舗にあったコンテンツを作成し、より多様な店舗から多くのデータを取得します。
 2015年度に公衆無線LAN システムを開発し、香山公園と菜香亭にアクセスポイントを設置し運用中です。このアクセスポイントを1、2か所追加し、既設置の2か所と合わせて、これら観光スポットと商店街LAN がリンクできるような作業を行います。並行して、観光スポットで利用者にサービスするコンテンツを作成し、その運用によって得られたデータから利用者の行動状況解析を試みます。その後、観光スポットを拡大し、より広範囲でデータを取得します。

最後に一言お願いします。

 この事業は、一言でいうと「データの地産地消」です。地元で自分たちで取得したデータは自分たちで活用する、ということです。このプロジェクトは山口大学が先導し、地域活性化を担う街づくり山口、地元のインターネット通信会社や、電気工事会社やIT 機器販売店など、オール山口の体制で実施し、取得したデータも大手企業に渡すことなく地域で活用する取り組みです。本学が協定している萩市、長門市、美祢市、周防大島町などを始めとする県内他市町へも展開していきたいです。

プロジェクト(4)/研究代表者:杉井 学 准教授(国際総合科学部)
 プロジェクト名:山口県におけるハワイ移民のビッグデータ解析と新規事業の創出

 

杉井先生

  

概要を教えてください。

 周防大島は、瀬戸内海に浮かぶ現在人口17,000人足らずの小さな島ですが、今も昔も社会を切り開くパイオニアの集まる場所です。近年、第6次産業の開発や若者が起業する島として、地域開発や過疎化対策のモデル事業が多く展開されているのですが、江戸中期以降のまれにみる人口増加や四境戦争(長州征討)、幕末から明治にかけてのハワイ移民など様々な出来事が起こり、非常に興味深い人物を輩出する場所でもあります。
 本プロジェクトでは、この稀有な場所を活動の中心として、ハワイ移民の歴史を紐解きながら山口県と周防大島に宿るグローバル社会のパイオニアを生む風土や精神の源を探ると同時に、山口大学だけでなく山口県や周防大島とハワイとの交流活性化に向けた、新たな方策や周防大島が抱える現代社会の課題を解決するモデル事業の創出を目指しています。
 このことを実現するために、四つの柱があります。一つ目は、ハワイ移民情報データベースを活用したビッグデータ解析を行って、なぜ多くの周防大島島民がハワイへ渡ったのかを探ります。二つ目は、日本とハワイ双方に残るハワイ移民に関連した文献、文化・芸能について比較文学・文化的分析を行って、ハワイ移民の残した歴史的・文化的財産の発掘を行うと同時に、データ解析とは異なる視点で、なぜ多くの周防大島島民がハワイへ渡ったのかを探ります。三つ目は、シンポジウムや意見交換会を開催し、情報解析から得られた知見、周防大島島民およびハワイの日系人とその文化等の現状を共有することで、現在の周防大島島民がハワイ移民をどう捉えているのか、ハワイ移民から学ぶべきパイオニア精神はどこから来るのかなどを探ります。最後の四つ目は、得られた成果をデザイン科学的な手法をもって、現代社会の抱える課題を解決する新たな事業の創出に結びつけます。

プロジェクトを計画しようと思ったきっかけは何ですか?

 私は山口大学理学部の出身で、学生時代1年間ほど大島商船高専で非常勤講師として生物の授業を担当していました。ハワイ民のことは当時は知らなかったのですが、年を重ねると歴史に興味をもつようになり、この研究に興味がでてきました。非常に興味深い出身者がいたり、四境戦争があったり、日本一高齢化の進んだ島であったり。また国際総合科学部の4年生の課題解決研究(PBL・周防大島の高齢化、子育て世代の移住・定住がテーマ)でのパートナーが周防大島で、そのプロジェクトの主担当になり、大島をより知るきっかけになりました。つまり、ハワイ移民の歴史を知り、6次産業をはじめとする新しいことに取り組む島として盛り上がっていること、PBL関連でも人との繋がりができたことなどが下地になり、日本ハワイ移民資料館の館長が積極的で、最近ハワイから日本に来る人が増えているということも手伝って、大島を基点にした包括連携や研究ができないかと思ったのがきっかけです。

具体的にどのようなことをするのですか?

 日本ハワイ移民資料館にある移民者情報データベース(明治政府とハワイが取り決めをした渡航記録3万件)は、これまでルーツ探しの情報検索に用いられてきたのですが、本プロジェクトでは、移民者情報データベースにあるそれぞれの移民者の住所地を地理情報システム(GIS:Geographic Information System)にマッピングし、他の情報と重ねて表示することで、視覚的にそれらの関連性を見出す手法をとります。例えば周防大島内でも移民者の出身地がある地域に偏在していたり、人口増加率や所得などの数値、農村部や漁村部、また他の地理的要因に関連したりしているなどが明らかにできれば、従来の学説に新たな知見を加えるができます。また、留学としての渡航も多かったと言われていますので、その辺りも分析していきたいです。日本からハワイへ渡った人々は現地で教科書、コミュニティー紙などを発行し、また海外在住の沖家室出身者の情報も掲載した双方向の雑誌『かむろ』を発行していたのですが、この特徴的な雑誌はこれまで文学表現として、分析されてきていません。そこで、ハワイで使われた教科書や移民による文学作品や雑誌『かむろ』についても分析に加え、伝えたかったこと、その文学表象としての意義等について検証します。また、移民・難民を扱う資料映像を使ったて、人が移動することの意味や発生する課題などの理解を深め、座談会のような意見交換会を開催して、比較文学・文化の視点と談話分析を使って、地域住民が「ハワイ移民」に持つイメージ(出稼ぎに行っていたということもあり、移民ということを隠している人もいた)や暗に今後に期待する事等の表面化しづらい部分の分析を行うことで、島民とハワイに暮らす日系人のニーズに合った交流支援ができるようになると考えています。

最後に一言お願いします。

 大学にいるので、教育研究分野で大島とハワイとの交流を密にできたらいいと考えています。折りしも、山口大学ではハワイのカウアイコミュニティーカレッジと交換留学を始め、現在の交流学生数は2名なので、交流する人を増やしたいですし、将来的には遠隔講義ができればいいと思っています。新規事業としてはいろいろありますが、大学人としては教育の分野で特に交流を深めていきたいです。

プロジェクト(5)/研究代表者:西尾 建 准教授(経済学部)
 プロジェクト名:SDGsによる山口県内スポーツ観光資源の開発

 

西尾先生

  

概要を教えてください。

 本研究プロジェクトは、持続的開発目標(Sustainable Development Goals―SDGs)をベンチマークにして山口県のスポーツ観光資源開発を進めていくことが目的です。海外では、SDGsを観光開発の目標に考えるという研究も少しづつ出てきているのですが日本ではこの分野の研究はほとんどなく私にとってもチャレンジになります。山口大学に来る前は、観光大国ニュージーランドにある大学に勤務していたのですが、山口県も、ニュージーランド同様自然資源が豊富で、秋吉台、青海島、周防大島など自然と組み合わせた活動やマラソン大会などのスポーツ観光資源があります。一方、見るスポーツ、支えるスポーツでもJ2のレノファ山口FCや2019年全国総合優勝を果たしたラグビーセブンスの女子チームである長門ブルーエンジェルズもあります。これらのスポーツ観光資源は地域へのロイヤルティーや経済の活性化につながります。マクロ面では政府の積極的なインバウンド政策などで、国内に外国人観光客が急増しましたが、国内の人気観光地ではオーバーツーリズムになり地域住民との摩擦や環境への影響も出てきて社会問題になっています。さらに政府は、2020年に4000万人、2030年に6000万人というインバウンドの目標を掲げています。持続的なスポーツ観光資源の開発には、従来の経済、観光からだけでなく、環境や食農の面からのアプローチも重要になってきます。地元観光系企業とのネットワークのある朝水宗彦先生、理学分野では、生物生態系の環境評価を専門とする堀学先生を中心にスポーツ観光開発前後の環境評価を、農学分野では、農業経済を専門とする種市豊先生を核に農学分野の研究者との融合を図ってサポートいただき、研究を進めていきます。学外では、スポーツ観光を推進している山口県庁スポーツ文化部とスポーツ観光資源を管轄する市町村の担当者も加わってもらい進めて行きたいと考えています。秋芳洞の世界ジオパークへの登録を目指している美祢市、ラグビーワールドカップのカナダチームの事前キャンプを招致した長門市およびJリーグのレノファ山口FCの担当者でスタートしますが、今後開発していくスポーツ観光資源のある該当市町村の担当者を随時推進体に加わっていただき県内のスポーツ観光のステークホルダーを広げていたいと考えています。

プロジェクトを計画しようと思ったきっかけは何ですか?

 私が以前住んでいたニュージーランド同様、山口県は素晴らしい自然環境の魅力があり、スポーツ観光のポテンシャルがあるのですが、その魅力が十分に旅行者や来訪者、特に外国人にその魅力が伝わっていないと思い、自分の専門分野のマーケティングの観点から山口県のスポーツ観光資源の魅力を伝えていきたいと考えました。ただし今日本の人気観光地が抱えているオーバーツーリズムの問題も考慮して、将来的にはSDGsの項目をもとに、バランスをとりながらスポーツ観光開発を進めていく必要があると思ったこととがきっかけです。

具体的にどのようなことをするのですか?

 初年度は、山口県内における現在のスポーツ観光資源(参加するスポーツである自然観光源を活用した観光商品やマラソン大会、マリンスポーツなどの大会などと、見る、支えるスポーツであるレノファ山口FCや長門ブルーエンジェルスなどの関連イベントなど)と今山口県にある潜在的スポーツ観光資源のリストアップを行い、自治体へのインタビューおよびSDGsの17の指標の検討を行います。また、観光資源には、観光農園や民泊、山口県の持つ自然環境の融合なども重要となり、観光客は、スポーツ観戦の後、新たな立寄先も求めています。持続的な観光資源を開発するためには、スポーツ・食農・自然の調和が重要であると考えられます。すでに今シーズンJリーグ開幕からレノファ山口FCでアウエイファンの調査を実施しており、この調査結果も活用していきます。2年目ですが、既存のスポーツ観光資源の継続調査に加えて潜在的スポーツ資源の開発と調査をスタートさせ、当プロジェクトをインバウンド(国際観光)の観点からも検討していきます。また秋吉台では、世界ジオパークへの登録もあるためスポーツ観光開発に関する調査を進めていきます。食農の面では、山口型地産地消を目標としている農業法人や食品産業の観光面との融合や農家民泊に関する調査を進めます。また、既存のスポーツ観光資源に関する調査に関するワークショップやシンポジウムを県内で行い、地域コミュニティーと意見交換も行なっていきます。最終年には、スポーツ観光資源の整理分類とSDGsの適用尺度を使って分析を行う予定にしています。本分野は日本での研究が少ないため、海外の事例も参考にしていきます。前職のニュージーランド国立ワイカト大学とは、研究提携協定を結びました。2019年、ワイカト大学から専門家を招致して洞窟観光とスポーツ観光のレガシーに関するセミナーを開催しましたが、参加した県内自治体担当者の方の関心は高かったです。山口学での研究成果は、文理両分野での学会発表などを通じて研究のプレゼンスを高めていきます。2019年7月に経済学部、農学部、理学部合同で山口県内のスポーツ観光資源に関しての学生の第1回の意見交換会を行いました。今後も定期的に学生セッションを企画して学生の意見もプロジェクトに反映させていきたいと考えています。

最後に一言お願いします。

 山口県は自然資源が豊富なので、スポーツ観光の持続的な成長につなげていくためにはSDGsの活用が重要になってくると考えます。SDGsを使ったスポーツ観光開発は他県ではまだ前例がないので大学としても新たな取り組みとしてのチャレンジになりますし、国際的にも「山口」を発信していくチャンスでもあります。さらにこのプロジェクトに関係して、農学部や理学部と共同(経済学部)でゼミ活動などの学生交流を行うことによって、広い視野を持った人材の育成をしていきたいと考えています。

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