プロジェクト

(1)山口県防府地域の社会変遷と古気候に着目した土砂・水災害史の編纂

(2)山口から始める文化財修復と日本画の新潮流

(3)古代テクノポリス山口~その解明と地域資産創出を目指して~

(4)グローカルな視点で考える山口県の歴史・文化・自然・産業

(5)山口県周遊観光の活性化のための観光客動態データ収集システムの開発と活用および観光客受け入れを含めた山口型エコ交通システムの検討

プロジェクト(1)/研究代表者:鈴木 素之 教授(創成科学研究科(工))
 プロジェクト名:山口県防府地域の社会変遷と古気候に着目した土砂・水災害史の編纂

 

 鈴木教授写真

  

概要を教えてください。

 本研究プロジェクトは、山口県防府地域を対象として、集落・社会インフラ・経済活動などの社会変遷と年降水量などの古気候データを取り込んだ『土砂・水災害発生年表』を作成し、それを地域社会に発信して地元の災害史への関心を呼び起こすとともに、「郷土愛」の重要性を認識させることを目標としています。また、編纂した土砂・水害史をもとにした『長期リスクマップ』によって確かな防災戦略を描き、それを地域社会に提案します。更に「時間防災学」研究プロジェクト等と連動して、歴史的タイムスパンから見て「安全・安心な場所は何処であるのか」を解き明かすことを目指します。
 本プロジェクトでは、「時間防災学」研究プロジェクトで作成した過去1000年間の『土砂災害発生年表』に社会変遷と古気候の知見を加え、防災学だけでなく人文社会学、気象学の見地から重層的な学術的価値をもつ災害年表に進化させることを目的としています。
また、山口県に残存する歴史資料を解読することによって、災害のローカル性が判明し、地域の成り立ちについて理解を深めながら、先人の自然観や安全意識を推察し、現在の人々の防災に役立てることも狙いとしています。

プロジェクトを計画しようと思ったきっかけは何ですか?

 中国地方は土砂災害が多く、例えば本研究の対象となっている防府地域では、皆さんの記憶に新しいと思いますが、平成21年7月21日に防府市で大規模な土石流災害が発生しました。平成2年も防府地域では土砂災害が発生しており、数10年に1回発生している状況です。土砂災害は「異常気象のせい」と片付けられやすいですが、実は、同じ場所で繰り返し発生している事が多いのです。そうしたこと解明することで、新たな防災、減殺対策に役立つと思い、本研究プロジェクトを計画しました。

具体的にどのようなことをするのですか?

 樹木年輪セルロースに含まれる酸素同位体比を測定し、樹齢各年の相対湿度・年降水量を推定します。
 古気候の復元作業では、専門家の協力を得ながら進める予定です。気象データが取得できる年代まで遡り、降水量の観測値と推定値の相関を調べ、酸素同位体比による推定精度を検証します。

 推定された年間平均降水量は『土砂災害発生年表』に追加します。放射性炭素年代測定による土石流堆積物の形成年代、古文書の災害記事と照合し、本地域の古気候の復元精度を検討する予定です。 

最後に一言お願いします。

 災害は、どこでも災害が起こるというわけではなく、地盤が弱いなど起こるべくして災害が起こっており、同じ様な場所で同じ様な災害が繰り返し起こるなど、地域によって特徴があります。例えば、この山の沢から20年に1度土石流が流れる。起こった土石流がどこまで到達したか知るなど、地域の災害の歴史を知ることによって防災に役立てる最も有効であると思っています。
 この度のプロジェクトでは、古くからその土地にどのような形で人が住んでいたかということを考えながら、災害について研究していく予定で、住民や学生を対象にした講演会も実施いたしますので、興味をもった方は是非ご参加ください。

プロジェクト(2)/研究代表者:堤 宏守 教授(創成科学研究科(工))
 プロジェクト名:山口から始める文化財修復と日本画の新潮流 

 

 堤教授写真

  

概要を教えてください。

 この研究プロジェクトの表題にある日本画は、少し広い意味で考えており、寺や神社にある板画や壁画等の文化財も含まれています。日本画は、岩絵具(色の付いている鉱物を砕いたもの)と膠(にかわ)と混ぜて絵具にして、布や板、紙など(基底材と呼びます。)に描くものです。膠は動物の皮や腱に多く含まれるコラーゲンを主成分とする物質で、ここでは岩絵具を基底材の表面に留まらせる接着剤の役割を果たしています。この膠が年月を経て劣化すると、岩絵具(石の粉)が基底材から剥がれ落ちてしまいます。この剥がれ落ちるのを防ぐために、過去(特に昭和30年代~40年代)に合成樹脂を吹きつけて修復したところ、当初透明であった合成樹脂層が白く濁り絵が見えなくなったり、合成樹脂層が絵画ごと剥がれてしまったりすることが大きな問題となっています。
 本プロジェクトでは、宇部市在住の日本画画家であり文化財修復の第一人者でもある馬場良治先生が独自に開発された膠を用いた絵画修復技術について、その学問的裏付けを行うとともに、それを発展させ、新しい文化財の修復方法として確立することを目指しています。

プロジェクトを計画しようと思ったきっかけは何ですか。

 昭和30年から40年代にかけて修復に使用された合成樹脂を用いた剥落防止剤が白く濁って絵が見えなくなってきていることや、それを除去しながら修復できる独自の技術について、選定保存技術保持者に認定されている馬場先生から相談がありました。馬場先生は、平等院鳳凰堂をはじめとする、各地の寺社の板絵や壁画の修復を独自に開発された手法を用いて行っておられます。この手法に対する科学的裏付けがはっきりしないことから、その作用機構を解明し、さらに広汎な修復方法として確立したいという強い希望を馬場先生はお持ちでした。また、山口県内や近隣地域において、修復されないまま放置されている文化財がたくさんあり、これについても大学の力を利用して地域貢献という形で何とかできないかといったところが出発点です。

具体的にどのようなことをするのですか。

 このプロジェクトでは、顔料関連グループ、膠関連グループ、文化財修復・美術史グループの三つのグループに分かれて、開発された膠がどうして有効に働くのか、その膠で修復すべき文化財が、どこにどのくらいあるのかを中心に調査していきます。
 顔料関連グループでは、岩絵具の原料になりうる山口県内の鉱物や岩石に注目した研究を理学部の研究者を中心に進めていきます。膠関連グループでは、膠の分子の化学構造や機能に関する研究を医学部や理学部の研究者を中心に、文化財修復・美術史グループでは、教育学部の研究者を中心に美術史的、歴史的な背景を調べるとともに、開発した膠で修復可能な文化財がどのくらいあるかを調査する予定です。今年度は、この3グループがそれぞれに独立して研究活動をして、今後の連携の方向を探ると共に、各グループには、本学の学生にも様々な形で参加してもらい調査、研究することを計画しています。

最後に一言お願いします。

 文化財修復の世界はいろいろと難しい問題があるようです。修復に携わる人も少ない、予算も少ない、しかし修復すべき文化財は山ほどある。修復するにも、剥がれないようにするだけなのか、元の姿に戻すのか、持ち主(修復の依頼主)の想いもあり、修復には美術的な感性も必要です。
 日本画の基礎となっている手法は、もともと中国から、朝鮮半島を通って日本に伝わってきたものです。現在は、中国や朝鮮半島ではそうした手法に対する技術や文化が失われつつあり、文化財の修復ができる人が少なくなっています。山口で開発された膠を用い、修復の必要がある文化財に新しい技術を使用して修復を行っていき、さらには、文化財修復ができる技術者を育成し、中国や朝鮮半島の文化財修復支援に繋げていきたいと考えています。
 新しい日本画の表現手法の発見までみつかるといいのですが、まずは、科学的の裏付けのある文化財修復技術を山口から発信できると良いなあ、と思っています。

プロジェクト(3)/研究代表者:田中 晋作 教授(人文学部)
 プロジェクト名:古代テクノポリス山口 ~その解明と地域資産創出を目指して~

 

田中教授写真

  

概要を教えてください。

 山口県域がもつ歴史、文化的特性というと、幕末・維新期や大内氏関係をイメージされることが多いですが、これに匹敵するもう一つの大きな特性があると私は思います。それは、山口県域が「古代テクノポリス山口」とも形容すべき、古代日本を代表する最先端鉱工業地域のひとつであったことです。銭貨の鋳造が長門鋳銭所(下関市)・周防鋳銭司(山口市)で行われ、東大寺盧舎那仏造立に使用された銅が長登銅山(美祢市)で採掘されました。このような古代国家における経済的基盤や宗教的人心掌握の根幹をなす事業が、政権の中枢がある畿内から遠く離れた山口県域を舞台に展開された背景には、当県域でなければならない必然性があってのことと考えられます。その実態解明が、本プロジェクトの第一の目的です。
 次に第二の目的は、各種研究、調査を学術研究の枠内にとどめるのではなく、地域・行政・大学の協働によって実施し、これにより地域力・住民力の醸成を図るとともに、その成果を活用することによって、地域創生、地域活性化のツールとなる「地域資産」の創出を目指すことです。例えば、周防鋳銭司跡・長門鋳銭所跡・長登銅山跡を核にした「日本遺産」への登録などがその具体的な目標となります。長登銅山跡は平成27年度から本格的な史跡整備を目指した調査がはじまっており、長門鋳銭所跡は奈良文化財研究所が木簡の釈読に参画しています。ここに、鋳銭司・陶地区総合調査の主たる対象となる周防鋳銭司跡での成果を加えることができれば、「日本遺産」への登録実現が十分視野に入ってくると考えています。

プロジェクトを計画しようと思ったきっかけは何ですか?

 私は関西の出身ですが、山口大学に赴任した時、山口県は古代に鉱工業がとても盛んであったことを知りました。
 当時、うちつづく災害や疫病、騒乱といった社会的不安の克服を仏教に求めました。そのために全国に国分寺・国分尼寺を配し、総国分寺である東大寺と総国分尼寺である法華寺が建立され、東大寺の本尊として大仏が造立されました。この大仏の造立に、山口県で産出した銅が使われたのです。また、国家財政を支えた「貨幣」を鋳造する、現在でいう造幣局が山口に置かれています。しかし、大仏の造立がなぜ山口県の銅でなければならなかったのか、また、貨幣の鋳造がなぜ当時の都やその周辺でなく山口県で行われたのか、その理由がわかりません。こうした不思議を解き明かしたいと思ったことがきっかけです。

具体的にどのようなことをするのですか?

 平成28年度は、山口市と一緒に、山口市の鋳銭司地区と陶地区を中心に調査する場所の選定や、今後どのように保存、活用していくか等の計画を立て、国に調査を実施するための許可申請をする予定です。
 国の許可が得られれば、来年度以降、学生や地域の人たちの協力のもと、発掘調査を含むさまざまな調査に着手していくことになります。日本初となるような貴重なものが発見されることを期待しています。

最後に一言お願いします。

 高校生までは、唯一確定している答えを、いかに早く正確に導き出すかという練習をしてきたと思いますが、大学は違います。この度のプロジェクトのように、答えが確定していない課題に対して、合理性、妥当性のより高い答えを探し出していくことが求められます。そのためには、良質で豊かな知識、経験等の裏付けが必要になります。大学は、自らが問題をつくりこれに答えを出していく、そうした能力を養う場所だと思っています。
 また、現場での体験や地域の人たちとの交流等、様々な経験は、学生の皆さんの人間的な成長をも培ってくれるでしょう。本プロジェクトのような事業に積極的に関わることによって得た経験や知識は、きっと今後の皆さん自身の財産になると思います。

プロジェクト(4)/研究代表者:楮原 京子 講師(教育学部)
 プロジェクト名:グローカルな視点で考える山口県の歴史・文化・自然・産業

 

楮原講師写真

  

概要を教えてください。

 山口県はグロ-バルな視点を持つ歴史が展開された地であり、そうした歴史から醸成された文化や産業、あるいは歴史を支えた自然を通しながら、郷土から世界を見渡すことのできる恵まれた地でもあります。しかし、こうした地域の魅力とも言える事柄が、人々に広く理解されているとは言いがたく、地域学習の土台となっている学校現場においてもそのような教育は、あまりなされていないのが現状です。
 そこで、本研究プロジェクトでは、中・高・大の連携体制を築き、各学校において「山口と世界」を考える山口歴史マップを作成し、それらの成果を集約、発信するものとしてICTを活用したインタラクティブな地域学習サイト「やまぐちアーカイブ」の構築を目指します。特に、中・高・大の連携においては、教員同士の研究活動のみならず、実際に生徒や学生の地域学習の一環として、身近な地域の歴史を掘り下げ、そこから見えてくる山口と世界とのつながりを、フィールドワークも交えながら考える活動を実施します。それは、まさに「山口県教育振興基本計画」が掲げる「郷土に誇りと愛着を持ち、グロ-バルな視点で社会に参画できる子ども」の育成を実現しようとするものであります。また、歴史を掘り下げる中で、そうした歴史が生まれた背景を、社会や政治など人文的要素のみならず、自然的要素との結びつきを含めて検討することにより、地域の自然環境を深く知る事につながると考えます。子どもたちを通して、未来へと人の流れがつながっていく「学校教育」という場を活かし、地域の魅力を理解し、他者に、そして世界に、誇りを持って発信できる人材が育つ基盤を、この山口県に創造したいと思います。

プロジェクトを計画しようと思ったきっかけは何ですか?

 時代は遡って鎌倉時代、奈良の東大寺を再建するために使った木材は、山口市徳地の木材が使われたとされております。当時、木材は川の流れを利用して運ばれていました。
 ある飲み会で、たまたま隣に座った高校の先生と、徳地の木材を、当時どのようなルートで奈良の東大寺まで運んだのだろうか?ということで話が盛り上がり、実際の地形や川の特徴を踏まえて、ルートを考えてみるとどうかなど、歴史をいろいろな分野からみると、さらに面白いと思ったのが最初のきっかけです。(笑)

具体的にどのようなことをするのですか?

 実際に歴史の舞台となった現地に行き、見たり聞いたり触れたりする、フィールドワークを中心に考えています。そこで得た情報を、デジタルデータに置き換えて専用サイトに掲載し、利用者自らが学べるものをつくる予定です。学校の先生たちや地域の人たちなどにも使ってもらえる、使いやすいものをつくっていきたいと考えています。
 フィールドワークの場所として平成28年度は、先ほどお話しした東大寺の大仏に使われた銅の産地と言われている長登銅山や、弥生人の人骨が見つかった土井ヶ浜、古代渡来人が作ったのではないかと想定している古い石垣がある光市の石城山を予定しています。

最後に一言お願いします。

 皆さんが大学入学試験を突破し、山口大学に来たわけですから、ただ普通に過ごすのはもったいないと思っています。山口県には大変面白い歴史があるので、色々な角度から見て学んで欲しいですね。
 この「色々な角度から見ること」を身につけると、地域が変わったとしても、他の人よりも広く深くその地域を知ることができます。これは俗に言う「気の利いた人」に通ずるものがあり、他の人が気づかない事に気づく、そのことで新しい発見が生まれるなど、研究者や社会人にも大切な視点です。
 この能力を身につけるためには、日々、色々な方向を見て観察する癖をつけるようにしたら良いと思います。サポートしていただける学生の募集も行っていきたいと思いますので、是非ご応募ください。

プロジェクト(5)/研究代表者:野村 淳一 准教授(経済学部)
 プロジェクト名:山口県周遊観光の活性化のための観光客動態データ収集システムの開発と活用および
         観光客受け入れを含めた山口型エコ交通システムの検討

 

野村准教授写真

  

概要を教えてください。

 山口県の観光の活性化には山口県全体に広く散らばる魅力的な観光資源をつなぐ経路自体を魅力的にすることが有効であると考えおり、そのためには、利用者が多く、柔軟に山口県の観光を楽しめる自家用車利用者に焦点を当て、その実際の動態を調査することが重要であると考えております。現在は、スマートフォンが普及しており、その位置情報を活用することで、観光客の動態を把握することが可能となっています。本研究プロジェクトでは、山口県の観光客動態データを収集するアプリを開発し、そのデータを活用して自家用車による魅力的な周遊観光ルートの提案、駐車場・案内板などの改善、山口県観光の魅力の発信に取り組みます。

プロジェクトを計画しようと思ったきっかけは何ですか?

 本学の経済学部に観光政策学科ができた約10年前、ICタグという位置情報を取得するシステム技術を活用して、今回のプロジェクトで話をしたような観光客の動態を把握するプロジェクトがありました。当時の学部長が2年~3年くらいかけた実験でしたが、ICタグ関連機器を設置するためのコストが高く、狭い範囲での調査しかできませんでした。
 当時、私はあまり深く関わっていなかったのですが、この調査をもっと広い範囲でできれば、様々な有益な情報が集まり、もっと面白い分析ができると思っていました。
それから時は流れて技術も進歩し、スマートフォンの普及により、専門的な機械がなくても、低コストで同様の実験ができるようになってきており、10年来、もやもやしていたことが、今こそ解決できると思ったことが、今回プロジェクトを計画したきっかけです。

具体的にどのようなことをするのですか?

 学生には、積極的に関わってもらおうと考えています。具体的には、学生におすすめ観光ルートを企画してもらい、実際にその通り自動車で動いてもらう。その動きがしっかりデータとして集約できるかということを確認することと、実際に行ってみて分かる魅力や不満等の情報も集約していきたいと思っています。
 平成28年度は、こうした位置情報を集約できるシステムを構築し、データベース化し、次年度には、アプリの開発に取り組んでいきたいと思っています。

最後に一言お願いします。

 今回、山口大学発のベンチャー企業にアプリ開発を任せようと考えています。こうした、山口大学で育ち生まれた芽と山口大学とが共同で事業を行うような環境が整えられたら、今後、起業家を目指す学生たちの良い刺激になると思っております。また、本プロジェクトに関わった学生たちが、データ分析等のスキルを身につけ、卒業後も、観光分野や官公庁の核となる人物として成長してもらえたら嬉しいです。

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