私の研究

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蛋白質を生かす

松冨 直利 

 教授
 農学部生物資源科学科
 応用生物化学

 二十世紀後半の生命科学時代の主役はDNAと蛋白質だと言われてきた。折しもこの世紀末に狂牛病やアルツハイマー病で名を駆せた原因物質がプリオンやアミロイドという蛋白質であったということの記憶は新しいでしょう。

 私は、農学部生物資源科学科に所属し、食糧機能化学分野の教育・研究にたずさわっており、とくに、食品蛋白質を研究の対象としている。食品蛋白質は分類上、生理活性機能あるいは触媒機能を持たない貯蔵蛋白質として取り扱われているが、摂取する側にとっては、生体に対する栄養素(源)として、あるいは生体構成成分として生命維持に強く係わっている。近年、この食品蛋白質に新しい機能が見つけられるとともに、新しい機能の付与が求められるようになってきている。すなわち、生体の感覚に与える機能、旨いとか、歯ざわりがいいとか、などの嗜好性につながる感覚機能はもとより、体調リズムの調節、生理刺激機能や生体防御、疾病防止と回復、老化抑制といった生体調節機能が求められ、「医食同源」という言葉がまさにピタリと当てはまる。食品蛋白質の潜在的な機能を顕在化させるとともに、新しい機能を付与したり、強化したりして、蛋白質の品質をより優れた機能素材へと人為的に変換することも必要になってきている。

 食品蛋白質の機能変換について触れることにしよう。食品素材として、その加工・利用適性を高めることが求められる。溶解性を高めたり、乳化性・泡立ち性などの界面機能を改良したり、ゲル化しやすくするなどの性質を蛋白質に付与することである。その手法としては、化学的、酵素的、あるいは蛋白質工学的方法がある。蛋白質はDNAと比較して、非常にこわれやすい箱入り娘のようだといわれ、高次構造に折り畳まれる段階にも介添え役の分子シャペロンを必要とするくらい華奢である。それゆえ生理活性等を有する蛋白質の取り扱いには慎重さが要求される。裏を返せばほんの少し変化を与えるだけで、その機能特性を大きく変換することが可能なわけである。メレンゲは卵白を泡立て器でかき混ぜて作るのを御存知でしょう。これは卵白蛋白を気ー液界面に置き、十分に空気に触れさせることで、変性蛋白間の会合を促進し、空気をしっかり包み込ませたもので、卵白蛋白の界面(表面)変性を利用したものである。また、温和な酸で大豆蛋白や小麦蛋白を処理すると、これら植物蛋白質中のアスパラギンやグルタミン残基で脱アミドが起こり、高次構造を構築していた水素結合が崩壊されるとともに、分子内の静電反発が生じて蛋白分子がほぐれ、分子表面の疎水ー親水バランスの再構築により、溶解度の改善や高乳化能を発現させうる。また、食品蛋白質の機能素材として重要な特性にゲル化能がある。水ようかんやプリン、あるいはゆで卵を想像していただければ、身近に捉えることができるでしょう。ゲル化特性の改善に関する研究例を示そう。卵白粉末を事前に乾熱処理するだけで、その卵白水溶液からの加熱ゲルは透明で、しかも堅くなる。鶏卵は黄身と卵白からなり、ゆで卵は卵黄ゲルを卵白ゲルが包んだものである。茹でると卵白は真白なゲルになることから名付けられた(?)のだが、それが透明ゲルになる。卵白蛋白の加熱ゲル化メカニズムは複雑(12 種の蛋白質が卵白中に存在するため)で十分には解明されていないが、最近、卵白アルブミンが、オボトランスフェリンの熱凝固性を抑制すること、さらにリゾチームとの加熱凝固性を失うことを見いだした。乾熱処理することにより卵白アルブミンが上記のような新規機能を発揮し、変性蛋白間でしっかりした骨組み(ネットワーク)を構築して、溶媒をしっかりと包み込んでいる様子を捉ええることができた。卵白アルブミンの構造特性は、今後遺伝子工学的手法からも明らかにしていく予定であるが、ご承知のように鶏卵は、条件さえ整えば(受精卵であれば)ヒヨコが生まれる、いわば生命のカプセルでもある。それゆえ、生命の発生や維持のために二重三重の安全対策が取られているはずだ。鶏卵卵白中最も多量にある卵白アルブミンが、抗菌活性を有するリゾチームやオボトランスフェリンの不活性化を防止するのもうなずけるかもしれない。同じような現象、すなわち卵白の加熱白濁化の抑制が、ポリアニオン性多糖(デキストラン硫酸)の共存でも見られた。全く構成成分の異なる蛋白質や多糖が、蛋白質の加熱変性や凝集に類似の作用を示すことは、蛋白質の構造と機能の関係を明らかにする際に大いに役立つであろう。

 最近、貯蔵蛋白質といわれている蛋白質にも、発芽や発生段階で新しい生理機能が見いだされてきている。今後益々これらの蛋白質の構造あるいは会合体としての生理的役割が明らかになるであろう。そして、この生理機能を活かすことも求められるにちがいない。「21世紀は蛋白質の時代」といわれる。蛋白質を扱う者の一人として、蛋白質を生かし、活かさねばと心引き締めている次第である。

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