国立大学法人 山口大学

本学への寄付

免疫でがんに挑む CAR-T細胞療法 ~新しい免疫療法の開発:山口から世界へ

 

 山口大学大学院医学系研究科・免疫学講座の玉田耕治教授らの研究グループは、固形がんに対して極めて治療効果の高い免疫機能調整型次世代キメラ抗原受容体発現T細胞である『PRIME CAR-T細胞』を開発しました。

 がんは我が国における第一位の死亡原因であり、2021年の死亡総数に占める割合は26.5%です。これは全死亡者の3~4人に1人はがんで死亡したことを意味しており、そのため、がんに対する効果的な治療法・再発予防法の開発が急務です。

 がん免疫療法の研究開発は、従来の外科療法、化学療法、放射線療法とは異なる第4のがん治療法として進展しています。特に、CAR(Chimeric Antigen Receptor)の遺伝子導入によりがんに対する反応性を高めたT細胞を患者さんに投与するCAR-T細胞療法は、2018年にノーベル生理学・医学賞の対象となった免疫チェックポイント阻害薬(抗PD-1抗体)に続く、極めて有望な新技術として注目されています。現在、欧米や中国を中心に臨床試験が進行しており、白血病やリンパ腫などの血液がんに対して優れた治療効果が報告されています。

 しかし、がん免疫療法のブレイクスルーの一つとして近年高い注目を集めているキメラ抗原受容体発現T細胞(CAR-T細胞)療法は、血液がん(白血病、悪性リンパ腫など)には著明な治療効果を発揮する一方で、これまでのところ、がんの多くを占める固形がん(胃癌、肺癌、大腸癌、乳癌など)に対しては効果が乏しいとされていました。固形がんに対するCAR-T細胞療法では、腫瘍部分でのCAR-T細胞の集積と増殖が重要だと考えられていますが、現状ではこの問題を解決する技術は確立されておらず、CAR-T細胞療法における最大の課題の一つとなっています。

 私達研究グループは、免疫機能をコントロールする能力をCAR-T細胞に追加することでこの問題の解決が図れるのではないかという考えに基づいて研究に取り組み、免疫機能調整能力を有する次世代CAR-T細胞を『PRIME CAR-T細胞(Proliferation-inducing and migration-enhancing CAR-T細胞)』と命名し、その開発に取り組んできました。2018年にはIL-7と呼ばれるサイトカインとCCL19と呼ばれるケモカインの両方を同時に産生する能力を有するCAR-T細胞を新規に開発しました。

 

 

 マウスモデルを用いた研究により、7×19 CAR-T細胞は腫瘍内部にT細胞や樹状細胞の著しい浸潤を誘導し、投与を受けた宿主側のT細胞と協調して相乗的に極めて強力な抗がん効果を発揮することを証明しました。さらに7×19 CAR-T細胞の投与によって治療を受けたマウスには長期的ながんに対する免疫記憶も形成されており、がんの再発を予防できる可能性があることも明らかにしました。

 従来のCAR-T細胞はがん細胞を直接殺す機能ばかりに注目が集まっていましたが、PRIME CAR-T細胞技術は、生体にもともと備わっている免疫機能をコントロールする分子の「デリバリーシステム」としての役割も担っており、これまでのCAR-T細胞の概念を大きく変えるパラダイムシフトと言えます。PRIME CAR-T細胞技術が、これまで血液がんにしか有効性が認められなかったCAR-T細胞療法の適応範囲を固形がんにまで拡大させる、画期的な固形がん治療法につながることが期待されており、今後の実用化に向けて臨床研究を進行中です。

 がん免疫療法の研究開発は、山口大学の研究費や公的研究費、企業からの資金を用いて実施していますが、より質の高い研究を行い、1日も早い実用化を目指すには、更に研究費が必要です。
 より多くの患者様により良い治療を提供できるよう日々研究に邁進します。
 皆様の温かいご支援を賜りますよう、心よりお願い申し上げます。

 

出 典

リンク

玉田研究室HP
http://ds.cc.yamaguchi-u.ac.jp/~immunol/

 

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