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山大研究Q&A Vol.1「猫ひっかき病」について

山大研究Q&A Vol.1「猫ひっかき病」について

 犬や猫を飼っている家庭は多いですが、「猫ひっかき病」という病気があるのをご存じですか。知らないと意外とこわい「猫ひっかき病」について、研究の第一人者である本学大学院医学系研究科保健学専攻病態検査学講座の常岡英弘特命教授と大津山賢一郎講師に聞きました。

Q.猫ひっかき病とは、どんな病気ですか

その名のとおり、ネコに引っかかれるなど、ネコとの接触によって感染する病気です。その病原体は「バルトネラ・ヘンセレ (Bartonella henselae)」という細菌です。ネコは感染しても症状が出ませんが、人はリンパ節が腫れる、発熱するなど、さまざまな症状が現れ、免疫力が低下した人は重症化する場合もあります。

Q.どのようにして感染しますか

感染したネコの血液(赤血球)内には、バルトネラ・ヘンセレが存在します。ネコノミがネコに寄生して血液を吸うと、バルトネラ・ヘンセレを含んだフンが体の表面に排泄されます。ネコのグルーミング(毛づくろい)により排出されたバルトネラ・ヘンセレがネコの爪や歯などに付き、感染源となります。また、ネコノミから直接感染することもあります。ネコノミはイヌにも寄生するため、イヌから感染する場合もあります。ネコに引っかかれたりしていなくても、感染したネコに触れた手で目をこすったり、手に小さな傷があったりするとそこから感染することがあります。

Q.発症すると、どんな症状が出ますか

ネコとの接触や、ネコに引っかかれたりした後、数日から2週間のうちに、受傷部位の皮膚に赤紫色のブツブツが現れたり、水ぶくれになったりします。さらに1・2週間後には痛みを伴うリンパ節の張れや発熱が現れ、全身の倦怠感や胸のむかつき、嘔吐、頭痛、食欲不振を伴う場合があります。まれに、視神経網膜炎や不明熱、多発性肝脾肉芽腫、心内膜炎、脳症などの症状が現れることもあります。


Q.どういった人が感染しやすいですか

子どもから大人まで幅広く感染しますが、特に15歳以下が感染者全体の6割を占めています。その理由として、子どもは猫に接触する機会が大人より多いと考えられます。例えば、路上などで野良猫に遭遇した場合、子どものほうが、無防備な状態で気軽に野良猫と接触していると考えられます。


Q.病院を受診するタイミングは、いつが適していますか

猫と接触した後、リンパ節の腫れや発熱が見られた場合、また何かしらの体の異常を感じた場合には、医療機関を受診する方がよいでしょう。
①猫との接触 ②リンパ節の腫れ ③発熱
この3つが該当するなら、猫ひっかき病の可能性がありますが、まれに、リンパ節の腫れが見られないケースもありますので、ご自身で判断するのは容易ではありません。

当研究室で行っている、バルトネラ・ヘンセレ抗体価を測定する『間接蛍光抗体法(血清学的方法)』で陽性であれば、容易に診断可能です。


Q. 『間接蛍光抗体法(血清学的方法)』とは、どんな検査ですか

猫ひっかき病の診断には、リンパ節からバルトネラ・ヘンセレの特異遺伝子を検出するPCR法と、血清中のバルトネラ・ヘンセレIgG/IgM抗体価を測定する血清学的方法があります。しかし、前者のリンパ節生検は、体に負担を与える侵襲的検査法であり、積極的に行われるべき検査ではありません。一方、後者の血清学的方法は、採血のみで猫ひっかき病の診断が可能な非侵襲的検査法です。当研究室では、この血清学的方法である『間接蛍光抗体法』による診断法を実施しています。しかしながら本法は抗原作成に多大な時間と技術を要し、また結果の判定には熟練を要するという欠点があり、一般病院では実施されておりません。なお、当研究室は日本感染症学会・日本臨床微生物学公認の先進的感染症検査施設のうち、唯一猫ひっかき病検査が可能な施設として登録されています。
参考 日本感染症学会・日本臨床微生物学会 先進的感染症検査マップ https://www.kansensho.or.jp/modules/idmap/index.php?did=13


Q.猫ひっかき病の感染を疑う場合、何科を受診するべきでしょうか

小児では小児科、大人であれば内科、また視力の低下など目の症状があれば眼科などを受診しましょう。問診時には、ネコ・イヌとの接触歴があることを必ず主治医に伝えることが重要です。


Q.どのような治療法がありますか

猫ひっかき病の典型的な症状を有する場合は、特別な治療をしなくても6~12週で軽快、自然治癒しますが、抗生剤を使用すると症状の軽減および病期の短縮が可能になるので、診断がつき次第、抗生剤が投与されます。症状が重症化している場合は、積極的に抗生剤治療が行われます。


Q.猫ひっかき病は、人から人へ感染しますか

猫ひっかき病はネコから感染例が多いですが、他にイヌ、ネコノミ、ダニからの感染例もあります。しかしながら、ヒトからの感染例は今のところありません。 


Q.予防対策はありますか

猫ひっかき病の90%以上の原因は、猫との接触(特に子猫)によるものです。したがって、以下に注意しましょう。

・ブラッシングをこまめにし、ネコの体を清潔に保つ。
・定期的に猫の爪を切る。
・ネコ(特に子猫)との接触後は手指をよく洗う。
・野良猫には触らない。
・ネコと過度なスキンシップは避ける。
・ネコを興奮させない。
・飼い猫はできるだけ外に出さない(野良猫との接触を避ける)。

ネコは、私たちの慌ただしい日々の生活に安らぎと潤いを与えてくれる良いパートナーです。そんな愛らしい存在であるネコがもたらす病気の一つとして「猫ひっかき病」を正しく理解し、安心して仲良く過ごしていただきたい。そんな願いを込めて、私たちは猫ひっかき病の早期診断法や感染予防の開発をめざし、研究を進めています。


研究者情報

大学院医学系研究科(保健学専攻)病態検査学講座

特命教授 常岡 英弘

講師  大津山 賢一郎


研究に関するご寄附のお願い


「猫ひっかき病」のネコ検査キットおよびワクチン開発のため、ご寄附をお願いしております。皆さまからの温かいご支援をお願い申し上げます。

【寄附に関するお問い合わせ】
 国立大学法人山口大学医学部経営企画課予算管理係
 TEL0836-22-2023
 E-Mail me212@yamaguchi-u.ac.jp

 

 

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