国立大学法人 山口大学

本学への寄付

エラスチン線維の3次元構造が皮膚弾力に与える影響の解明~独自の3Dシミュレーション評価法を開発~

 

概要

 山口大学大学院創成科学研究科の蒋飛准教授は、株式会社ファンケルとの共同研究により、ヒト皮膚中のエラスチン線維の3次元構造に基づいて皮膚弾力を予測する、独自の3Dシミュレーション評価法を開発しました。
 本手法では、実際のヒト皮膚から取得したエラスチン線維の立体構造を再現し、コンピューター上で力学的負荷を与えた際の皮膚および線維の変形挙動を解析することで、皮膚弾力を視覚的かつ定量的に評価することが可能です。これにより、加齢に伴う皮膚弾力低下の仕組みを、エラスチン線維の3次元構造の観点から捉えることに初めて成功しました。
 さらに本研究により、皮膚の弾力はエラスチンの量だけでなく、エラスチン線維の太さや線維同士のつながり方といった構造的特徴にも大きく影響されることが明らかになりました。
 本研究成果は、2025年8月5日に学術誌「Scientific Reports」に掲載されました。

研究目的・背景

 肌のハリや弾力は、見た目の若々しさや健やかさを左右する重要な要素です。こうした肌の弾力を支える成分の一つが、真皮に存在する「エラスチン線維」です。エラスチン線維は、ゴムのように伸び縮みする性質を持ち、肌が外からの力を受けても元の状態に戻るための役割を担っています。
 これまで、加齢に伴う肌の弾力低下には、エラスチンの減少や変性が関与すると考えられてきました。しかし、肌の弾力は単にエラスチンの量だけで決まるのか、それともエラスチン線維の形状や構造、線維同士のつながり方といった「ネットワーク構造」も影響しているのかは、十分に明らかになっていませんでした。
 その理由の一つは、ヒト皮膚内に存在するエラスチン線維が複雑な3次元構造を持っており、その構造と力学的な性質の関係を直接評価することが難しかったためです。そこで本研究では、実際のヒト皮膚から得られたエラスチン線維の立体構造を再現し、コンピューター上で力を加えて解析する独自の3Dシミュレーション評価法を開発しました。
 本研究の目的は、エラスチン線維の量だけでなく、線維の太さや線維同士のつながり方が肌の弾力にどのように影響するのかを明らかにし、加齢に伴う肌の弾力低下の仕組みを視覚的かつ定量的に解明することです。

研究成果

<有限要素法を用いた独自の皮膚弾力評価法を開発>
 本研究では、有限要素法を用いて、3次元エラスチン線維構造から皮膚の弾力を予測するシミュレーション評価法を新たに開発しました。
 まず、摘出したヒト皮膚組織のエラスチン線維を3次元的に撮影し(図1左)、線維の太さ・本数・長さ・方向・つながりをデータ化し、真皮中の線維の3次元モデルを構築しました(図1中)。このモデルを用いて、シミュレーションにより一定の力を加えた条件での皮膚と線維の変形の様子を再現し、評価しました(図1右)。

図1.シミュレーションを用いた新たな皮膚弾力評価法

<老若のエラスチン線維構造比較により、加齢による弾力低下メカニズムを実証>
 開発したシミュレーション評価法を用い、老齢および若齢の皮膚から得られたエラスチン線維構造をモデル化して皮膚の弾力を比較しました。
 その結果、若齢の皮膚では高い弾力を示しました。太くて長い線維が多く、線維同士が密接に繋がり、網目構造を形成していること、また力を加えたときに構造が壊れず、線維に伸びたり縮んだりしている部位があることが観察されました(図2左)。一方、高齢の皮膚では弾力が著しく低下しました。線維が細く、短くなっているうえ、ところどころ切れて断片化が進んでいること、また力を加えたときに線維は伸びるだけで縮む部位がほとんどないことが確認できました(図2右)。

図2.老若エラスチン線維構造のシミュレーション結果比較

 図2の左では、若齢の肌では線維が面としてつながり力を受けても“全体がしなやかに戻る”様子が見て取れます。一方、加齢した図2の右での肌は、線維の連結が途切れて部分的に伸びてしまい、元に戻る力が弱まる様子が明確に示されています。

<弾力維持にはエラスチン線維の「質」が重要>
 さらに、エラスチン線維は太いほど、弾力の数値が高くなる傾向(正の相関)が確認されました(図3左)。
 一方で、線維のクラスター数が多いほど弾力は低下(負の相関)しました。「クラスター数」とは、つながった線維の“かたまり”の数です。線維が分断され、クラスター数が多いということは、それだけエラスチン線維のつながりが途中で切れ、細かく分断されてしまうことを意味します(図3右)。

図3.[左] 線維の構造的特性と弾力の関係(正の相関)、[右] 線維の構造的特性と弾力の関係(負の相関)

 線維が分断されクラスター数が増えると、皮膚全体で力を受け止めにくくなります。
 例えるなら、若い肌は丈夫な網、年齢を重ねた肌はとあちこち切れた網のような状態です。網が切れていれば、引っ張っても全体では支えられず、元に戻る力も弱くなります。今回の研究では、肌でも同じことが起きている可能性が示されました。
 これらの結果から、エラスチン線維は単に「量」が多ければよいのではなく、“太さ”や “つながり方”など「質的な状態」が肌の弾力に重要であることを裏付ける結果が得られました。

論文情報

  • 掲載誌:Scientific Reports
  • タイトル:Influence of aging on dermal elastin fiber architecture and skin firmness assessed by finite element modeling
  • 著者:Fei Jiang, Takeshi Tohgasaki, Mayuko Kami, Ryota Sanuki, Yuya Nakata, Shinya Kondo, Xian Chen
  • 掲載日:2025年8月5日
  • DOI:10.1038/s41598-025-14393-2
  • URL:https://www.nature.com/articles/s41598-025-14393-2

 

お問い合わせ先

  • <研究に関すること>
    山口大学大学院創成科学研究科(工学系学域)機械系分野
    准教授 蒋 飛(ショウ ヒ)
    TEL:0836-85-9148
    E-mail:fjiang@(アドレス@以下→yamaguchi-u.ac.jp)
  • <報道に関すること>
    山口大学総務部総務課広報室
    TEL:083-933-5007
    E-mail:sh011@(アドレス@以下→yamaguchi-u.ac.jp)
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