国立大学法人 山口大学

本学への寄付

難病NMOSDの新たな原因「TRIM21抗体」を発見 ―脳のバリアを壊すメカニズムを解明し、最適な治療薬選びに道を拓く―

 

発表のポイント

  • 新原因の特定: NMOSD患者の血液から、新たな自己抗体「TRIM21抗体」を同定しました。
  • 発症メカニズムの解明: TRIM21抗体が血液脳関門(BBB)を破壊し、病気の発症・再発を引き起こす仕組みを解明しました。
  • 最適な治療の指標: 本抗体を指標(バイオマーカー)とすることで、多種多様な治療薬の中から患者さん一人ひとりに最適な薬を選ぶ「個別化医療」の実現が期待されます。
  • 創薬への革新: 「人為的に脳のバリアを開く」技術を応用し、困難だった脳内への薬剤輸送(DDS)の道筋を提示しました。

研究概要

 山口大学大学院医学系研究科臨床神経学講座の清水文崇准教授、山口大学総合科学実験センター資源開発分野(遺伝子実験施設)の水上洋一教授、渡邉健司助教、アステラス製薬株式会社らの研究グループは視神経脊髄炎関連疾患(Neuromyelitis optica spectrum disorder: NMOSD)注1から血液脳関門(blood-brain barrier: BBB)注2を破綻させる新規自己抗体であるTRIM21抗体注3を発見しました。本研究は、脳の防御機構である血液脳関門(BBB)を突破するメカニズムを科学的に証明したものであり、治療の個別化や中枢神経疾患における新たな創薬プラットフォームの開発に大きく寄与する成果です。

 本成果は2026年5月4日(日本時間)に学術誌「Acta Neuropathologica Communications」(インパクトファクター5.7点)に掲載されました。

研究の背景と従来の課題

視神経脊髄炎関連疾患(NMOSD)とは
 NMOSDは、本来外敵から身を守るべき免疫系が、自身の視神経や脊髄、脳を誤って攻撃し、強い炎症を引き起こす自己免疫疾患です。これまでの研究により、主要な原因として「アクアポリン4(aquaporin4: AQP4)抗体注4」が特定されていました。

残されていた課題

  1. 「オーダーメイド医療」のための指標が不明:NMOSDは様々な作用機序をもつ再発予防薬を用いて、再発させないことが重要ですが、適切な指標が不明であり、患者さんの病態に即した治療を選択することが困難な状況にありました。
  2. 脳のバリア突破の謎: AQP4抗体が血液中に存在しても、通常は脳の強固なバリア(血液脳関門:BBB)を通過できません。このバリアをどのように突破して脳内に侵入するのか、その詳細なメカニズムは未解明でした。

 研究グループは、以前に同定したGRP78抗体以外にも「未知の因子」が存在すると仮定し、アステラス製薬との共同研究により本課題の解決に取り組みました。

今回の研究成果の意義

1. 「オーダーメイド医療」への飛躍
 現在、NMOSDの治療には4種類の強力な生物学的製剤が用いられていますが、どの薬がどの患者に有効かを事前に判断する指標が存在しませんでした。今回の研究で、患者の約30%に「TRIM21抗体」が存在することが判明しました。この抗体の有無と、GRP78抗体の有無を検査することで、患者一人ひとりの病態に合わせた、科学的根拠に基づく最適な治療薬の選択(オーダーメイド医療)が可能になります。

2. 膠原病合併による重症化のメカニズム解明
 NMOSDは、シェーグレン症候群注5や全身性エリテマトーデス注6などの膠原病を合併しやすく、その場合に症状が重症化することが知られていましたが、その理由は謎に包まれていました。本研究では、膠原病に関わるTRIM21抗体が、脳のバリアを突き破る「引き金」となっていることを突き止めました。これにより、合併症に伴う重症化の仕組みが科学的に証明されました。

3. 新しい治療法の扉を開く鍵
 本研究の最大の発見の一つは、TRIM21抗体を用いて「脳のバリアを意図的に開ける」可能性を示した点にあります。 脳は外部物質から守るために極めて強固なバリア(BBB)を備えており、これが中枢神経疾患に対する薬剤輸送の大きな障害となってきました。この抗体の機能を応用すれば、必要な時だけバリアを通過させ、治療薬を脳内へ直接届ける「新たなドラッグデリバリーシステム(DDS)」の開発が可能になります。これは、あらゆる中枢神経疾患の治療を劇的に変える、創薬のパラダイムシフトと言えます。

用語の説明

  • 注1.視神経脊髄炎関連疾患(Neuromyelitis optica spectrum disorder: NMOSD):
    視神経や脊髄を中心とした中枢神経に炎症性の病変が生じる自己免疫性疾患です。
  • 注2.血液脳関門(blood-brain barrier: BBB):
    脳内微小血管内皮細胞により構成される血液と脳を隔てるバリアー構造物です。外部の有害物質や病原体から脳内の神経細胞を守り、免疫細胞の侵入を防ぐと同時に脳内の細胞に必要な栄養素を積極的に取り込む役割を果たしています。
  • 注3.TRIM21抗体:
    シェーグレン症候群や全身性エリテマトーデスなどの膠原病で陽性となることが知られている自己抗体です。本研究により、NMOSDでのBBB機能不全に関与する自己抗体であることが明らかとなりました。
  • 注4.アクアポリン4(aquaporin4: AQP4)抗体:
    NMOSDでの疾患特異的自己抗体です。NMOSDの診断のため、世界中で使用されています。
  • 注5.シェーグレン症候群:
    ドライアイやドライマウスを特徴とし、主に涙腺や唾液腺が障害される全身性の自己免疫疾患です。
  • 注6.全身性エリテマトーデス:
    全身性エリテマトーデス(SLE)は、特に皮膚、関節、血液、腎臓、および中枢神経系などの様々な臓器に影響を及ぼす慢性自己免疫疾患です。

謝辞

 本研究は、科研費(24K10621, 21K07416)、中外創薬科学財団、ブレインサイエンス研究財団、武田科学振興財団の支援を受けて行われました。
 また、アステラス製薬株式会社 由利正利研究員、藤田大雅研究員との共同研究で行われました。

特許出願中

  • 「神経系血管バリアーの開口剤」JP 2025-027980

論文情報

  • 論文名:TRIM21 autoantibodies are associated with blood-brain barrier dysfunction in a subgroup of neuromyelitis optica spectrum disorder
    (TRIM21抗体は視神経脊髄液関連疾患の血液脳関門破綻に関与する)
  • 著者:Fumitaka Shimizu, Chihiro Kadono, Masatoshi Yuri, Hirotada Fujita, Yoichi Mizukami, Kenji Watanabe, Nanami Yamanaka, Masayuki Nakamori
    (清水文崇、門野ちひろ、由利正利、藤田大雅、水上洋一、渡邉健司、山中菜々美、中森雅之)
  • 掲載誌:Acta Neuropathologica Communications
  • 掲載日:2026年5月4日
  • DOI:10.1186/s40478-026-02307-w

 

お問い合わせ先

  • <研究に関すること>
    山口大学大学院医学系研究科臨床神経学講座
    准教授 清水 文崇(シミズ フミタカ)
    Tel:0836-22-2719
    E-mail:fshimizu@(アドレス@以下→yamaguchi-u.ac.jp)
    研究者情報:https://researchmap.jp/7000022012
  • <報道に関すること>
    山口大学医学部総務課広報・国際係
    Tel:0836-22-2009
    E-mail:me268@(アドレス@以下→yamaguchi-u.ac.jp)
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