国立大学法人 山口大学

本学への寄付

【研究成果】千島海溝沖の深海底で、底層流が作った大規模な堆積地形を発見

 

発表のポイント

  • 千島海溝の外側、水深約5,000メートルを超える深海底で、海底近くを流れる海流によって形成されたと考えられる大規模な堆積地形「コンターライト・ドリフト」を発見しました。
  • 沈み込む前の海洋プレート上にある海溝外縁隆起帯でも、大規模なコンターライト・ドリフトが形成され、保存されうることを明らかにしました。
  • 本成果は、北西太平洋の過去の深海環境を調べるための新たな研究対象を示すとともに、海溝周辺の地震履歴を含む地層記録を解釈する上で、海底近くの流れによる長期的な堆積物の移動と再堆積を考慮する重要性を示しています。

概要

 山口大学大学院創成科学研究科の池田尚史 大学院生(博士後期課程3年)、国立台湾大学海洋研究所のJih-Hsin Chang Assistant Professor、産業技術総合研究所地質調査総合センター地質情報研究部門の中西諒 研究員、海洋研究開発機構海域地震火山部門の金松敏也 部門長らの研究グループは、北海道沖から東北沖にかけての千島海溝・日本海溝外側に広がる海溝外縁隆起帯において、海底近くを流れる海流によって形成されたと考えられる大規模な堆積地形を発見しました。
 このような海底近くの流れは「底層流(注釈1)」と呼ばれます。底層流によって運ばれ、再び堆積した堆積物は「コンターライト」と呼ばれ、コンターライトが長い時間をかけて積み重なると、「コンターライト・ドリフト」と呼ばれる大規模な堆積地形を形成します。コンターライト・ドリフトは、これまで大西洋、地中海、南極海などで多く研究されてきました。一方、海洋プレートが海溝へ沈み込む手前でゆるやかに盛り上がる「海溝外縁隆起帯」では、その発達や保存について十分に分かっていませんでした。
 研究グループは、海溝外縁隆起帯で取得された海底地形データ、海底下の地層断面を調べる反射法地震探査データ(注釈2)、海底直下の浅い地層を調べるサブボトムプロファイラー(注釈3)データ、および堆積物コアの分析を組み合わせて解析しました。その結果、千島海溝外縁隆起帯には、合計で約12,000平方キロメートルに及ぶ2つの大規模な堆積体が存在し、これらが長期間にわたる底層流による堆積物の移動と再堆積によって形成されたと解釈されました。
 今回発見された堆積体は、北西太平洋の過去の深海環境や海の流れの変化を調べるための新たな研究対象となる可能性があります。また、海溝周辺の堆積物記録を解釈する際には、地震や津波によって短時間で運ばれた堆積物だけでなく、海底近くを流れる海流による長期的な堆積物の移動も考慮する必要があることを示しています。本研究成果は、国際学術誌 Marine Geology のオンライン版に2026年5月15日付で掲載されました。


参考図.コンターライト・ドリフトの形成過程を示す概念図。海底近くを流れる底層流は、細かな堆積物を削り、運び、別の場所に積み重ねる。海山や斜面などの地形の影響によって、堆積物が削られやすい場所、通過しやすい場所、積もりやすい場所が生じる。こうした作用が長い時間続くことで、コンターライト・ドリフトが形成される。

研究の背景

 深海底では、海底近くを流れる海流が、泥、微生物の殻、火山灰などを含む細かな粒子を削り、運び、別の場所に積み重ねています。このような作用は、深海底の地形や地層を作る重要なプロセスの一つです。コンターライト・ドリフトは、過去の海の流れや深海環境の変化を記録する地層として注目されています。これまで、大規模なコンターライト・ドリフトは、主に北大西洋、南大西洋、地中海、南極海、南西太平洋などで研究されてきました。一方、沈み込み帯の周辺でもコンターライト・ドリフトは報告されていますが、その多くは海溝の内側や海溝軸の近くのものを対象として議論され、沈み込む前の海洋プレート上にある海溝外縁隆起帯で、底層流による大規模な堆積地形がどのように発達するのかは、十分に検討されていませんでした。

 千島海溝の外側には、太平洋プレートが沈み込む手前で曲げられることによってできた海溝外縁隆起帯が広がっています。この海域には海山や小さな高まりが点在し、複雑な海底地形が発達しています。また、北西太平洋の深海には、地球規模の海洋循環によって、南極周辺に起源をもつ深層水が到達しています。深い海の流れが海山や海溝外縁隆起帯の地形の影響を受けると、海底近くの流れは場所によって強くなったり、向きを変えたりします。その結果、堆積物が削られやすい場所、通過しやすい場所、積もりやすい場所が生じる可能性があります。本研究では、千島海溝外縁隆起帯を対象として、底層流によって作られた大規模な堆積地形が発達しているかどうかを検証しました。


図1.主要なコンターライト・ドリフト研究地域と地球規模の海洋循環の概略。コンターライト・ドリフトは、これまで主に北大西洋、南大西洋、地中海、南極海、南西太平洋などで研究されてきた。本図では、既存研究で知られる主な研究地域を青色で示し、本研究で対象とした千島海溝外縁隆起帯を黄色で示す。

研究の内容

 研究グループは、海洋研究開発機構(JAMSTEC)が取得・蓄積してきた海底地形データと反射法地震探査データを解析しました。さらに、2024年に海洋地球研究船「みらい」MR24-02およびMR24-05次研究航海で取得したサブボトムプロファイラーデータと堆積物コア試料を組み合わせ、海底表面の地形、海底下の地層構造、堆積物の特徴を調べました。
 (1) 海底地形から見えた2つの大規模堆積体
 解析の結果、千島海溝外縁隆起帯に2つの大規模な堆積体が確認されました。一つは、凌風第2海山の北東側に隣接する細長い舌状の堆積体で、面積は約2,000平方キロメートルに達します。もう一つは、その南西側に広がるより大きな堆積体で、面積は約10,000平方キロメートルに及びます。これらの堆積体の周辺には細長いくぼ地が発達し、堆積体の表面には大きな波状地形も認められました。このような地形は、底層流が海底地形の影響を受けながら、堆積物を削り、運び、再び積み重ねた過程を反映していると考えられます。
(2) 海底下の地層と堆積物が示す証拠
 海底下の地層断面や堆積物コアからも、底層流による形成を支持する証拠が得られました。海底下の地層断面には、盛り上がった形、左右で厚さが異なる構造、堆積物が薄くなる部分、局所的に削られた部分などが見られました。これらは、底層流によって堆積物が運ばれ、長い時間をかけて積み重なったことを示す特徴です。
 堆積物コアは、主に珪藻の殻を多く含む泥からなり、生物が堆積物をかき混ぜた跡も見られました。また、火山灰層の分析から、堆積体の頂部では、くぼ地に近い地点に比べて堆積速度が約2.9倍高いことが分かりました。この違いは、底層流によって細かな堆積物が堆積体上に集まりやすかったことを示していると考えられます。


図2.千島海溝外縁隆起帯で見つかった大規模な堆積地形と、その成因を示す証拠。A:海底地形図。2つの大規模な堆積体、調査測線、堆積物コアの採取地点を示す。B、C:海底下の地層断面とその解釈。堆積体の内部には、盛り上がった形、左右非対称な厚さの変化、局所的に削られた部分などが見られ、底層流によって堆積物が運ばれ、積み重なったことを示している。D:海底直下の浅い地層を示す断面。堆積体上の地点とくぼ地に近い地点が、同じ浅い堆積システムの中にあることを示す。E、F:堆積物コアの写真とX線CT画像。

研究成果の意義

 本研究の意義は、千島海溝外縁隆起帯で、底層流が堆積物を大規模に移動させ、海底地形や海底下の地層構造の形成に関わってきたことを示した点にあります。これまで、千島海溝や日本海溝の周辺では、地震、津波、海底地すべり、プレートの沈み込みといった現象に注目して研究が進められてきました。本研究は、それらに加えて、長い時間をかけて海底近くを流れ続ける底層流も、海溝周辺の堆積物分布や地形形成に重要な役割を果たすことを示しています。
 また、今回の結果は、沈み込む前の海洋プレート上にある海溝外縁隆起帯にも、大規模なコンターライト・ドリフトが形成されうることを示しました。これは、コンターライト・ドリフト研究の対象地域を広げる成果です。
 今回発見された堆積体は、北西太平洋の深い海の流れが過去にどのように変化してきたのかを調べるための、新たな地質記録となる可能性があります。さらに、海溝周辺の堆積物を用いて過去の地震や津波を調べる際にも、底層流による堆積物の移動を考慮する重要性を示しています。

今後の展望

 今後の重要な課題は、ドリフトを構成する地層の年代をより詳しく調べることです。現時点では、千島海溝外縁隆起帯の南方に位置する深海掘削地点 DSDP Site 436 の既存データとの広域的な比較に基づいて、おおまかな年代を推定しています。今後、複数地点から採取した堆積物コアを詳しく分析し、年代や堆積物の特徴を明らかにすることで、北西太平洋の深い海の流れが長い時間の中でどのように変化してきたのかを、より具体的に調べることができます。
 今回の発見は、北西太平洋の深海環境史と、海溝周辺の堆積物記録の理解をつなぐ、新しい研究の出発点として位置づけられます。

謝辞

 本研究は、海洋研究開発機構(JAMSTEC)の研究プロジェクト「Geological Study of Paleo-Earthquakes and Tsunamis along the Kuril Trench」の一環として実施された、海洋地球研究船「みらい」MR24-02およびMR24-05次研究航海で取得されたデータ・試料を含みます。両研究航海の実施にあたり、船長および乗組員の皆様、航海運営を支援してくださった関係者の皆様、ならびにデータ取得を支えてくださったマリンテクニシャンの皆様に深く感謝申し上げます。堆積物コアのX線CT撮影は、高知大学海洋コア国際研究所の共同利用・共同研究プログラム(23A020, 24A002)により実施されました。また、JAMSTEC地震探査データベースの利用にあたり、JAMSTECの海宝由佳氏にご協力いただきました。本研究の遂行にあたり、東京大学大気海洋研究所の上野岳氏および産業技術総合研究所地質調査総合センターの池原研氏より有益な助言をいただきました。本研究は、JST次世代研究者挑戦的研究プログラム(JPMJSP2111)、山口大学基金、および京都大学北部構内機器分析拠点の支援を受けて実施されました。

論文情報

  • 掲載誌:Marine Geology
  • 巻・号:Volume 498, August 2026
  • 論文番号:107802
  • 論文タイトル:Discovery of contourite drifts on the outer rise along the Kuril Trench, Northwest Pacific
  • 著者:Hisashi Ikeda1*, Jih-Hsin Chang2, Ryo Nakanishi3, Toshiya Kanamatsu4, Toshiya Fujiwara4, Kan-Hsi Hsiung4, Kiichiro Kawamura1
    (*責任著者、1山口大学、2国立台湾大学、3国立研究開発法人産業技術総合研究所、4国立研究開発法人海洋研究開発機構)
  • DOI:10.1016/j.margeo.2026.107802
  • URL:https://www.sciencedirect.com/science/article/pii/S002532272600099X

用語の説明

  • (注釈1)底層流:
    海底近くを流れる海流。泥や細かな粒子を運び、削り、別の場所に積み重ねる働きをもつ。
  • (注釈2)反射法地震探査:
    音波を使って、海底下の地層構造を調べる探査手法。海底下の広い範囲の構造を把握することができる。
  • (注釈3)サブボトムプロファイラー:
    音波を使って、海底直下の浅い地層を詳しく調べる装置。

 

お問い合わせ先

<研究に関するお問い合わせ>
  • 山口大学大学院創成科学研究科(理学系学域)自然科学専攻
    博士後期課程3年 池田 尚史(いけだ ひさし)
    E-mail:e002wbv@(アドレス@以下→yamaguchi-u.ac.jp)
  • 山口大学大学院創成科学研究科(理学系学域)地球科学分野
    教授 川村 喜一郎(かわむら きいちろう)
    E-mail:kiichiro@(アドレス@以下→yamaguchi-u.ac.jp)
<報道に関するお問い合わせ>
  • 山口大学総務部総務課広報室
    TEL:083-933-5007
    E-mail:sh011@(アドレス@以下→yamaguchi-u.ac.jp)
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