国立大学法人 山口大学

本学への寄付

心房細動アブレーション後の心不全入院リスクを腎臓病リスク分類で層別化 -eGFRと尿検査を組み合わせたCKD評価が、心臓・腎臓・代謝をつなぐリスク管理の鍵に-

 

発表のポイント

  • 心房細動に対するカテーテルアブレーションを受けた患者942名を対象に、術前の腎機能および尿検査の情報を用いて、国際的な腎臓病診療指針である「KDIGO慢性腎臓病(CKD)リスク分類」の分布と予後との関連を解析しました。
  • 解析の結果、対象患者の46.3%が中等度以上のCKDリスクに該当しました。術後の心不全入院リスクはCKDリスク分類に応じて有意に上昇し、特に「中等度リスク」から「高リスク」への移行に伴い急増(発生率は中等度:1.90件/100人年、高リスク:7.74件/100人年)することが判明しました。
  • 従来の血液検査(eGFR)のみでは低めに評価されがちなCKD stage G3aの患者であっても、尿検査によるアルブミン尿の有無を加味することで、より適正な高リスク群へ再分類される患者が存在し、簡易的な尿検査を組み合わせる腎臓評価の重要性が示されました。
  • 心房細動アブレーション後の長期的な心不全予防だけでなく、地域社会における包括的なCKD対策の双方に大きく貢献するデータです。

研究の背景と概要

 心房細動は、脈の乱れをきたす代表的な不整脈であり、脳梗塞や心不全のリスクと関連します。カテーテルアブレーションは、心房細動の原因となる異常な電気信号を抑える治療法で、症状改善や再発抑制を目的として広く行われています。しかし、アブレーション後の長期管理では、不整脈の再発予防だけでなく、心不全をいかに予防するかが極めて重要な課題となっています。
 近年、米国心臓協会は、心血管疾患、腎臓病、代謝異常が相互に悪影響を及ぼし合う「心血管・腎臓・代謝(CKM)症候群」という概念を提唱しています。慢性腎臓病(CKD)は、このCKMの中核的要素であり、従来の血液検査(eGFR:推算糸球体濾過量)だけでなく、尿アルブミン・クレアチニン比(UACR)をはじめとするアルブミン尿の評価を組み合わせることが国際的に推奨されています。
 しかし、心房細動アブレーションを受ける患者において、KDIGO CKDリスク分類がどのように分布しているのか、またそれがアブレーション後の心不全入院リスクをどの程度正確に層別化できるのかは、これまでに十分に明らかになっていませんでした。
 山口大学大学院医学系研究科 器官病態内科学講座(医学部附属病院 第二内科)の石口博智助教、吉賀康裕講師、澁谷正樹講師、佐野元昭教授らの行った本研究では、2011年10月から2024年3月までに同大学医学部附属病院で初回の心房細動アブレーション治療を受け、術前1週間以内に尿検査を受けた患者942名を対象に調査を実施しました。eGFRと尿試験紙検査から推定したUACRを用いてKDIGO CKDリスク分類を行い、アブレーション後の心不全入院、心房性不整脈の再発、CKM併存、腎保護治療の実施状況を解析しました。

研究結果のまとめ

1. 心房細動アブレーション患者の約半数が中等度以上のCKDリスクに該当
 942名のうち、中等度以上のCKDリスクに該当した患者は46.3%であり、心房細動アブレーションを受ける患者背景において、潜在的な腎臓病リスクを有する人が高いことが明らかになりました。

2. 心不全入院リスクはCKD高リスク群で急増
 中央値5.1年の追跡期間において、72名(7.6%)が心不全により入院しました。低・中等度と高・非常に高リスクの間で大きな心不全入院リスクの差が観察されました。

3. CKD stage G3aでも、尿所見によりリスクが大きく分かれる可能性
 eGFRが45〜59 mL/min/1.73m²に相当するCKD stage G3aの患者のうち、12.4%の患者は、アルブミン尿の情報を加えることで高リスクまたは非常に高リスクに再分類され、eGFR単独の評価では見落とされかねない重症化リスクを潜在する患者が一定数存在することが明らかになりました。

4. 心血管・腎臓・代謝の重複リスクが高リスク群で顕著
 高リスク群では42%、非常に高リスク群では67%が、心血管・腎臓・代謝の3領域すべてを併せ持つCKM multimorbidityに該当しました。また、2021年9月以降に治療を受けた患者におけるSGLT2阻害薬の使用率は全体的に低く、アブレーション治療の前後の時期が、心不全予防と腎保護治療の戦略を見直すべき極めて重要な機会になり得ることを示しています。

本研究の意義と今後の展望

 本研究は、心房細動アブレーション患者において、腎臓病リスクを単なる合併症として扱うのではなく、長期的な心不全リスクを層別化する重要な指標として位置づけた点に意義があります。特に、従来の血液検査(eGFR)に尿所見を加えることで、見落とされがちな高リスク患者を早期に発見・介入できる可能性が示されました。
 一方、本研究は単施設の後ろ向き観察研究であり、尿アルブミン量は全例で直接測定されたものではなく、尿試験紙検査などから推定したUACRを用いています。そのため、今後は定量的な尿アルブミン測定を含む前向き研究や多施設研究により、今回の知見を検証する必要があります。
 山口大学医学部附属病院第二内科では、今後も心臓・腎臓・代謝を横断的に評価する先進的なアプローチを展開し、心房細動治療後の心不全予防と、地域CKD対策に資する診療・研究を推進していきます。

 本研究成果は、米国心臓協会公式誌の1つである「Journal of the American Heart Association」に2026年8月29日に掲載されました。

論文タイトルと著者

  • タイトル:Distribution and Clinical Utility of the Kidney Disease Improving Global Outcomes Chronic Kidney Disease Risk Classification in Patients Undergoing Atrial Fibrillation Ablation
    (心房細動アブレーション患者におけるKDIGO慢性腎臓病リスク分類の分布と臨床的有用性)
  • 著者:Hironori Ishiguchi, Yasuhiro Yoshiga, Shintaro Hashimoto, Masakazu Fukuda, Goki Nakashima, Masafumi Fujinaka, Masaki Shibuya, Takuya Omuro, Shigeki Kobayashi, Motoaki Sano
  • 掲載誌:Journal of the American Heart Association
  • 掲載日:2026年8月29日
  • DOI:10.1161/JAHA.126.049254

 

お問い合わせ先

  • <研究に関すること>
    山口大学大学院医学系研究科器官病態内科学講座(医学部附属病院第二内科)
    助教 石口 博智(いしぐち ひろのり)
    TEL:0836-22-2248
    E-mail:hishigu@(アドレス@以下→yamaguchi-u.ac.jp)

  • <報道に関すること>
    山口大学医学部総務課広報・国際係
    TEL:0836-22-2009
    E-mail:me268@(アドレス@以下→yamaguchi-u.ac.jp)

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