国立大学法人 山口大学

本学への寄付

【総説論文】精巣に似た構造をもつ卵巣を31年後に再検討:1995年のウシの症例を現在の科学的視点から読み解く総説が国際学術誌に掲載

 

図1.卵胞と精巣に似た構造が同じ左の卵巣に見られた症例。
(a) 卵巣全体、(b–d) 精細管に似た構造、(e、f) 卵胞。当時の保存写真を用いて再検討しました。
出典:Kadokawa, Theriogenology 268 (2027) , 118225, 図3

研究の概要

 山口大学共同獣医学部臨床獣医学講座の角川博哉教授らの研究グループは、今から31年前の1995年、単子(1頭のみ)で生まれた雌子牛の左の卵巣に精細管に似た構造を見いだし、国際学術誌「Theriogenology」で報告しました。
 今回、その症例を現在の知見から再検討した角川教授の総説論文が、2026年10月1日付で同誌にオンライン公開されました。本論文はオープンアクセスで、どなたでも全文をご覧いただけます。

研究の詳細

1頭で生まれた雌子牛の、妊娠中の経過を読み解く
 ウシのフリーマーチン(異性の双胎によって生じる不妊の雌)は、一般に雄と雌の双子が胎内で血流を共有することで生じ、雌の生殖器の発達に影響が現れます。しかし、雌子牛1頭だけが生まれた場合、出生時の姿から妊娠中の経過を知ることはできません。今回の総説は、こうした単子の症例について、雄胎子由来のDNAの検出と生殖器の発達に関する所見を区別し、既存の研究を整理しながら診断上の課題を検討しています。
 1995年の症例では、2個の受精卵を移植した後、一方が妊娠初期に失われ、雌子牛1頭が生まれました。回収した左の卵巣には卵胞と精細管に似た構造があり、同じ生殖腺に卵巣と精巣の両方に似た特徴が局所的に存在することが、保存写真から確認できました。本総説で調べた文献の範囲では、これに先立ち、単子の雌子牛の同じ生殖腺内に両方の特徴を同程度に詳しい組織写真で示した報告は見つかりませんでした。
最初の国際論文を、31年後に問い直す
 1995年の原著論文は、角川教授が筆頭著者として発表した自身初の国際論文でした。ウシの全ゲノム情報がまだ利用できない時代に、PCR法によって、通常の染色体検査では確認できなかった雄胎子特有のDNAを雌子牛から検出しました。その雌子牛の生殖器には外見上、大きな異常が見られなかった一方、左の卵巣の一部に精細管に似た構造が観察されました。
 角川教授は当時、この珍しい現象を「ウシ繁殖研究のストライクゾーンの隅をつく変化球」のように感じていたと振り返ります。その後は、分娩後の乳牛における栄養と内分泌という繁殖研究の中心的な課題に取り組んできました。長年の研究を経て、最初の国際論文の症例に立ち返り、単子フリーマーチンの研究全体を見渡す総説にまとめました。
保存してきた写真を、次世代に引き継ぐ
 1995年当時の論文は、顕微鏡写真を印刷用の台紙に貼り、原稿とともに国際郵便で出版社へ送ってオフセット印刷で制作されました。後年PDF化された論文では写真が黒くつぶれ、組織の細部を確認しにくくなっていました。
 そこで角川教授は、良好な状態で保管していたフィルムやプリント、未掲載写真をデジタル化し、山口大学学術機関リポジトリで公開しました。
 原著論文への画像追加を編集部に相談したことをきっかけに、査読を受ける新たな総説として執筆しました。PubMed、Scopus、国連食糧農業機関(FAO)のAGRISなどで数百の古今東西の文献を調べ、当時の観察を現在の研究成果と照らし合わせました。そしてDNA検査、妊娠経過、生殖器の形態・機能、組織所見を合わせて診断評価する重要性を示しました。

 今回、若手時代の観察と写真が、31年後に国際誌の総説へとつながりました。過去の症例を現在の知見で問い直し、次世代に引き継ぐ重要な成果です。

図2.31年間保存してきた顕微鏡写真のフィルムとプリント。保存状態の良かった原版をデジタル化し、当時の未掲載写真とともに国際学術誌で公開しました。

図3.1995年の症例を調べるために作製し、31年間保存してきたヘマトキシリン・エオジン染色標本。現在はヘマトキシリン染色が退色しています。

関連資料へのリンク

論文情報等

 

お問い合わせ先

<研究に関すること>
  • 山口大学共同獣医学部臨床獣医学講座
    教授 角川 博哉
    E-mail:hiroya@ (アドレス@以下→yamaguchi-u.ac.jp)
<報道に関すること>
  • 山口大学総務部総務課広報室
    電話:083-933-5007
    E-mail:sh011@(アドレス@以下→yamaguchi-u.ac.jp)
TOP