角田由佳(教授) 岩本 晋(特命教授) 中田範夫(特命教授)
角田 由佳(教授)~医療経済研究,演習~
医療・福祉経営コースで「医療経済研究」「演習」を担当する角田由佳です。専門は、医療経済学、労働経済学、社会保障論で、研究領域は、看護師の労働市場や医療・介護政策における看護サービスです。
最近は特に、看護師の雇用問題や看護サービスの生産と消費について研究しています。「地域包括ケアシステム」が構築されていくなかで、看護は病院等で医療サービスを提供するための一生産要素から、看護サービスそのものが取引される時代へと変わろうとしています。経済・社会環境が変化し、新たな政策の施行、あるいは改訂にしたがい看護サービスの生産と消費はどう変わっていくのか、そして看護師の雇用はどのような影響を受け、どう就労するのか、研究を進めたいと考えています。
また、本学大学院や学部での教育、研究活動のほか、看護職員の専門職団体である日本看護協会の認定看護管理者研修や看護系の大学・大学院の非常勤講師として、医療・看護の経済論について講義する機会もいただいています。さまざまな経歴を持つ本学の大学院生や、非常勤講義で出会う看護管理者の方たちなど、実践経験のある方が提起される現場からの疑問や問題は、私自身が研究する上でも貴重な糧となっています。
本コースの授業「医療経済研究」では、ミクロ経済学の分析手法を用いて、医療サービスの生産と消費、医療政策の仕組みについて学んでいます。医療サービスは、一般のモノやサービスと異なる性質を持つために、市場での自由な取引にまかせることは難しく、生産と消費にあたってさまざまな医療保障政策が必要となってきます。医療サービスの持つ特殊性とは何か、それゆえに必要となる医療保障政策とは何か、ということを学んだ上で、経済学の手法で医療を研究するさまざまな文献を授業では輪読します。そしてその研究成果をもとに皆でディスカッションし、経済理論と医療・福祉の現場との接近を図っています。
また「大学院演習」では、大学院生それぞれの問題意識に沿って、客観的根拠に基づいた研究論文を執筆することを目標に、そのためのディスカッション、指導を行っています。社会人院生の方は、医療や看護、福祉現場に直接携わったり管理、経営したりするなかで、さまざまな問題意識を持って大学院に進学されます。しかしその問題をどう客観的根拠に基づいて分析し、解決に導くことができるのか、という科学的思考は不十分な傾向にあります。一方、学部から進学した院生は、科学的思考を身につけ、医療や福祉に関心は持っていても、具体的に何が問題として生じているのか十分に理解しにくい段階にあります。そのため、互いに顔をつきあわせ、各自の研究テーマについて議論することで、社会人院生は科学的思考の習熟を、学部からの進学者は具体的な問題意識の醸成を目指しています。
岩本 晋(特命教授)~福祉経営研究,医療・福祉施設の経営分析研究演習~
昭和18年1月14日に旧満州国生、平成30年12月現在は75歳です。年齢が多いだけに経歴だけは長く紹介しきれないので詳細はwikipediaで岩本 晋と検索してみてください。
その経歴欄では島根大学卒業後デンマークに研修に2年間滞在して動物栄養学を学んだことや、アメリカミシガン州立大学(MSU)大学院で公害問題により修士号を得て、そののち山口大学医学部公衆衛生学教室で公害問題論文を書き上げ医学博士になったことは省略されています。さらに、それがなぜか偶然のめぐりあわせで、現在の山大経済学部で特命教授として取り組むようになったのかのつながりが省略されているので、そのあたりを説明するためにここに自己紹介を書きます。
私は水銀や化学物質PCBの生態影響についてデンマークとアメリカで通算7年間の研究生活を送りました。そのときに最も力を入れて学んだことは統計学でした。当時の日本では統計学を学ぶチャンスもなくMSUで初めて生化学の一部として数理統計学に初めて触れました。その時に生まれたばかりの計算機を使いました。帰国後はNECの8ビットのPC88をお金持ちの学生から借り受けて使い始めました。
統計学が役立ったのは山口県医師会の執行部の先生方に出会い、地域医療計画が法制化されたので準備として活動に参加してくださいと依頼されたからです。調べてみると、それまでの医療の世界は医師個人の努力と技能で成り立っており、全体像を表す言葉や資料もほとんどない時代でした。
地域医療計画は1985年に医療水準の地域格差是正と医療機関の相互の連携強化を目指し,医療法の一部改正を行い,「地域医療計画」を制度化したものでした。これは地域の実情に合せながら,身近な家庭医から先進医療を行う施設まで,3段階の医療圏を設定し,保健医療の体系化をねらうもので、私がまず参考にしたのが慶大教授倉田正一先著「地域医療計画」でした。倉田先生はアメリカのピッツバーグ大で病院管理学をまなび,昭和38年慶大教授になられた方です。私もその後日本医療病院管理学会の理事となり、研究対象は殆ど入院患者の入院日数に関することでした。
私が取り組んだ入院患者の実態については、その一部を自治研やまぐち冊子に掲載して来ましたので、最近5年くらいの活動を表すものを読めるはずです。
見出しでいえば、①長崎では90年以上も入院の患者、②全く変化の無かった「超長期在院患者」、③減少してない社会的入院患者、④デンマークでの高齢者医療、⑤認認介護の実態と出現割合、⑥12.6億日利用している病床、⑦社会保障を改革するとしたら、?超少子高齢社会ですること、⑨私ならこんな街を作る。
中田 範夫(特命教授)~医療経営研究,医療原価管理研究,演習~
昭和59年に山口大学経済学部に赴任し、本年3月末で35年間になります。これまでは常勤教員として昼間の学部・大学院教育に関わってきました。
4月からは大学院企業経営専攻「医療・福祉経営コース」の特命教授として勤務します。これまでの大学院(昼間コース)の学生の中にも医療関係の日本人(山口大学医学部付属病院の当時の看護部長・副看護部長、国立病院機構山口宇部医療センターの医師、共済苑の職員など)及び医療関係を研究した外国人留学生もおり、彼らと一緒に医療に関する知識を深めてきました。
おおよそ20年前から医療(特に病院)を対象にして研究をしてきましたが、机上の学問にならないように下記のような委員を引き受けてきました。現在も続いているものは以下のものです。社会保険庁中国地区医療協議会委員、独立行政法人山口県立病院機構評価委員会委員、社会保険診療報酬支払基金山口支部幹事会委員、全国健康保険協会山口支部評議委員などです。これらの委員を勤めることにより、病院の置かれたポジションを総合的に捉えることが出来るようになったと思います。
研究では、全国の全ての病院種類(公立病院を含む)を対象に合計8度のアンケート調査を実施し、さらに経営的に特色を持っている病院を訪問調査してきました。前者の調査についてはそれぞれ論文を発表しております。最近の研究では、公立病院に関して組織形態(地方公営企業法適用病院、公務員型地方独立行政法人病院、非公務員型地方独立行政法人病院、指定管理者制度病院など)・内部環境(コンサルタント採用の有無、電子カルテ導入の有無、看護配置7対1採用の有無、DPC採用の有無)、及びマネジメント手法(バランスト・スコアカード導入の有無、原価計算採用の有無)などの相違が財務業績(医業費用収益率)・非財務業績(在院日数・病床稼働率)にどの程度影響を及ぼしているかを論文にしております。さらに3種類の業績指標間の相関関係についても分析しております。また公立病院以外の全ての病院種類に対して実施したアンケートに基づき、同様の分析を適用した結果を論文としてまとめている最中です。
これらの経験を生かして「医療・福祉経営コース」に入学して来られる皆さんと一緒に研究を進めていきたいと思います。
川村 真一(准教授)~医療福祉施設の人的資源管理研究~
私の専門は組織の経済学、人事の経済学です。研究の対象として関心があるのは企業の経営なのですが、経済学の中で発展してきた枠組みや手法を用いてこれを分析します。より具体的には、ミクロ経済学(特にゲーム理論)や計量経済学を用います。近年は主観的評価をインセンティブの側面から分析したり、ある紡績会社に残された戦前の人事記録を用いて、当時のホワイトカラー職の従業員がどのようにして処遇が決められていたのか推定を行っています。
医療・福祉の領域の中では、医療スタッフの人的資源管理に関心があります。2017年に看護師の離職について文献レビューを行い、どのような要因が離職行動に影響を与えているのか整理をしました。
また最近は情報の非対称性に基づいた医師の機会主義的行動の実証分析に関心があります。いわゆる誘発需要の問題です。
本コースでは「医療福祉施設の人的資源管理研究」を担当しています。この授業は履修生の関心に合わせて教科書や論文を選び、輪読を行なっております。近年ではラジアー・ギブス(2017)『人事と組織の経済学・実践編』や山本(2009)『人材定着のマネジメント- 経営組織のリテンション研究』が選ばれました。
みなさんが持つ問題意識に対して、経済学の観点からアプローチしたい、もしくはデータを集めて統計学的な分析をしてみたいという方がいらっしゃいましたらお気軽に声をかけてください。
田畑 雄紀(准教授)~医療保険制度論,演習~
専門分野は社会保障論、とりわけ医療保障制度を中心に研究をしています。大学院時代から、日本の公的医療保険を中心に患者負担や財源調達方法、診療報酬制度、医療供給体制など医療保障制度をトータルに分析し、これからの日本の医療保障制度のあり方を導くべく研究を重ねています。そのために、諸外国(主にイギリス)の医療保障制度も研究対象としています。
大学院での担当科目は「リスクマネジメント研究」と「医療保険制度研究」です。「リスクマネジメント研究」では、リスクの概念や捉え方、一般的なリスクマネジメントの手法などについて解説した後、各々の受講生の研究テーマの中で「リスク」が関係してくる内容に焦点を当ててもらい、それぞれの研究テーマをまた違った視点から考察し、それを報告してもらいます。
「医療保険制度研究」では、今は“The Welfare State as a Piggy Bank”という洋書の医療保険の章を輪読し、保険及び医療保険の基本的な理論・背景・意義などを学んでもらいます。その後、実際に諸外国で導入されている医療保険制度の内容を受講生に報告をしてもらっています。それを元に、各国の違いやメリット・デメリットなどを議論しています。私自身、海外の医療保障制度で最も興味を持っているのは、税を主な財源として医療を提供しているイギリスですので、イギリスの制度についても解説しています。財源が税か保険かでどのように制度が変わってくるのか、医師や患者、保険者(国)の行動や意識などもどのように変化していくのか、などを受講生と議論し、さまざまな視点から考察をしてもらいます。長い人生の中で、誰もが利用する医療サービスに対し、その財源やサービス提供のあり方に関し興味をもってもらい、望ましい医療保障制度とはどのようなものか、議論の中で導いていくことを目指しています。
今後、医療分野は介護分野との関連がさらに深まっていくでしょう。どうすれば医療と介護、福祉がスムーズに連携していけるのか、ということも視野に入れ、医療や介護をどう提供していけば、人々により幸せな生活をもたらせるようになるのか、「日本の医療・介護・福祉をより良くするには?」ということを、皆さんと一緒に勉強していきたいと思っています。
袁 麗暉(准教授)~中国医療システム研究~
専門分野は医療経済学であり、中国の医療制度・介護制度を研究しております。特に日本の制度との比較を視野に入れつつ、中国の制度設計や政策効果について分析を進めていて、アジアの高齢化社会における制度間の相互学習に資する研究を目指しております。
本コースでは「中国医療システム研究」を担当しており、教育・指導においては、以下の2点を重視しております。
1.社会問題の適切な把握 — 医療・介護をめぐる課題を、その背景にある社会的文脈から正しく理解すること
2.量的分析手法の適切な活用 — 客観的データに基づく実証研究のために、適切な統計手法を選択・応用する能力の育成
健康、医療、介護に関心があるみなさんと一緒に勉強できることを楽しみにしております。