山口大学経済学部・経済学研究科 経済学部
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本学への寄付

卒業生の葛見雅之さん(学23期)が令和5年春の叙勲で瑞宝小綬章を受章されました

トピックス

 母校・経済学部から叙勲にあたっての寄稿依頼をいただいた。
 多少の迷いもあったが、この機会に母校や、近しく接して頂いた先輩・後輩への感謝を申し述べるとともに、在校生の皆さんを始め、山大経済学部への入学を志望する受験生の皆さんにも何らかの示唆を与えることができれば望外の喜びであると思い直し、筆を執った。

●大いに悩んだ学生時代                                    
 吉田寮から学生生活がスタートした。部屋は二人部屋。私の相方は延岡出身のI君で理系。すなわち文理学部・数学科の学生だった。寮では中四国・九州を中心に同世代の仲間が多く、酒を飲み、議論をし、タイプの違う友人たちとも大いに交流を深めることができた。
 2年時は専門課程が亀山で行われていたため、二人一部屋の寮を出た。亀山のふもとで下宿生活に入ったが、そこでは独りで過ごす自由時間が格段に増えた。この時に思想・哲学、宗教、社会学、経済などの古典を乱読し、自分なりに煮詰めた試し書きをノートに残している。そのノートを見ると今の心情と本質的には変わらない。いやもっと鋭く、深い洞察をしていたことに驚く。
 私は恥ずかしながら優等生ではなかった。4年時が近づくと、「会社への就職」がイメージできず、就職活動はしていない。それでも何かの職に就かなければいけないという強迫観念はあったため進路について大いに悩み、悶えた。
 ある時、ゼミの担当であった鈴木教授に当時開設して間もない大学院で学ぶことを示唆され、そこで迷いが晴れた。大学院に入るため、英語とドイツ語を学び、調査・研究、学術論文の書き方の指導を鈴木先生に教わったことが後々大いに役に立った。
 海外の文献を読み解き、物事を理論的に整理し、分かりやすく発表し、伝える作業を学んだ。残念ながら2年前の春に鬼籍に入られた指導教授・鈴木先生に感謝の念を捧げたい。

●財務省時代
 役所では中長期的な施策を検討しながら、毎年の予算を策定する際の参考となる内外の社会経済動向や各国の経済・財政制度の比較調査・研究を行なう部署に長く籍を置いた。こうした調査・分析、小論文の作成は大学院時代に馴染みがあったため、苦手意識はなかった。
 また、役所では海外で見聞を広げる経験も積ませてくれた。若い時はワシントンの国際機関で学び、ジェトロ出向時はアジアの統括センターであるバンコクで調査を担当するセクションに身を置き、また欧州については金融のアンカーであるブンデスバンク(ドイツ連邦銀行)を中心に金融政策の在り方について学ぶことができた。
 またある時期には、民間会社から調査研究の素養を身に付けるため出向していた若手の方々と一緒に研究し、論文を作成・発表した時期があった。この時の成果物の一端を収めた書籍は山大図書館に寄贈している。
 役所の生活は今でいえば「ブラック」。終電車で帰る日も多かった。国会開催中は終電にさえ乗れず、辺りが白み始める朝方に帰宅し、2時間ほどの仮眠のあと、出勤した時も多々あった。しかし幸い身体を壊すこともなく、人間関係にも恵まれていたためか、勤務が辛いと思ったことはなく、寧ろ嬉々として仕事をしたように思う。まるで毎日神輿を担ぐような高揚感さえあった。

●叙勲受章にあたって
 私が今日あるのは、大元を辿れば学生時代に行き当たるように思う。何不自由のない順風満帆な学生時代とはいかなかったが、親元から離れ、そこで学び、考え、悩んだ。
 アルバイトをし、奨学金のお世話になりながらの悩み多き学生時代ではあったが、今振り返ると学生時代は決して無駄な時間ではではなかった。その時に思ったこと、考えたことが現在の思考回路や行動様式のベースになっているからだ。
 また、友人関係でもそうだ。今でも心の垣根なく話ができるのは、職場仲間ではない。地元の方でもない。学生時代、私の近くにいた同世代の仲間だ。50年越しの付き合いであり、それぞれ違う進路を歩んだ学生時代の友垣だ。その時の仲間と今でも心の和む交流が続いている。
 しかし、そうした仲間たちとの交流が育まれた周りの状況に思いを致すと、学んだ母校の先生方、奨学金の手続きや生活全般の悩みにアドバイスを頂いた職員の皆さんがいたことに気付く。それだけではない。温かく接して頂いた寮のスタッフの方、下宿の大家さん、山大生を大らかに応援してくれた地元住民の方々の存在も大きかった。これらの皆さんに支えられての私であったのだ。この場を借りて改めて皆様に感謝の念を表したい。
 そして最後に、強い身体に生んでくれた両親、また近くで支えてくれた家族への感謝も忘れてはいけない。

学23期 葛見雅之
昭和50(1975)年に経済学部卒(学23期)、同大学院修了(2期)、旧大蔵省へ。
平成25年に財務省退官。

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