微分積分の本, 高木貞治「解析概論」は名著であると, 高校生のときに聞きました. それで, 大学1年生になったときに私は「解析概論」に挑戦しました. わかりもしないのに, カッコつけて読んでいました. 当人は正しく読んでいるつもりです. しかし, 今振り返ると, 残念ながら明らかに行間を読めていませんでした. 数式を見ていただけです. 私が手にした本は, 軽装版ではなくハードカバーの大きくて重い本です. 私の父が大学生のときに使っていたものです. 山口大学の数理科学科の図書室にも, この大きな本が7冊鎮座しています. この本を多くの学生に手に取ってほしい, と教員が思ったからだと思います.
私は本の数式を見ただけですが, その大きな本を拡げている姿は電子端末を見ている姿よりもカッコいいです. 電子端末を見ている人が勉強しているのか遊んでいるのか, ぱっと見ただけではわかりません. 本の場合は, 読む人よりも本の方が存在感がありますので, これは勉強だな, とすぐわかります. とぼけた顔のペンギンがキュウリの育て方の本を読んでいる姿はカッコいい (「すみっコぐらしのしあわせことば」).
数理科学科の図書室には「解析概論」以外にも, 良い本がたくさん書架にありますので, 数理科学科の学生の皆さんには, 是非とも, いろいろな数学の本を手に取って読んで頂きたいと思います. 今, 私の手元にあるカッコつけられる本として, E.C. Titchmarsh 著 `Introduction to the Theory of Fourier Integrals’ (Oxford University, 1948) があります. 全然, 読めていませんが, 新幹線に乗るときは, これを読んでいるふりをします. カッコつけて.
高木「解析概論」への挑戦について, とくに記憶に残っているのは, p.149, p.150 で紹介されているオイラーの定数 \(C\) です.
数列 \( \{c_{n}\} \) を
\begin{eqnarray}
c_{n}:= \sum_{k=1}^{n}\frac{1}{k} – \log n
\end{eqnarray}
と定めます. \(n \to \infty \) のとき, \( \displaystyle \sum_{k=1}^{n}\frac{1}{k}\), \( \log n\) は共に, \(+\infty\) に発散しますが, \( \{c_{n}\} \) は収束します.
この極限値
\begin{eqnarray}
C:=\lim_{n\to\infty} c_{n}
\end{eqnarray}
がオイラーの定数と呼ばれています. \( C \) の代わりに, \( \gamma \) (ガンマ) と書かれることも多いです. \(C\) の近似値は \(C=0.5772156\cdots\) ですが, 高木「解析概論」(p.150) に,
「\(e\) や \(\pi\) とは違って,\(C\) の数論的性質は未知である.例えば \(C\) が無理数であるかどうかも知られていない.」
と述べられています. \(e\) は高等学校の数学IIIで学ぶ自然対数の底です. \( \pi \) は円周率です. 大学1年生のときの私は, 上の文章にとても引かれました. 未知の数とはなんだろうか? また, \( \displaystyle \sum_{k=1}^{n}\frac{1}{k}\) と\( \log n\) は発散の様子がほとんど同じで, 差をとると, 定数 \(C\) が現れることにとても興味を覚えました. 大学院生になって, \(C\) が現れるのは自然なことと受け入れられるようになりました.
\( \{c_{n}\} \) が収束することは
\begin{eqnarray}\tag{1}
「有界な単調数列は収束する」
\end{eqnarray}
という命題によりわかります. この命題については, 数理科学科1年生後期の講義「微分積分学I」(4単位)で学びます(この命題は当たり前に成り立つように見えますが, とても奥が深いです.). \( \displaystyle y=\frac{1}{x}\) (\( 1\leq x\leq n+1\)), \(x=1\), \(x=n+1\), \(y=0 \) で囲まれた面積は \(\displaystyle \int_{1}^{n+1}\frac{1}{x}dx\) であるから, \(c_{n}\) は下から
\begin{eqnarray}
c_{n}&=&\sum_{k=1}^{n}\frac{1}{k}-\log n \geq \int_{1}^{n+1}\frac{1}{x}dx-\log n\\
&=&\log (n+1) -\log n \\
&>&0
\end{eqnarray}
と評価できます. つまり, \( \{c_{n}\} \) は下に有界な数列です. さらに, \( \displaystyle y=\frac{1}{x}\) (\(n\leq x\leq n+1\)), (\(x=n\), \(x=n+1\), \(y=0\) で囲まれた面積は \(\displaystyle \int_{n}^{n+1}\frac{1}{x}dx \) であるから
\begin{eqnarray}
c_{n+1}-c_{n}&=&\frac{1}{n+1}-\log \frac{n+1}{n}\\
&<&\int_{n}^{n+1}\frac{1}{x}dx-\log \frac{n+1}{n}\\
&=&0
\end{eqnarray}
であることがわかります. つまり, \( \{c_{n}\} \) は単調減少数列です.
従って, (1) より \( \displaystyle \lim_{n\to\infty}c_{n} \) は存在します. この値がオイラーの定数です.
オイラーの定数 \(C\) は積分を用いて書くことも出来ます. 実数 \( t \) について, 記号 \( [t] \) は, \(t \) を超えない最大の整数を表します (ガウス記号). そして, \( \{t\}:=t-[t]\) とします. オイラーの定数 \(C\) は積分を用いて,
\begin{eqnarray}\tag{2}
C=1-\int_{1}^{\infty}\frac{\{t\}}{t^{2}}dt
\end{eqnarray}
と書くことが出来ます. 積分区間が有界でない積分は, 広義積分と呼ばれ, 2年生前期の「微分積分学II」(4単位)で学びます. 表示 (2) については, 先日, 私が担当する4年生の卒業研究のセミナー(初等整数論のセミナー)に登場しました. 表示 (2) は \( \displaystyle \sum_{k=1}^{n}\frac{1}{k}\) に部分和法を用いることで得られます.
部分和法:
\(a(n)\) をすべての自然数で定義された複素数値関数とする. また, \( f(t) \) は \( t\geq 1\) で連続的微分可能な関数とする. 実数 \( x\geq 1\) に対して, 次が成り立つ.
\begin{eqnarray}
& &\sum_{1\leq n\leq x}a(n)f(n)\\
&=&f(x)\sum_{1\leq n\leq x}a(n)-\int_{1}^{x}f^{\prime}(t)\sum_{1\leq n\leq t}a(n)dt.
\end{eqnarray}
(これについては, 参考文献に挙げた卒業研究のテキストを参照してください. 連続的微分可能については「微分積分学I」で学びます.)
この部分和法を用いると, 実数 \(x\geq 1\) について
\begin{eqnarray}\tag{3}
\sum_{1\leq k \leq x}\frac{1}{k}=\log x + 1-\int_{1}^{\infty}\frac{\{t\}}{t^{2}}dt +O\left(\frac{1}{x}\right)
\end{eqnarray}
が成り立つことがわかります. これより, (2) が得られます. \(O\) はランダウのオーです. 「微分積分学I」や1年生前期の「数学I」(2単位, 共通教育, 高等学校の「数学I」ではありません.) で学びます.
何年か前に担当した4年生の卒業研究では, 次の定理を学びました.
定理 (Gronwall, 1913) \( \displaystyle \sigma (n):=\sum_{d|n}d \) とする (\(n\) の正の約数 \(d\) の総和). また, \(C\) をオイラー定数とする. 次が成り立つ:
\begin{eqnarray}
\limsup_{n\to\infty} \frac{\sigma (n)}{n\log (\log n)}=e^{C}.
\end{eqnarray}
ここで, \(e\) は自然対数の底である.
\(\limsup\) は1年生後期の「微分積分学I」で学びます. また, (3) は大学院生とのセミナーでもよく出てきますし, 私自身の研究でもよく使います. 2年生後期には「微分積分学III」(4単位)があります. これは, 変数が2つ以上の関数の微分積分です. とてもややこしいですが, 面白いです. 高等学校で学ぶ微分積分は, 大学で学ぶ数学の土台になっていると思います.
大学生のときに, 背伸びして挑戦したことが現在の職業に繋がったことはとても幸運でした. (南出)
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参考文献
- 高木貞治 「解析概論」改定第三版, 岩波書店, 1961年. (オイラー定数 (p.149, p.150))
- 監修 サンエックス, 武山廣道 「すみっコぐらしのしあわせことば」, リベラル社, 2005年 (p.25, p.39, p.40, p.111)
- M. Ram Murty and Kaneenika Sinha, `An Introduction to the Circle Method’, AMS, 2023. (今年度4年生の卒業研究のテキスト, 部分和法 (p.42), オイラー定数 (2) (p.43) )
- 内山三郎 「素数の分布」宝文館出版, 昭和45年. (何年か前の卒業研究のテキスト, Gronwall の定理 (p.68), 部分和法(p.44), オイラー定数 (2) (p.47))


