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ユリにキンモクセイ

10月も半ばですが, 日中はまだまだ暑いです. 冷たいお茶をガブガブ飲まないと暑くて倒れそうです. さらに, 十分な休養も必要です.

理学部のお隣の人文学部の建物のすみっこに, 季節外れのユリの花が咲いていました. とてもいい香りです. ユリにとって, やっと適切な気候になったのかも知れません. 理学部の庭には, 毎年夏にユリが咲きますが, 今年の夏は残念なことに, ユリは咲きませんでした. 実は, 2本だけ, ユリが育っていました. 私は花が咲くのを楽しみにしていましたが, ある日, 花が咲く前に引っこ抜かれてしまいました. 心に余裕がないと, ユリをユリだと気が付かないのかも知れません. 人文学部とは別方向のお隣の経済学部の方には, 夏に1本だけユリの花が咲いていました. 今年の夏はユリの少ない夏でした. ものすごく暑かったのだと改めて感じます.

広辞苑を引くと, ユリは「揺り」の意か, とあります. 確かに, チョンと触れるだけで花は揺れますが, 他にも揺れる花はたくさんあるのではないかと私は疑ってしまいます. ユリの花は大きいので, 花の揺れ方がダイナミックであるとは思います. 10月8日の朝日新聞の21面・山口欄に, 広辞苑の編集者・新村出(にいむらいずる, 1876-1967)が紹介されていました. 私は新村が山口県生まれだと, その記事で知りました. 10月4日が生誕150年だったようです. 私が中学2年生のときだったと思います. 新村出の「出」を何て読むのかと, 国語の先生に質問した記憶があります. 「いづる」と即答されました. それが今では, エラソーに数理科学科の学生に向かって「ちゃんと英和辞書を引いて予習しなさい!」と言っています (3年生後期の発展セミナーや4年生の卒業研究で, 私は英語で書かれた数学の本をテキストに使うことが多いです. 鞄の中から, 洋書が出て来るとカッコイイですよ.).

広辞苑の「バカ」の項に, 「梵語moha(慕何)、すなわち無知の意からか。古くは僧侶の隠語。」とあります. 松本修著「全国アホ・バカ分布考」に, これは新村より以前に, 江戸時代中期の天野信景の「塩尻」や新井白石の「東雅」で提唱されているもので, その後, 大槻文彦の「言海」(1891年, 明治24年) のバカの項でも主張されていると書かれています. 新村自身は, この説を否定したかったようです. 否定する根拠を見出せずに, 広辞苑にこれを載せたのだと思います. 数学も確りした証明が肝心です. 「多分, この命題は偽である」ではダメです. また, テキストや論文に書かれている定理を鵜呑みにしてはいけません. 先日, 読んでいたある論文は, 定理成立のための仮定が足りないのではないかと私は疑っています. それで, 途中で論文を読むのを止めてしまいました. 最初から, 自分で考えた方がいい. 私の説では, バカの語源はサンスクリットの moha ではなく, サンスクリットの bhagavat (幸運な人) です. 石川県などでバカのことを「アヤメ」と言いますが, このアヤメは「アホ・バカ分布考」(第4章)に「肖りたいほどの果報者」から来ているのではないかと述べられています. そうならば, 遥か大昔のインドでも, 呑気でかなり抜けている人を, 親しみを込めて(?) bhagavat と呼んでいて, そのうちバカに近い音になり, それが仏教を通じて日本に入って来たのではないか. 私は密かにそう思っていますが, その根拠を集められるほどの力はありません. 上の新聞記事には, 新村が「言海」の「バカ」をメモしたノートの写真が添えられています. 記事によると, 新村の自筆ノート1400冊が捨てられずに残されているそうです. 京都市北区の新村旧宅で開かれている生誕150年周年記念の展覧会で, そのノートの一部を見学者が手に取って見ることが出来るそうです. 私も時間があったら京都に行って, 実際にノートを手に取って見て, 新村出に肖りたいです. ノート1400冊とはものすごい数です.

私は仕事が忙しいとき, ひと月に一冊もノートを使い終わりません. 大学院生のとき, 新聞である数学者のインタビュー記事を読みました. その数学者が「ノートを一日一冊使う」と応えているのを読んで, それだけ勉強しないといけないのか!とガックリ来て, 落ち込みました. 最近は, 図々しいので動じないどころか, ノートを一冊使い終わるごとに, 実際は反故ばかりなのに「よく勉強した」と自分をおだてたり, 励ましたりします. 自分が頑張って勉強したことを自分で誇りに思うことは, 勉強継続のために大切なことだと思います. 私は, 数日でも計算しない日があると, 心身が数学に戻るのに苦労します. 答えを知らないのに, 計算することは不安であり, 恐怖です. それでも計算を続けないと数学ができなくなると恐れます. 失敗することや期待したものが得られないことは, 当然のことだと諦めて, 勇気を持って計算します. まぁ, 現実は, 証明や計算に失敗して, めげてばかりですけどね. 世の中, 例外はたくさんいると思いますが, 数学の勉強は, 教員が書いた黒板を眺めていても理解が深まるものではないと思います. 実際に, 自分でノートに書いて, 失敗して, 反故にする経験が大切だと思います. それでもめげずに勉強する! 勉強は継続が大事です. 他人から「スマートに見られたい」とカッコつける必要はないのです. 己自身が理解することがカッコイイのです. それに, ノートに字を書くことで, 頭の中も少しは整理されます. 数学の勉強に限らず, 大学入試の受験勉強もそうかなと思います. それはとても大変で, 苦労することだと思います. でも, 受験生のみなさん, 直ぐにスプーンを投げないでください!! 

しかしながら, 根を詰めて勉強すると, 辛くなって倒れてしまいます. 確り, 朝ご飯を食べて, エネルギーを蓄えるのが大切です. 勉強に疲れたら, 散歩する. 私は, 大学構内をいつも散歩しています. 散歩することで, 心に余裕が生じることがあります. 心に余裕があれば, キンモクセイのいい香りが山口大学構内を漂っていることに気が付きます. 図書館や理学部で, バーベキューの匂いがしたらものすごく臭いだけですが, ユリもキンモクセイもいい香りです. いい香りは, 心を安穏にします.

ユリの花言葉は「威厳」, キンモクセイの花言葉は「気高い人」です. 慌てず, 焦らず, 丁寧に一歩一歩勉強する. 気が付かないうちに実を結びます. 受験生のみなさん, めげずに.(南出)

参考文献

  • 朝日新聞2026. 10.8 21面 (山口欄) 「広辞苑編纂 新村出氏に迫る」

  • 広辞苑, 第6版, 岩波書店, 2008年.

  • 松本 修 「全国アホ・バカ分布考」新潮文庫, 新潮社, 平成8年. (p.266-p.277, 第4章)

  • 中村 元, 早島鏡正, 紀野一義 訳註 「浄土三部経 (上)」 岩波文庫 青 306-1, 岩波書店, 1963. (p.246)

  • 二宮孝嗣 「美しい花言葉 花図鑑」, ナツメ社, 2015. (p.178, p.197)

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