学環長挨拶
学環長挨拶
令和7年4月に、山口大学に新しい教育組織として「ひと・まち未来共創学環」が設立されました。多くの人にはこの名称から二つの疑問が生まれるのではないでしょうか。一つは「学環」とは何なのだろうということでしょう。もう一つは「ひと・まち未来共創」という名称から何を学ぶところなのかイメージしにくいということです。この二つの疑問は実は深く関係しています。
この「学環」は、これまでの学部の枠にとらわれずに、総合大学である山口大学の各学部の特徴的な教員や授業科目を活用して、文理融合・分野横断的な教育組織として作られたものです。ではなぜそのような教育組織が必要なのでしょうか。それは「ひと・まち未来共創」の部分で示していることと関わります。本学環はひとや地域の抱える様々な課題・問題を発見し、その解決に取り組み、新しい価値を生み出すことを目指す人材を養成することを目的としています。現在のひとや地域の課題は複雑で、一つの学問分野や特定のスキルだけで発見・解決できるわけではなく、複数の学問分野やスキルを組み合わせて取り組む必要があります。そのような学修のためには、この「学環」という形が適しているのです。
本学環では複数の学問分野について学びますが、そこには3つの柱があります。心理学・行動科学の分野、経済学・経営学、社会学などの社会科学の分野、データサイエンスやデジタル技術・AI技術の分野です。1つ目と2つ目の分野はひとや地域の理解、および、解決策を考えるにあたってひとや地域のあるべき姿を考えるために不可欠なものです。3つ目の分野は課題の発見とその解決のための手段として必要なスキルとなります。
さらにその学問分野を実際の社会で活用するための実践の場が「DXによる地域課題解決(PBL)」になります。この授業では企業や自治体などと連携をして実社会に存在するひとや地域の課題の発見や解決に取り組みます。
4年次の卒業研究は本学環の教育の集大成となるものです。課題解決のためにさらに学問を深く学修したり、必要なデータを収集したりして、実践的な企画・立案や新たな価値につながる提案を行う形で卒業論文をまとめる、もしくは、PBLで得た知識や経験を活かして地域の課題解決につながる取り組みの企画・立案さらに可能なら試行や実装までを行い、卒業研究課題報告を作成します。
このような教育課程や養成する人材像から、本学環で学ぶ学問は実際に学生自身が社会で活用できるものでなければいけないということがわかります。この点から見ると、本学環で学ぶ学問は課題の発見や解決、新たな価値創造のための「手段」です。とはいえ、学問を課題解決の手段としてのみ捉えると、課題の発見・解決などの目的に必要のない学修はしなくてもよいことになります。それで良いのでしょうか。
近年、AIが急速に進化しており、それによって私たちの社会において人間とAIの役割分担をどうするかという点が大きな課題となるはずです。そのような予測が難しい社会で生きていくためには社会の変化に合わせて新しいことを学んでいくことが必要です。知的好奇心のアンテナをいろんな方向に広げておくことは、将来、新たな課題に出会ったとき、その課題に必要な知識やスキルを学び始めるのに役立つかもしれません。目の前の課題解決のための必要性だけでなく、一生を通して学んでいく素地を本学環の学生が身に付けることを期待しています。