国立大学法人 山口大学

本学への寄付

No.12 2022年4月発行


(8.20MB;PDFファイル)

No.12 4月号(2022年4月発行)

<特集>

「Academi-Q」タブロイド版は、山口大学総合図書館(吉田キャンパス)、医学部図書館(小串キャンパス)、工学部図書館(常盤キャンパス)、医学部附属病院外来診療棟入口(小串キャンパス)で入手いただけます。


ブラックホールから“出てくる”エネルギー!?ブラックホール・ジェットの未知なるチカラ!

光さえも出てこられない、宇宙の暗い落とし穴。
そんなブラックホールから、脱出できちゃうモノがあるってホント!?

YU-PRSS 山口大学広報学生スタッフ 藤井 志穂

未知の天体「ブラックホール・ジェット」

 「ブラックホール・ジェット」とは、ブラックホール※1から噴き出すガスの流れのことです。速いものは光とほとんど同じくらいの速さで進みます。どのくらい速いのかというと、1秒間におよそ30万キロメートル、地球を7周半するくらいです。そのパワーは、ブラックホールの重力を振り切って銀河を飛び出し、はるか宇宙空間まで伸びるほど。このような常識破りの天体現象は、どのように生まれるのでしょうか?
 ブラックホールの周りでは、ガスでできた円盤が熱く輝いています。ブラックホールの重力で集まった星間物質※2が、ブラックホールの自転に合わせて高速回転することで、ガス同士がこすれて、摩擦熱と光が発生しているのです。
 ブラックホール・ジェットのエネルギー源は、このガス円盤だと考えられています。どうやってガスがジェットになるのか、なぜどこまでも伸びていくのかなど、解明されていないことはまだたくさんありますが、ジェットの存在が宇宙に大きな影響をもたらしていることは間違いありません。長く伸びるブラックホール・ジェットは、銀河を超えるほど遠くまで達して、エネルギーを注ぎ込みます。いわばエネルギーの運び屋になって、宇宙全体へ影響を及ぼしているのです。
 ブラックホール・ジェットの解明が進めば、ブラックホールの成長の様子を知ることができるかもしれません。例えば、「強いジェットが頻発する時期は、ブラックホールの成長期」という風に、ジェットの状態を見てブラックホールの発達段階が割り出せるようになれば、謎に包まれているブラックホールの一生が見えてくるでしょう。


巨大ブラックホール周辺の想像図(画像:国立天文台/AND You Inc.)

今、観測天文学で最も熱い研究

 2021年10月、山口大学理学部教授の新沼浩太郎さんが参加する国際研究チームが、超巨大ブラックホール「3C84」から飛び出たばかりのブラックホール・ジェットが、星間物質にぶつかって消滅する瞬間を観測したと発表しました。
 ブラックホール・ジェットの先端は、「電波ローブ」と呼ばれるふくらんだ形をしています。ホースから水を出すと、はじめは細い水流が勢いよく出て、ホースから離れるほど広がっていくのに似た状態です。通常、電波ローブの中では、「ホットスポット」と呼ばれる部分が活発に動いていますが、今回観測したジェットのホットスポットは、1年間も同じ場所にとどまり、最後は消えてしまいました。研究チームは、密度が高すぎるガスにジェットがせき止められ、突破できずにバラバラになったのだろうと考えています。
 これまで、ブラックホール・ジェットが進む方向には何もないと考えられていました。たえず吹き出すジェットが進路にある物質を押しのけて進んでいくため、 その通り道には、 遮るものがないという考え方です。しかし、今回のケースでは、一度吹き飛ばされて何もなくなった空間に、すぐさまガスが流れ込み、ジェットの進路をふさいだと考えられます。ブラックホール周辺のガスが、思った以上に複雑な動きをしている可能性が浮上しました。
 新沼さんは今も「3C84」の変化を追い続けています。山口大学は山口市郊外に直径32メートルもある大型の電波望遠鏡を2台持っており、教授も学生も自由に使うことができます。こうした恵まれた環境は国内では珍しく、世界中にもごくわずかしかありません。この山口大学の電波望遠鏡は、世界最大級の電波観測網「東アジアVLBI観測網」に参加しており、世界規模でブラックホール・ジェットの観測・研究が進められています。宇宙の多くの現象は、何万年、何億年もかけて起きます。そうした中、数年で大きな変化を目にできるブラックホール・ジェットは、観測天文学で今、最も熱い研究分野なのです。


KDDI山口衛星通信所(山口市仁保中郷)に設置されている宇宙観測用巨大電波望遠鏡

※1 宇宙空間にある天体。極めて高密度で強い重力のために、物質だけでなく光さえ脱出できない
※2 星と星の間に漂う水素やヘリウムなどを主体とした気体


取材協力:山口大学理学部 新沼 浩太郎 教授

国宝を守るのは誰か

貴重な文化財は日本の文化とともに歩んできました。
日本の文化が失われると、文化財の修復技術や材料も失われていきます。
歴史は私たちの生活とともにあるのです。

傷んでいく文化財

 工芸品や絵や建築物など、日本には貴重な文化財がたくさんあります。なかには1,000年以上前につくられたものもあります。文化財は、後の世代に受け継がれるように、できるだけ丁寧に扱われます。しかし、どんなにすばらしいものであっても、紙や木や土や石でつくられており、永久不滅なものはありません。汚れがついたり、日に焼けたり、絵の具がはがれたり、木が割れたり、カビが生えたりと、少しずつ傷んでしまいます。

 

次世代に何を引き継ぐのか

 傷んだ文化財の修理は、決して誰にでもできるものではありません。修復技術はもちろんのこと、その文化的背景や歴史を理解していなければなりません。そのため、文化庁が「選定保存技術保持者」を指定しています。現在、全国で58名です。
 山口大学客員教授の馬場良治さんは、全国で5人目に選ばれた選定保存技術保持者です。国宝の平等院鳳凰堂の扉絵をはじめ、数多くの寺院などの
文様や絵画の修復を担当してきました。
 「文化財の修復は、できるだけつくられた当時のものを使って行います。しかし、まったく同じものが使えないこともあります」と、馬場さんは語ります。
 それは現代に限った話ではなく、昔から同じ苦労があるそうです。例えば、江戸時代中頃には富士山の噴火や地震や凶作により、幕府が質素倹約を打ち出し、ぜいたくなヒノキを使わず代用品のツガの木材で、修復が行われたことがあるそうです。それでは元の状態とは違うのですが、他に打つ手がなければ仕方がありません。いつの時代も、担当した人は皆、悩みながら修復してきたことでしょう。
 このように文化財は、いろいろな歴史を背負い、その時々のいきさつを含めて現代に引き継がれているのです。そのため文化財の修復は、「何を次世代に引き継ぐのか、という視点があってはじめてできます」と、馬場さんは語ります。


平等院 来迎柱:下絵(上)と復元図(下)

 

私たちと歩む文化財

 文化財を修復するのに必要なのは材木だけではありません。絵具や紙や布、もっといろいろな材料や、それを加工する道具も、そしてそれらを使う技も必要です。例えば、水墨画は墨と和紙からできています。墨にもいろいろな種類があり、絵を描くには粒子が細かくて青みを帯びているものが良いそうです。和紙の中には硅素(けいそ)を多く含んだ土で漉いたものがあります。これを使うと金箔や墨には、よく映えるのだそうです。
 そうした墨や和紙を作る技術が受け継がれていなければ修復できません。同じように、文化財それぞれに刷毛や畳の針、大工道具といった多くのツール、それを作る人たちも必要です。そうした道具を使いこなす技術も受け継いでいかなければなりません。 「しかし、道具や技術を受け継いでいくだけでは、いずれ文化財修復は立ち行かなくなるでしょう」と馬場さんは語ります。
 「文化は日常に溶け込むことが大事です。木造建築も、絵画も、畳も、焼き物も、日本の文化として普段の生活に活用され続けてこそ、高品質な材料が供給され、技術のレベルも向上し続けるのです。孤高なだけでは維持できません」
 日本が誇るすばらしい文化財の数々。私たちと同じ時代を生きて、この時代の影響を受け、そして次世代へと引き継がれていくのです。それらを守るためのカギは、特殊な技能を持った一部の人たちだけではなく、私たちの普段の生活にもあるのです。。


日本画の絵具:顔彩

  • コラム

どうやって「選定保存技術保持者」になれたのか?

  馬場さんは最初から選定保存技術保持者を目指していたわけではないそうです。26歳から絵を描こうと志したそうですが、しばらくは尼寺に居候させてもらい、いろいろな人に出会って、ようやく芸術大学に入れたそう。そうした紆余曲折を経て、絵を30年間描き続けていたら選定保存技術保持者に声をかけられたのだそうです。
 「今はまだ目指す道がわからなくても、“やってみたい”という純粋な意思を貫く気持ちがあれば、出会いや偶然が重なって何かにあたることがあります。私が目指すものが見えるようになったのは50歳のとき。それくらい回り道をしてもいいのではないでしょうか」馬場さんはうれしそうに語ります。
 なかなか真似できないアドバイスをいただきました。


取材協力:山口大学 馬場 良治 客員教授

単位のはじまり

牛の声が聞こえる距離を表すクローシャ、猫がひとっ飛びするくらいの短い距離を表すカッツェンシュプルング。
世界のこのようにユニークな単位は一体どのようにして生まれたのでしょうか?

YU-PRSS 山口大学広報学生スタッフ 藤井 志穂

 山口大学人文学部准教授の小林宏至さんによると「単位は人間の身体や身の回りの環境から生まれてきた」そうです。例えば、『尺(しゃく)』という単位があります。これは人が手を伸ばしてサイズをはかることに由来するといわれています。その1/10の『寸(すん)』は、『一寸法師』や『一寸の間』のように短い長さや時間を表す単位として使われます。
 他にも、お米の量を数えるとき、1合・2合などの「合(ごう)」という単位を使いますよね。この単位は人が一度に食べるおよその米の量を表しています。どちらも身体と関係しています。

◆近代的な単位と古典的な単位

 かつて近代的な単位がなかった頃、このように人々は自分の身体や身の回りのものを使って長さや重さを表しました。メートルのような近代的な単位は、世界共通で正確にものを測り、伝達する際に欠かせないものです。それに対して、古典的な単位は、曖昧ではあるものの、身体や身の回りの環境から生まれたため、相手に説明する際、感覚的に伝わりやすいという特徴があります。小林さんは「近代的な単位と 1合・2合のように感覚的な単位のどちらもが今の生活に必要だからこそ、使われ続けているのです」と語ります。

◆これも単位に!?

 山口大学共同獣医学部では、コロナ禍における「ソーシャル・ディスタンス(人と人との物理的距離)」を、飼っているヤギ2頭分やポニーで表しています。2メートルという距離感をわかりやすく表現していますよね。
 みなさんも、ぜひ身体や身の回りのものから新たな単位を作ってみてはいかがでしょうか?


取材協力:山口大学人文学部 小林 宏至 准教授
イラスト:YU-PRSS 山口大学広報学生スタッフ 油野 史佳(ひとっ飛びする猫)、中藤 紗英佳(ソーシャル・ディスタンス)

コミュ力アップで新生活をスタート!初対面攻略の鍵は異文化を意識!?

新しい環境が始まるこの季節。初めて出会う人とは緊張して、うまく話せない?
心構えやコツを知って、上手なコミュニケーションを図ろう!

YU-PRSS 山口大学広報学生スタッフ 岩見 丞

相手と自分の違いを知ろう

 初めて会う人とコミュニケーションを取るときに重要なのは、「相手は自分とは異なる文化を持っていると意識すること」だと山口大学国際総合科学部准教授の永井涼子さんは語ります。たとえ相手が自分と同じ学校や性別であっても考え方は異なります。つまり、「面白い」と思うことや「楽しい」と感じることが違うことがあるのです。そこを意識することで、相手の考えを尊重しながら円滑なコミュニケーションを取ることができます。
 また、コミュニケーションにおいて同じく重要なことが「自分自身を知る」ことです。自分の考えや大切に思っていること、行動パターンなどを知っておくことで、より正確に自分のことを伝えたり、相手の意見を受け止めたりすることができるようになるのです。上手なコミュニケーションの第一歩は、まず自分を知ることから始まるのですね。

◆失敗は成功のもと!

 そうはいってもコミュニケーションは難しいもの。考え方の違う人間同士なのですから、うまくいかないのは当たり前のことです。専門家である永井さんであっても、コミュニケーションで悩むことがあるそうですよ。うまくいかない時があっても、失敗を恐れずにコミュニケーション力を磨いていくことが大切です。初めて会う人の場合は、自分も緊張していますが、相手の人も同じように緊張しています。ぜひ、右記のコツを参考に、適度な緊張と一緒にコミュニケーションを楽しんでみてください!

◆コミュニケーションのコツ

  • 会話に間を持つ
    相手も会話に参加しやすいように、区切りを持って、リズムよく話そう。
  • アイコンタクト
    目を合わせることはとても大事。苦手な人は、相づちのタイミングだけでも目を合わせてみよう。
  • 同じ仕草をする
    人間は親しい人とは動作を合わせるクセがある。これを利用して、初対面の人と話す時も動作を真似してみよう。(適度に)
  • 共感できる話題
    初めての人との会話は、「相手を知る」ではなく、「相手と場を共有する」。だから、お互いに共感できるような話題を選ぼう。

取材協力:山口大学国際総合科学部 永井 涼子 准教授
イラスト:YU-PRSS 山口大学広報学生スタッフ 左海 莉子

山口県産パンができるまで パンと給食パンと「せときらら」

みんなが食べる給食のパン。 使われている小麦は、県内産100%です。
それは全国的に見ても珍しいことなんです。

YU-PRSS 山口大学広報学生スタッフOG 小原 彩乃

◆県産小麦の難点

 山口大学農学部教授の高橋 肇さんは、「パンの地産地消はなかなか難しい」と語ります。
 一般的に小麦粉は、複数の産地のものをブレンドすることで、同じ味のパンやお菓子になるように調節されています。しかし、特定の産地のみの小麦粉の場合、天気などに左右されて年ごとに味や食感が変わってしまいます。品質にばらつきが出てしまい、おいしく焼き上げるにはブレンドするしかなかったのです。 

◆努力の結晶「せときらら」

 努力の結果、新品種「せときらら」が誕生しました。パン作りに必要なグルテンを多く含む海外品種に、山口でも育てやすい国産品種を何度も掛け合わせて生まれたせときららは、 ブレンドしなくても市販の強力粉に引けを取らないふかふかのパンを作ることができるようになったのです。
 現在、給食のパンだけでなく、せときららを使用した菓子パンやピザなど、パン屋さんが工夫をこらしたパンをたくさん作っています。せときらら100%の小麦粉を販売するお店も増え、家庭でもおいしいパンを作ることができるようになりました。皆さんも、お店でパンや小麦粉を見つけたら「この小麦はどこで作られたのだろう?」と考えながら食べてみてくださいね。


取材協力:山口大学農学部 教授 高橋 肇
写真協力:山口県総合技術センター(麦畑)、三丘パン研究会(クグロフ:写真右下のお菓子)


ヤマミィ4コマ『好奇心』


企画・制作:YU-PRSS 山口大学広報学生スタッフ
左海 莉子、油野 史佳、江藤 由喜

 

あなたのご意見・ご感想

Academi-Q のwebページにご意見ご感想等をお寄せください。
※皆さまからお寄せいただいたご意見等は、誌面で紹介させていただく場合があります。 あらかじめご了承ください。

YU-PRSS 広報学生スタッフ紹介

編集後記

 4月になりました。新学期です。この春に入学式を迎えた皆さんも多いことでしょう。新しい学校、新しい服、新しい生活。皆さんひとりひとりに新しい未来が広がっていますね。
 さて、ウクライナという国で戦争が始まってしまいました。皆さんもニュースで聞いたことでしょう。現地にも多くの学校があり、たくさんの児童・生徒の皆さんがいるはずです。楽しく学校に行くことはかなわずに、戦火を逃れている方も多いでしょう。なかには未来が完全に閉ざされてしまったケースもあるでしょう。そして失われた未来は二度と戻りません。確かにそこにあったはずなのに。この事態を止めるために、私たち多くの大人達が懸命の努力を重ねています。一日でも早く努力が実を結ぶことを願っています。


発行人 山口大学長 谷澤 幸生 / 編集長 山口大学教授 坂口 有人
デザイン・企画 株式会社無限 / 発行 山口大学総務企画部総務課広報室
〒753-8511 山口市吉田1677-1
TEL: 083-933-5007 FAX: 083-933-5013
E-MAIL: yu-info@(アドレス@以下→yamaguchi-u.ac.jp)

総発行部数160,000部 / 山口県内の教育委員会・学校等を通じて、児童、生徒、保護者、先生方に配布します。次回2022年7月発行予定。

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