国立大学法人 山口大学

本学への寄付

No.14 2022年12月発行


和牛と、和牛にならなかった牛たち

世界を席巻する和牛ブームの影でそのルーツとなった牛たちは消え去ろうとしていた。

 

原点「見島牛」

 筋肉に脂肪が霜降り状にはいる肉質。柔らかさ。そして旨み。和牛は世界の国々で大人気です。日本が生んだ誇るべき品種といえるでしょう。
 その原点ともいうべき牛が「見島牛(みしまうし)」です。黒い小柄な体に立派な角が特徴の見島牛は、日本の在来種のひとつです。そんな見島牛は頭数を減らし、いまでは国の天然記念物として山口県でのみ保護される状態です。

働き手だった牛

 かつて日本に牛はいませんでした。弥生時代に米とともに農耕用として海を渡ってきた、と考えられています。その後、稲作の普及に伴って各地に広まり、日本の風土に合わせて変化してきました。足が細くなったのも、田んぼを歩きやすいからかもしれません。
 また、仏教の影響があって、昔は肉食は盛んではありませんでした。そのため、牛は肉用ではなく、田畑を耕したり、荷物を運んだりと、共に汗を流す働き手として暮らしてきました。

和牛の誕生

 明治時代になり西洋文化が入ってくると、日本でも肉食が広まりました。そして日本の牛は、海外の牛と違って霜降りの肉質であることが分かりました。それならば、小柄ながらおいしい日本の牛と、体格の良い海外の牛とを掛け合わせれば、素敵な肉用牛ができると思われました。
 しかし、実際にやってみると難しく、多くの試行錯誤が繰り返されました。そうして長い年月をかけて、肉質の良さはそのままに、成長が速く、体の大きな肉用牛が生まれました。スーパーブランド「和牛」の誕生です。
 日本中で新しい品種が育てられ、多くの人たちがおいしい牛肉を楽しむことができるようになりました。和牛は世界に輸出され、高級ビーフとして不動の地位を獲得したのです。

失って初めて気づく

 その一方で、ふと気がつくと昔ながらの日本の牛はいなくなっていました。
 牛は人間が品種改良してきた動物です。動物の性質は、性質が異なるお父さんとお母さんの遺伝子が混ざることによって改良できます。いろんな遺伝子をもつお父さんとお母さんがいなければ、改良もできなくなります。一度失われてしまうと、同じ牛を取り戻すことはできないのです。
 かつては大事な働き手だった牛たち。いまでは農業は機械化され、牛たちの活躍の場がなくなると同時に居場所もなくなっていたのです。
 追い詰められた牛たちは、離島でわずかに生き残るのみでした。山口県萩市の見島と鹿児島県の口之島(くちのしま)です。

はぎのすずらんちゃん

 見島の牛たちは、国の天然記念物として保護されることになりました。いまではわずか数十頭しかいません。
 貴重な牛たちが一カ所に集まっていると、もしも伝染病が流行した際に、全頭が被害にあってしまうかもしれません。そこで、県内の数カ所で分散して飼うことになりました。
 「はぎのすずらん」ちゃんもそのうちの一頭です。山口大学農学部で暮らしています。これは種の保存という意味もありますが、和牛のルーツとして、なぜ霜降り肉ができるのか、という謎を解く研究につながるかもしれません。
 日本の牛の長い歴史、そしてその将来を背負って、はぎのすずらんちゃんは今日も草を食べています。

~萩市見島のふしぎ~
見島の形はなんだか牛に見えてきませんか?

 


取材協力:山口大学農学部 荒木 英樹 教授 / 山口大学農学部附属農場 竹田 重寿 技術専門職員 / 山口大学共同獣医学部 谷口 雅康 准教授

 

「やる気」に悩む人必見!? やる気の正体をあばく!!

わかってはいるけれど、やる気が出ない…。
そんな悩めるあなたを応用行動分析でお助けします!

YU-PRSS 山口大学広報学生スタッフ 松本 菜那

急募「やる気」の出し方

 やるべきことがあるのになかなか取りかかれなくて困った経験はありませんか?宿題や提出物、テストなど、私たちは日々何かに追われて過ごしています。そこに立ちはだかるのが「やる気」という壁です。書店に行けばモチベーションや仕事術をテーマにした本がずらりと並んでいますし、インターネットで「やる気の出し方」と検索すれば、さまざまな知恵や記事が見つかります。このように、やる気は現代人を悩ませる大きな悩みの種といえるでしょう。では、スマートフォンやゲーム、SNSといったたくさんの誘惑にあふれる暮らしの中で、どうすればすべきことに集中できるのでしょう。心理学の1分野である応用行動分析にヒントをもらってみませんか。

やる気ってなんだ??

 やる気は目に見えないもの、形あるものではありません。そもそも私たちが必死になって出そうとしている「やる気」とはいったい何なのでしょうか。応用行動分析を専門とする山口大学教育学部准教授の須藤 邦彦さんは、「やる気そのものは操作できる対象ではない」と語ります。つまり、やる気そのものをあやつることはできないのです。「やる気を出す方法が知りたかったのに残念…」と思った人もいるかもしれません。しかし、ここで強調したいのは、やる気にとらわれる必要はないということです。いったんやる気から離れてみましょう。ここではアプローチを変え、私たちが行動を起こす原理に焦点を当ててみます。

やるから、やる気が出る

 「行動の結果、本人にとって良いことが出てくる、または、嫌なことが消えてくれると、その行動は今後も起こりやすくなります」と須藤さんは語ります。
 宿題を例にあげると、「宿題をする」という行動によって、結果的に宿題という嫌なことが消え、「できた!」という満足感を得られるので、今後も「宿題に取り組む」という行動が起こりやすくなります。
 このように応用行動分析では、行動を通した環境の変化によって、その後の行動が起きたり起きなかったりすると考えるそうです。したがって、このような行動の結果からその行動が維持されたり増えたりする現象を、私たちは「やる気がでた」と考えることがあるのです。
 さらに、行動がすぐに単純にできるもので、なおかつ、本人にとって良いことが増えたり、嫌なことが減ったりすると、よりその行動が起こりやすくなるといいます。この過程は成功体験や達成感を得ることに似ていますね。
 では、より高い達成感を得るために、具体的にどのような環境を用意するとよいのでしょうか。例えば、すべきことをやったときに丸を付ける、シールがもらえる、ポイントがたまるといったご褒美を設けたり、「〇〇をするとこんなに良い未来が待っているんだ」と自分の行動にポジティブな意味づけを行ったりすることが考えられます。以上のように自分の環境にわかりやすい変化をもたらすことが効果的だといえます。

とりあえず動いてみる

 まずはすぐに単純にできることからやってみる。ここで重要なのは、「すぐに単純にできること」というのは、 人それぞれ違うということです。勉強を例にあげると、すぐに単純にできることが、「簡単な計算問題を解くこと」という人もいれば、「暗記系の勉強をすること」という人もいます。
 ただし、何のヒントもなしに自力でゴールにたどり着くのが困難で、取り組むこと自体が嫌になり、途中であきらめる人もいるかもしれません。そんなときは、周りの人に助けを求めることも重要です。勉強の内容はもちろん、そもそも何から手をつけていいのかわからないときも、家族や先生、友達に頼ることで、勉強という行動につながるより良い環境を整えることができます。
 私たちは、「やる気が出ないなんて自分はダメな人間だ」と悩みがちです。しかし、「やる気が出ない」と悩む必要はないのです。やってみてどこがうまくいったのか、あるいはいかなかったのかを考え、自分にはどの環境ややり方が向いているのかを試してみるのです。須藤さんは、「自分にとって一番良いやり方をカスタマイズしていくことが必要」だと語ります。今回紹介した人間の行動原理を、「やる気」という大きなハードルを低くする一つの手がかりにしてみてはいかがでしょうか。

 


取材協力:山口大学教育学部 須藤 邦彦 准教授
イラスト:YU-PRSS 山口大学広報学生スタッフ 油野 史佳

 

海外ではあまり見られない!? 日本の冬の風物詩!!「霜柱」

YU-PRSS 山口大学広報学生スタッフ 岩見 丞

地面の下の力持ち!?

 山口県にも本格的な冬が到来しました。寒い朝に土の上を歩くと、ザクッザクッと地面から音が聞こえることがあります。その音の正体は、土の中にできた「霜柱」が踏まれて、壊れる音かもしれません。
 地面にある土は、水や岩石のかけら、空気などが混ざってできています。とても寒い日には、表面の土に含まれる水は凍って、氷になります。表面の水が減った分、その下から毛細管現象によって水が吸い上げられます。この吸い上げられた水がさらに凍り、先にできた氷を押し上げます。これをくり返すことで、氷は上に向かって柱のように成長し、霜柱になります。霜柱は、上にある土をも持ち上げるため、周りの地面と比べて、少し盛り上がって見えます。まさに、“地面の下の力持ち”なのです。

霜柱は世界では珍しい現象

 この霜柱、俳句の世界では冬の季語として古くから親しまれるほど、私たち日本人にとっては身近な自然現象です。しかし、霜柱ができる条件がそろうのはけっこう難しいのです。
 山口大学農学部准教授の柳 由貴子さんは、「霜柱は海外ではあまり見られない珍しい現象」だと語ります。これには、先ほど解説した霜柱のでき方が関係しています。まず、霜柱ができるためには、土の中の水が凍るほどの寒い気候が必要です。しかし、寒い場所であればどこでも霜柱ができるわけではありません。気温が低すぎると、表面だけでなく、土の中のほとんどの水が凍ってしまうため、霜柱はできないのです。さらに、土の種類も重要です。霜柱ができるためには、土の中に水の通り道がなくてはなりません。日本の土は、火山灰を含むことが多く、細かい土の粒に少し大きな粒が混じった状態になっています。この不ぞろいな土の粒たちのすき間が水の通り道となって、霜柱ができるのです。日本の豊かな水と冬のちょうど良い寒さ、さらに土の種類という条件がそろって初めて霜柱を見ることができるのですね。

霜柱を見つけてみよう!

 山口県でも霜柱を見つけることができます。天気予報で気温が0度を下回る日をチェックしてみてください。柳さんによると、朝早くに日陰のフワフワとした柔らかい土がある場所を探すのが狙い目だそう。霜柱を見つけたら、踏みしめて、ザクッザクッという冬の音を味わってみてはいかがでしょうか。

細い管を液体の中に入れたとき、液体が管の中を動く現象。例えば、水が入ったコップにストローをさすと、ストローの中の水はコップの中の水に比べて、少し上に吸い上げられる。

 


取材協力:山口大学農学部 柳 由貴子 准教授

 

一人ひとりの顔がカギになる!? 顔認証のしくみ

人間を見分けるプロ。顔認証のしくみを探ってみよう!

YU-PRSS 山口大学広報学生スタッフ 山内 彩華

すごいぞ!顔認証

 みなさんが持っているスマートフォン。普段どうやってロックを解除していますか?パスコード、指紋認証など、いろいろな方法がありますよね。その中のひとつ、顔認証のしくみについて、山口大学工学部准教授の藤田悠介さんに伺いました。
 藤田さんによると、一般的にスマートフォンで使われている顔認証は、あらかじめ登録しておいた顔の画像データとカメラで認識した顔を照らし合わせているそうです。AIが顔の画像データから目や鼻、輪郭などのパーツを認識し、それぞれのパーツの形や大きさ、位置関係などの特徴を比べて、同じ人物かどうかを判断しているのです。
 特にコロナ禍では、マスクをしたままでも正しく確認できるかどうかが気になりますよね。その点においても顔認証は優れています。顔全体ではなく、目などの特徴的な部分を照らし合わせて、本人かどうかを確かめているため、マスクで顔の下半分が隠れていても、個人を正しく見分けることができるのです。
 また、最近では目や鼻の配置などだけでなく、顔の凹凸まで判断できるスマートフォンもあります。この認証システムでは赤外線を顔に照射し、顔に当たった赤外線が端末に跳ね返ってくるまでの時間を計測することで、顔の凹凸を認識します。これなら顔写真を使った他人による“なりすまし”を防ぐことができます。顔認証の精度はますます上がってきているのです。

顔認証の未来

 現在、顔認証はスマートフォンのロック解除だけではなく、空港の入出国の際にも使われています。これから先、さらに技術が発達していくと、教室に入るだけで出欠がとれる。スーパーやコンビニも顔パスで買い物ができる。家も自転車も、あなたの顔がカギになる。そんな時代が来るかもしれませんね。

 


取材協力:山口大学工学部 藤田 悠介 准教授

 

意外と知らない!? 電子レンジで食品が温まる秘密!

一家に一台なくてはならない便利家電、電子レンジ!!
みなさんどうやって食品が温まるのか知っていますか?
今回は電子レンジの温める仕組みをご紹介します。 

YU-PRSS 山口大学広報学生スタッフ 堀井 皇誠

どうして温まるの?

 電子レンジでは火を使わず食品が温まります。火での調理と電子レンジでの調理、どう違うのでしょうか。
 火を使った調理は、お鍋を火にかけてお鍋が温まったら、食品を入れて焼いたり炒めたりします。つまり火の熱がお鍋、食品の順に伝わっていくのです。
 一方で、電子レンジでの調理は、お皿に食品をのせますが、目に見える方法で熱を直接加えることなく食品を温めることができます。
 電子レンジが食品を温める秘密は「電磁波」にあります。
 電子レンジの中には、「電磁波」を発生させるマグネトロンという装置が入っています。そこから電磁波が出て食品に当たります。電磁波が当たることで、食品の中の水分子(H2O)が力を受けます。そして、水分子が激しく振動することで熱が発生し、周りに熱が伝わっていき、食品全体が温まるのです。人に例えると、追いかけっこなどで動いて走ると体温が上がり温まるようなものです。
 食品を簡単に便利に温めてくれる電子レンジ。その一方で、電子レンジで加熱してはいけないものもあります。生卵のような水分が硬い殻で包まれたものは爆発の恐れがありますし、アルミホイルや金箔・金属塗料は火花が出る可能性があり、大変危険です。便利な電子レンジですが、使う際は安全に気を付けましょう。

火を使わないからお手軽!
電子レンジでミカンのマーマレードを作っちゃおう!!

【材料(作りやすい量)】

  • みかん 3個(280g)
  • レモン汁 10滴ぐらい
  • グラニュー糖 皮も実も含めたみかんの重さの50%程度。今回は140g使用しました。

【作り方】

  1. みかんのヘタを取り皮ごとよく洗い、皮ごと4等分に切る。
  2. みかんの皮をむいて、調理バサミや包丁で千切りにし、耐熱容器に入れる
  3. グラニュー糖を全量入れ、その上から実を1/3から1/2ぐらいにちぎって入れ、レモン汁を10滴ぐらい入れる。
  4. 600wのレンジで、6分加熱して混ぜ合わせ、3分加熱して混ぜ合わせる。最初に比べて水分量が減っているかなど様子を見て、さらに3分加熱して混ぜ合わせる。
  5. 水分が出てまだ全体的にサラサラとしているようなら、2分加熱し、混ぜ合わせる。とろみが付くまで1~2分追加で加熱し、混ぜ合わせる。

【ポイント】

  • みかんの実をちぎるときは、果汁が飛び散ります。目に入らないように注意してください。
  • レンジで加熱した耐熱容器は大変熱くなりますので、鍋つかみなどで容器を持ってください。
  • 保存は、冷蔵庫で5日間程度ですが、できるだけ早くお召し上がりください。

 


取材協力:山口大学工学部 堀田 昌志 准教授

 

ヤマミィ4コマ『ここよ!』


企画:YU-PRSS 山口大学広報学生スタッフ
江藤 由喜、左海 莉子、清水 聡乃、三澤 朱里

 

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YU-PRSS 広報学生スタッフ紹介

 

編集後記

 アメリカではクリスマスに七面鳥を食べるらしい。そう信じていました。私はカリフォルニアに留学していた時に、地元の知り合いのご家庭に事ある毎に呼んでもらっていました。11月末にアメリカでは「感謝祭」があります。七面鳥はそのパーティの主役でした。たいへんおいしい丸焼きでした。
 では、12月のクリスマスはどうなるの?もう一度七面鳥だと嬉しいな、と思っていました。
 そしてクリスマス。メニューはハムでした。それも特大の厚いハムです。皿に載らないほどの大きさのごちそうハムです。これもおいしかったです。このお宅だけかと思ったら、スーパーマーケットのミートコーナーも特大のハムだらけでした。「ハムなんだあ」と思いました。
 行ってみないとわからないものですね。


発行人 山口大学長 谷澤 幸生 / 編集長 山口大学教授 坂口 有人
デザイン・企画 株式会社無限 / 発行 山口大学総務企画部総務課広報室
〒753-8511 山口市吉田1677-1
TEL: 083-933-5007 FAX: 083-933-5013
E-MAIL: yu-info@(アドレス@以下→yamaguchi-u.ac.jp)

総発行部数155,000部 / 山口県内の教育委員会・学校等を通じて、児童、生徒、保護者、先生方に配布します。次回2023年4月発行予定。

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