国立大学法人 山口大学

本学への寄付

No.15 2023年4月発行

No.15 4月号(2023年4月発行)

<特集>

「Academi-Q」タブロイド版は、山口大学総合図書館(吉田キャンパス)、医学部図書館(小串キャンパス)、工学部図書館(常盤キャンパス)、医学部附属病院外来診療棟入口(小串キャンパス)で入手いただけます。


「なりきり名画」で作品の世界に入ってみよう!

この人、どうしてこんなポーズをとっているの? ここに、どうしてこんなものがあるの?
視点を変えて美術作品に触れると、意外なことに気づくかもしれません。

YU-PRSS 山口大学広報学生スタッフ OG 左海 莉子

これ、一体何をしているの…?

 柔道着を着た人たちが、ポーズをとっています。転がっている人、それを驚いたように見ている人。あれ、紅白の旗を持った後ろの青い人 は何?……この写真、よくよく見ると、どこか見覚えがありませんか?
 これは、鳥獣戯画の一部分をもとにした、「なりきり名画」です。身の回りの物を使って自分自身が名画の登場人物になりきり、写真におさまる、いわば体験型の鑑賞法です。

探求のスイッチ オン

 元・山口大学教育学部附属山口中学校教諭の西村優子さんは、コロナ禍の自粛期間中、この「なりきり名画」を美術の課題として生徒に投げかけました。生徒たちは著作権(※1)等の知的財産権に留意した上で、古典作品等を題材に挑戦しました。
 「なりきり名画」は一見簡単そうに見えますが、実際にやってみるとさまざまな工夫が必要だということに気付きます。
 描かれているものの色や形だけでなく、素材や質感はどうでしょうか。また、描かれているものは手元にあるものばかりで再現できる わけではありません。どんなもので代用できる かを考える必要があります。人物のポーズや視 線の向きはどうなっているでしょうか。いざ撮影してみると、なんだか違うと感じるかもしれません。どんな距離、角度で撮影すれば、実物に近づけることができるのでしょう?

内側から見る絵画の世界

 名画への探求は、人物に隠れて見えていない後ろの空間や、絵画として切り取られた場面の外側にまで視点が広がっていきます。人物の視線や仕草を観察し実際に真似ることを通して、登場人物の考えや見ているものを想像した生徒もいました。なりきるために試行錯誤する中で、名画に隠された何重もの仕掛けに気付いていくのです。

「なりきり名画」の可能性

 2020年の春、生徒たちはコロナ禍で登校できず、友達に会うことすら難しいという状況でした。世界的に子どもも大人も見通しのきかない不安だらけの毎日だったのです。「生徒へ見せる見本作りのために、楽しそうに『なりきり名画』に取り組む教員の様子と、生徒やその家族が共になりきることを楽しんでいる様子を見て、改めて美術による造形活動が人々に明るさやつながりをもたらすことを再認識できた」と西村さんは言います。
 モノマネや自撮りのようなちょっとした遊び 感覚で取り組めるけれど、実感を伴いながら美術の奥深さを感じることができる。これが、「なりきり名画」の良いところなのです。

日常生活を豊かにする視点

 「なりきり名画」を行うことで、自分がなりきった名画や似た絵画に今後出会ったとき、探求のスイッチが入り、その作品をより深く味わうことができるでしょう。絵画などの美術作品だけではなく、普段見かける記号や風景に対しても、美術的な視点を持って触れることで、新たな発見をする可能性があります。なりきることを通して身に付けた、色や形、物の質感などのさまざまな視点からものごとを捉えていく美術的な見方は、日常生活をより鮮やかなものにしていきます。「なりきり名画」は、そんな豊かな生活への一つのキッカケになり得るのです。

 

(※1)著作権については、下記URLから、山口大学国際総合科学部の学生たちが作った動画で学ぶことができます。
https://www.yamaguchi-u.ac.jp/weekly/20573/

※「なりきり名画」の授業については、以下の権利侵害を助長する意図のあるものではありません。
 (1)著作権、(2)複製権、(3)上演権、(4)公衆送信権、(5)その他知的財産権

 


取材協力:山口大学教育学部 中野 良寿 教授 / 元・山口大学教育学部附属山口中学校 西村 優子 教諭
「鳥獣人物戯画絵巻 甲巻」画像提供:栂尾山高山寺

 

わからない~!!をグラフィックで解決。

話し合いの結果や授業のノートって、文字ばかりで読み返すのが大変!
ぱっと見てわかる。新しい発想が湧いてくる。そんな方法が、実はあるんです。

YU-PRSS 山口大学広報学生スタッフ 山内 彩華

グラフィック+レコーディング

 グラフィックレコーディングとは、グラフィック(視覚情報)とレコーディング(記録)を合わせたもので、情報をビジュアル表現としてデザインする方法のことです。略してグラレコと呼ばれます。自分の考えを文章で表現してみると思っていたよりも長文になることがありませんか?
 そんなときにグラレコを使えば、自分の考えを絵や図で表すことで、相手に分かりやすく伝えることができます。また、自分の考えと向き合うこともできるようになるのです。

なぜグラレコが使われているの?

 私たちが生活している世界は日々変化しており、多様性にあふれています。お互いの考えは、一見同じように見えても、その人の経験や知識の積み重ねによって少しずつ違っています。
 そのわずかな違いを文字だけで表現することが難しいことがあるため、絵や図で表現するという方法が着目されています。それぞれが描いたグラフィックを対話のきっかけとして、お互いの考えを深めあって歩み寄ります。そうすることでさらに新しい発想が生まれてくるのです。

描き方のポイント

 自分の考えを絵で表現するのはなんとなく難しそう…と感じる人も多いのではないでしょうか。実は、絵が苦手な人でも簡単にグラレコを描けるポイントが3つあります。1つ目は、人や場所などの要素を〇、△、□の組み合わせで表現することです。例えば、〇の下に△を描き、4つの線で手足を描くことで”人”をシンプルに描くことができます。そこに表情を描き足したり、□の組み合わせでネクタイを描いたりすることで”仕事をしている人”といった特徴がわかるようになります。2つ目は、描いた絵の周りに矢印やハートマーク等を付け足し、一つひとつの要素の関係性を表現することです。”興味がある”、”対立している”など、絵と絵の関係をシンプルに伝えることができます。SNS等の絵文字をイメージすると、表現のヒントになるかもしれません。3つ目は、全体としてどうなっているかを意識しながら描くことです。伝えたいことを意識しながら全体を”大きな木”に見立てる等、何か別のものに例えることで、雰囲気を含めて全体をまとめることができます。これらのポイントを意識しながら絵や図を描いて練習をすることで、自分なりのグラレコができるようになります。

まちづくりの場でも活用

 まちづくりの場面などでも、グラレコは活用され始めています。山口市では、まちづくりの計画を作る中で、市役所の職員と住民が地域の魅力や課題について話し合う「共につくる未来懇話会」を開催しました。役所が主催する会議というと、緊張して発言が少なくなったり、固い議論になったりしそうですが、グラレコを用いること で、対話が活性化し、参加者から様々な意見が引き出されました。また、成果が絵として形に残ることで、参加者の満足度も向上しました。さらに、後日グラレコを見た他の住民からも反響が寄せられるなど、地域づくりへの住民参加を促すきっかけとして役立っています。

グラレコを使ってみよう!

 それでは、実際にグラレコを描いてみましょう。クラスでの話し合いの場で、自分の考えを絵に描いて、それをきっかけに話してみましょう。授業中、先生の説明からイメージしたことをノートに○、△、□で表現してみましょう。ふと思いついたアイデアを記号や絵文字で描いてみましょう。そのほかにもいろいろな活用ができそうです。グラフィックで表現しているので、後からイメージを思い出しやすいのもメリットです。
 新学期になって新しいことをしてみたい、活用できるノートを作りたいと思っている人にはグラレコがおすすめです。自分が描いたグラレコが誰かの意見を引き出し、自分の考えを深めるヒントになります。記録としてとったノートが、今までになかったアイデアや新しい世界を生み出すきっかけになるかもしれませんね。

 


取材協力:山口大学国際総合科学部  坂口 和敏 准教授 / 国際総合科学部公認デザインサークル S!GNAL(シグナル) / 山口市総合政策部企画経営課

 

手助けしましょう! 本との出会い 図書館で働く司書という専門家

あなた「を」必要としている、あなた「が」必要としている、そんな本がきっとある。
図書館は本と利用者をつなぐ場です。

 

公共図書館(パブリックライブラリー)の中の専門家

 公共図書館は、私たちが利用できる中で最も身近な図書館です。子どもからお年寄りまで広く人々に開かれています。その図書館には、実は「プロフェッショナル」がいるのです。本の収集や管理、利用者へのサービスなどを担当している司書(ししょ)という専門職です。「書を司る」と書いて司書。何だかカッコイイ響きですね。

欠かせない仕事

 図書館で働く人というと、カウンターで貸出や返却の受付をしている人を想像するかもしれません。しかし、司書は新しく購入する本を選ぶための会議や子ども向けに「おはなし会」を行うなど、様々な仕事をしています。そんな中で、毎日必ず行っている仕事があります。それが排架(はいか書架整理しょかせいりです。
 排架は返却された本や新たに購入した本を決められた場所に並べる作業。書架整理は本が正しい場所にきちんと並んでいるかを確認する作業です。全ての本は内容などの基準に従って分類され並べられるため、背表紙に貼られたラベルを目で追って、違う場所の本が混じっていないかを確認します。また、本のサイズは様々あるので、大きさ順に並べつつ本の背を手前に合わせることでタイトルを見やすくしています。
 一見簡単そう? いえいえ、そんなことはありません。図書館には1日のうちに何百人もの人が来館し、本が貸し出され、また返却されています。扱われる本は数千冊にも及びます。その膨大な数の本の整理を、開館前や開館中、閉館後にも行います。本を運んでしゃがんだり踏み台を上ったり、肉体労働の繰り返しです。また、定期的に設けられている図書整理日には、1日じゅう本の整理を行います。まさに整理につぐ整理です。

司書に必要な能力っていくつある?

 「桜が開花する日がどうして分かるのか知りたいのですが、このことについて書かれている本がありますか?」司書がこういった相談を利用者から受けて、探している本や情報について答えを提供する利用支援があります。レファレンスサービスといって、司書の重要な仕事のうちの一つです。「世界一分厚い本は何ですか?」「孫に浴衣を縫ってあげたいけれど縫い方が分からない」「おいしいカニの見分け方を知りたい」…これらは、実際にあったレファレンスの事例です。一風変わったものでは、利用者がビニール袋に大きさ7~8cmの白い幼虫1匹を入れて、「この幼虫なに?」と持ち込んだ事例もあるそう。知りたいことは千差万別です。
 そのため司書には、利用者が探している答えにたどり着くためのキーワードを丁寧に引き出すコミュニケーション能力や、広く色々な分野についての知識が求められます。インターネット上の情報も含めて提供する場合、それが本当に信用できる情報源なのかをくわしく調べる能力も必要です。また、先ほどの書架整理を日々行うことで蔵書が把握でき、よりスムーズなレファレンスにつながります。司書に必要な能力は、実にバラエティに富んでいるのです。

本と人との架け橋

 「どんな人にも自分のために書かれたような本が必ずある」と山口大学人文学部准教授の伊東達也さんは語ります。そんな本に出会ってもらうための手助けをすることこそが司書としての喜びであり、本と人とを結びつける図書館の役割なのです。
 次に図書館を利用する際には、目当ての本だけでなく、図書館そのものや図書館で働く人に目を向けてみるのも面白いかもしれませんよ。

 


取材協力:山口大学人文学部 伊藤 達也 教授
イラスト:YU-PRSS 山口大学広報学生スタッフ OG 左海 莉子

 

オゾンホールを克服する人類

 飛んでいる旅客機よりもはるかに高い上空に、オゾン層があります。これは有害な紫外線をブロックしてくれるありがたい存在です。オゾン層がなくなると陸上生物は生命の危機です。
 エアコンや冷蔵庫などに使われる「フロン」というガスが、オゾン層を破壊することが1974年にわかりました。そして南極上空にオゾンが極端に少ないオゾンホールが出現して、恐怖が現実となりました。
 世界的にフロンを減らす努力が始まりました。それから数十年。オゾン層は徐々に回復しており、この努力を続ければ今世紀中頃には1980年代レベルに戻るとの見通しが発表されました。世界的な環境問題のひとつに、解決の光が見えてきたのです。
 環境問題は、技術的な面もありますが、私たちひとりひとりの問題でもあります。また、世界中の人々との利害調整も必要です。投げ出さず、あきらめず、粘り強い取組が求められます。派手な勝利もありません。そんな困難な仕事をつづけておられる全ての方々に感謝したいと思います。

 


取材協力:山口大学理学部 坂口 有人 教授

 

小さくても大活躍!酵母の偉大なはたらき!

朝食の代表であるパンには酵母(こうぼ)という微生物が欠かせません。
酵母がパンのおいしさにどのように関わっているのか見ていきましょう。

YU-PRSS 山口大学広報学生スタッフ 大平 美結

パン酵母っていったい何者?

 酵母は、大きさが0.005ミリメートルという肉眼では見えない非常に小さな生き物で、土の中や植物の表面など、どこにでも存在しています。自然界にはさまざまな酵母が存在しますが、そこからパン作りに適した酵母を選んで育てたものがパン酵母です。なじみ深いのは英語名のイーストではないでしょうか。学名ではサッカロマイセスセレビシエといいます。思わず噛んでしまいそうな言いにくい名前ですね。

酵母は生きるために発酵をする

 パンを作るとき、酵母は材料等に含まれる糖を分解して、二酸化炭素やエタノールを発生させます。これは酵母が生きるための活動ですが、この二酸化炭素が生地の中に気体の泡として閉じ込められることによりパンがふくらみ、ふわふわのパンが出来上がります。このような微生物の活動で人の役に立つものを「発酵」といいます。パンやお酒は発酵によりつくることができます。人類はこうした微生物の活動の恩恵を受けているのです。
 酵母のはたらきはパンをふくらませるだけではありません。旨味や香りも生み出します。ベーキングパウダーなどのふくらし粉を使用するのではなく、ゆっくりと時間をかけて酵母の力を生かすことで、おいしいパンが出来上がるのです。生き物の活動が人類の暮らしによい影響を与えていることがわかりますね!

微生物だって生き物だ!

 酵母がいるパンと、いないパンとを比べてみると、酵母がいるパンは大きくふっくらしていることがわかります。そして味わいも大違いです。
 人類は5000年以上前から酵母を使ったパンをつくってきました。また、パンだけでなく、朝食でよく食べられる納豆やヨーグルト、お味噌汁の味噌なども、納豆菌や乳酸菌、麹菌といった微生物のはたらきでできています。
 微生物も生き物であるため、発酵食品を作るときは保存する環境に注意しなければいけません。微生物は顕微鏡などを使用しなければ見ることができない世界にいますが、長い間人類と共存してきました。皆さんも身近にいる小さな世界をイメージしてみてはいかがでしょう?

 


取材協力:山口大学工学部 星田 尚司 教授

 

ヤマミィ4コマ『花より…?』


企画:YU-PRSS 山口大学広報学生スタッフ
江藤 由喜、清水 聡乃、三澤 朱里

 

著作権について動画で学ぼう!

 インターネットやSNSの普及により「著作権」は私たちにも身近な問題となっています。正しい知識を身近なテーマでよりわかりやすく学ぶため、山口大学国際総合科学部の学生チームが小学生向けに動画教材を制作しました。制作時のエピソードや思いとともに動画教材を掲載していますのでぜひご覧ください。
https://www.yamaguchi-u.ac.jp/weekly/20573/

 

YU-PRSS 広報学生スタッフ紹介

 

編集後記

 ゴールデンウィークは夏のような日もあります。この調子で今年の夏も暑くなるでしょうか。
 すずしい夏を「冷夏」と言います。「それは過ごしやすくてイイゾ」と思ったら大間違いです。今からちょうど30年前の1993年に記録的な冷夏がありました。フィリピンの火山が大噴火した影響が北半球の各地に現れました。日本では、日差しの弱い雨の日がつづき、気温が上がらなかったため、多くの作物が育たず、全国で深刻なコメ不足になりました。その年は海外からの輸入のおかげでしのげました。私たちの社会は環境変動にとても弱いのです。
 やはり夏は暑く、冬は寒い方が一番です。暑い夏になりますように。


発行人 山口大学長 谷澤 幸生 / 編集長 山口大学教授 坂口 有人
デザイン・企画 株式会社無限 / 発行 山口大学総務企画部総務課広報室
〒753-8511 山口市吉田1677-1
TEL: 083-933-5007 FAX: 083-933-5013
E-MAIL: yu-info@(アドレス@以下→yamaguchi-u.ac.jp)

総発行部数155,000部 / 山口県内の教育委員会・学校等を通じて、児童、生徒、保護者、先生方に配布します。次回2023年7月発行予定。

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