国立大学法人 山口大学

本学への寄付

No.16 2023年7月発行

No.16 7月号(2023年7月発行)

<特集>

「Academi-Q」タブロイド版は、山口大学総合図書館(吉田キャンパス)、医学部図書館(小串キャンパス)、工学部図書館(常盤キャンパス)、医学部附属病院外来診療棟入口(小串キャンパス)で入手いただけます。


隠密行動に科学アリ! 忍びのノイズキャンセリング

忍者は、敵地に潜入し、様々な道具を駆使して情報を集めたとされています。
些音聞金(さおとききがね)」。それは忍者がスパイ活動に使っていた道具です。長さ1寸5分(約4.5cm)、横幅1寸(約3cm)の薄い金属板です。江戸時代の忍術書『忍秘伝(にんぴでん)』には、隣の部屋の声を盗み聞きする際に使われたと書かれています。でも、その原理や効果は伝わっていませんでした。
いったいどのようなしくみなのでしょうか?

YU-PRSS 山口大学広報学生スタッフ 村田 一樹

©Mifuyu Okajima

徳山高校の生徒による研究

 忍術書『忍秘伝』を読んでこの道具に興味を持ったのが、山口県立徳山高校科学部の生徒たちです。まず、些音聞金を耳のそばに近づけることで、聞きたい音を増幅できるのではないかと仮説をたて、些音聞金を再現して実験を開始しました。しかし、聞きたい音が増幅されることはありませんでした。実験を繰り返すなかで、些音聞金の縁近くでは高い音が消されていることに気がつきました。さらに実験を繰り返した結果、些音聞金が鈴虫の鳴き声や雨音などの高い音の自然音を打ち消した結果、 人の話し声が聞き取りやすくなっているに違いないと考えました。

忍者は科学者?!

 徳山高校科学部の鶴丸さんは「科学的に忍者を解き明かせることが楽しかった」と語ります。些音聞金は、横幅が長いと低い音を、横幅が短いと高い音を打ち消す特徴があります。そして、話し声が最もはっきり聞こえるサイズは横幅3cm。これがみんなで出した結論です。一方、忍秘伝に書かれていた些音聞金の横幅も1寸(約3cm)でした。「もしかしたら忍者は科学者だったのではないかと感動しました!」と鶴丸さんは嬉しそうに話します。

ノイズキャンセリング

 些音聞金の余計な音を排除する機能は、現代では「ノイズキャンセリング」と呼ばれています。それは私たちの身の回りの様々な場面で使われています。
 ノイズキャンセリングには「パッシブ」と「アクティブ」の2種類があります。パッシブノイズキャンセリングは、余計な音を吸収したり、伝わりにくくしたりすることによって聞きやすくします。これに対してアクティブノイズキャンセリングは、余計な音の波とは全く反対の形の波を次々にかぶせていくことで余計な音自体を消滅させます。
 たとえばヘッドフォンでは、音の伝わりにくい素材が使用されているものがパッシブ、機械的に余計な音を消滅させているものがアクティブです。このような分類から見てみると、些音聞金はパッシブノイズキャンセリングといえるでしょう。
 些音聞金という忍者の道具には、このように意外な科学が隠れていました。もしかしたらあなたの身近なものにも、意外な科学が隠れているかもしれません。

 


取材協力:山口大学工学部 佐伯 徹郎 准教授 / 山口大学情報基盤センター 爲末 隆弘 准教授 / 山口県立徳山高等学校 鶴丸 倫琉さん

 

あなたらしく世界とつながろう!

人と「つながる」機会が増えた今。日常のコミュニケーションから飛び出して、世界とつながってみませんか。

YU-PRSS 山口大学広報学生スタッフ 櫻井つぐみ

逃げちゃダメだ!

 外国人と話すとき、緊張などから逃げ出したい!と思うことは、誰にでもあることです。
 しかし、「逃げちゃダメ。まずは、目を見て一生懸命に気持ちを伝えること、相手が何を伝えたいのかを考えることが重要です」と異文化心理学の研究者で、様々な異文化コミュニケーションを経験した、山口大学留学生センター講師の中野祥子さんは言います。
 「留学生が日本語しか話せないお年寄りと仲良くなることもあります。それは、お年寄りが目を見て一生懸命身振り手振りで、最後まで自分の考えを話してくれるからです」

異文化コミュニケーションとは?

 外国人のように、自分と異なる価値観や背景を持つ人と交流を図ることを、異文化コミュニケーションといいます。そもそも、コミュニケーションとは、一人ひとりが持っている価値観や背景の違いを意識しながら、意思疎通を図ることです。
 文化が違うと「良い」と評価される社会的な行動も違います。その違いを越えて、人とつながるためには、どのような心構えや態度が必要でしょうか。

キーワードは「柔軟性」

 中野さんは、柔軟性の大切さを伝えます。イスラーム教徒(ムスリム)の研究を行った際、「同じムスリムの中も、人によってルールや習慣が違うことを知りました。“決めつけ”でコミュニケーションを図ると問題を生みやすいと実感しました」と言います。

コミュニケーションの入り口は、関わろうとする態度

 人とつながるためには自ら行動することも重要です。しかし、違いを越えて交流することに不安を感じる人もいでしょう。でも大丈夫です。あなたが関わりたいと思い、自分らしく一歩を踏み出せば、交流は始まります。
 例えば、町なかで外国人から、道を尋ねられたらどうしますか。もし、英語が話せないという理由でその場から逃げてしまうと、つながるきっかけを失ってしまいます。もしかしたら、その人は日本語を聞きとれる人かもしれないですし、ジェスチャーで解決する問題かもしれません。実際、「やさしい日本語(一文が短くてわかりやすいもの)」の使用が求められる場面は非常に多いといわれています。

完璧を求めないこと

 完璧を求めず、自分らしくコミュニケーションを図ることが、コミュニケーションの最初の一歩です。仮に問題が起きたときは、その根っこにある理由を考え、様々な可能性があることを意識することが重要です。理由を考え、柔軟な思考を養うことは、自然とあなたにコミュニケーションに必要なヒントやスキルを与えてくれるでしょう。

普段のコミュニケーションでも、同じ

 異文化コミュニケーションにおいて重要な「柔軟性」と「関わろうとする姿勢」は、外国人に限らず身近な人との対話においても大切です。その本質は「相手に伝えること」。自分の気持ちを届けるため、相手によって言葉や表現などを柔軟に変える。そんな普段どおりのコミュニケーションが、新しいつながりを広げる手助けになります。

あなたのことをもっと知ろう!

 新しいつながりを作るときの大きなカギは、実はあなた自身が持っています。それは、自分をどう表現するかということです。自己開示(本当の自分を見せること)が関係づくりには有効です。「自分は他人からどのように見られやすいか」、「他人に見てもらいたいのは自分のどんな部分か」、を知ることも必要です。自分にはどんな面があるのかをたくさん知り、それを表現するエピソードを用意することも1つのカギではないでしょうか。

日々の積み重ねが世界への「一歩」

 日々の積み重ねが、世界へと、異文化コミュニケーションへとつながります。社会の知識・自文化への気づきはコミュニケーションのきっかけとなり、言語は膨大な情報とあなたをつなぐパイプとなり、世界とつながる道になります。あなたらしく日々を過ごし、世界とつながるための「あなたの一歩」を踏み出してみてはいかがでしょうか。

 


取材協力:山口大学留学生センター 中野 祥子 講師

 

見方が変わる!? 打上花火のサイエンス

夜空に光り輝く色とりどりの打上花火は、まさに夏の風物詩です。
打上花火を遠くから眺めていると、パッと花火が開いた後に、「ドーン」という音が聞こえます。また、打上花火の光にはたくさんの色があります。
今回は、そんな打上花火の「音」と「光」のヒミツを科学的に明らかにします!

YU-PRSS 山口大学広報学生スタッフ 別府 桜羽子

花火大会の会場はどこだ? -花火との距離が分かる方法-

 キラキラと打上花火が遠くの夜空に見えました。光ってから、「ドーン」と音が聞こえるまでの時間を計れば、自分と花火との距離が分かります。音は、1秒間に約340m進みます。例えば音が聞こえたのが5秒後なら、340×5=1700、で約1700m離れていることになります。この距離の計算は、雷などの他の身近な現象にも応用することができます。

打上花火の徒競走 -「光」と「音」-

 花火が開いたとき、光と音は同時に出ているのでしょうか?実は、「ドーン」という音の方が光よりも先に出ています。しかし、私たちに届く順番は、光が先です。その理由は、光が音よりも圧倒的に速く進むからです。なんと、光の速さは音の速さの88万倍にもなります。そのため、光は音を追い越して真っ先に私たちに届いているのです。

花火の光の色の正体は?

 夜空を彩る赤や青、黄色の光。花火の色はどうしてこんなにカラフルなのでしょう?
 花火では、様々な色を出すために「炎色反応」という現象が用いられています。炎色反応とは、金属を含む物質をガスバーナーなどで加熱すると、その金属固有の色が現れる現象のことです。
 塩の入ったお湯が鍋から吹きこぼれたときにコンロの炎が黄色く見えた経験はありませんか?それは、塩に含まれるナトリウムという金属が炎色反応を起こしたからです。ほかにも、金属の銅を熱したときには、炎は青緑色に変化します。つまり、炎の色を見れば、そこにどんな物質(金属)が使用されているのかが分かるのです。

いろいろな色の光があらわれる仕組み

 物質は、「原子」という目に見えないほど小さな粒子がたくさん集まってできています。その原子を拡大してみると、それぞれの原子の中心には原子核(図1)があり、その周りの決まったコースの上を「電子」という原子よりもさらに小さくて軽い粒子がものすごいスピードで回っています。金属を含んだ物質を加熱すると、電子は熱によるエネルギーをもらいます。そのもらったエネルギーによって、電子は決まったコースから飛び出してしまいます。その後、決まったコースからはずれた不安定な電子は、元のコースに戻ろうとして、余分なエネルギーを外に出します。外に出たエネルギーが光となって現れるのです。このとき出されるエネルギーの大きさによって炎色反応で現れる色が決まります。

打上花火の中には「星」がある?!

 打上花火が上空でどうやって炎色反応を起こしているか知るためには、内部がどんな構造になっているかを明らかにしなければなりません。図2のように、花火玉には「星」と呼ばれる粒が外側と内側にあります。「星」の内部に炎色反応を起こす金属を含む火薬が入っています。そこに導火線から上ってきた火がつくと、内側から順に炎色反応が起こり、カラフルに輝く光を放つのです。
 この夏は、花火の美しさと迫力だけでなく、その科学にも目を向けて、楽しんでみてくださいね。


取材協力:山口大学教育学部 重松 宏武 教授 / 山口大学教育学部 栗田 克弘 准教授
画像(炎色反応)提供:中條 敏明 氏

 

じゃりじゃり派? ふわふわ派? かき氷の科学 -氷の結晶と口どけの秘密-

昔ながらのかき氷といえば、食感が「じゃりじゃり」の氷の粒がはっきりしたもの。 しかし、近年人気になっているのは、氷が「ふわふわ」の口どけの優しいものです。
どちらも氷からできていますが、何がこの2つの食感を決めるのでしょうか。

YU-PRSS 山口大学広報学生スタッフ 堀井 皇誠

結晶のかたまり -単結晶と多結晶-

 「かき氷の食感を決める一つのカギは結晶の構造ではないか」と山口大学教育学部教授の和泉研二さんは語ります。水が氷になるとき、分子が規則正しく並び結晶ができます。結晶が1つのものを単結晶、小さな結晶がごつごつといくつも集まっているものを多結晶と呼びます。ふわふわなかき氷を作るためには、まずは単結晶に近い氷を作ることが重要です。氷の内部が小さな結晶が集まった多結晶の状態になっていると、氷の表面は削りにくくなり、削った氷の断面もざらざらしてしまいます。単結晶だと削りやすく、削った氷の断面も滑らかです。

家庭でもできる?! 「ふわふわ」っぽいかき氷

 氷の冷やし方などを工夫することで、単結晶に近い氷を作ることができます。そのためには、大きく分けて二つポイントがあります。
 一つは、水から不純物を除くことです。不純物の種類によっては、そこを核にして結晶ができやすくなったり、結晶の成長がうまくいかなくなったりして、小さな結晶がたくさん集まった氷になりやすくなります。水道水であればカルキや空気が含まれているので、沸騰させてそれを取り除きます。
 もう一つは、ゆっくり時間をかけて凍らせることです。時間をかけて水を凍らせると、大きな単結晶になりやすく、逆に、急激に冷やすと小さな結晶がいくつもできて多結晶になってしまいます。家庭の冷蔵庫では、発砲スチロールやダンボールで製氷皿を覆うことでゆっくりと凍らせることができます。
 家庭でも、きめの細かい「ふわふわ」食感のかき氷ができるかも?! いろいろぜひ試してみてくださいね。

 


取材協力:山口大学教育学部 和泉 研二 教授

 

ヤマミィ4コマ『夢はでっかく… 』


企画:YU-PRSS 山口大学広報学生スタッフ
江藤 由喜、清水 聡乃、櫻井 つぐみ

 

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YU-PRSS 広報学生スタッフ紹介

 

編集後記

 夏休みです! 海に潜れば、ひんやりした水の底にアメフラシやカサゴがいて、光がキラキラしています。テントで寝れば風の音や地面の感触に山の息吹を感じます。双眼鏡で天の川をくだれば、おびただしい数の星々や星雲が流れていきます。小さい星たちも鋭く光っています。
 日中は暑いですが、夏草の匂いが満ちています。夏を謳歌したいです。セミに負けないくらいに。


発行人 山口大学長 谷澤 幸生 / 編集長 山口大学教授 坂口 有人
デザイン・企画 株式会社無限 / 発行 山口大学総務企画部総務課広報室
〒753-8511 山口市吉田1677-1
TEL: 083-933-5007 FAX: 083-933-5013
E-MAIL: yu-info@(アドレス@以下→yamaguchi-u.ac.jp)

総発行部数155,000部 / 山口県内の教育委員会・学校等を通じて、児童、生徒、保護者、先生方に配布します。次回2023年12月発行予定。

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