国立大学法人 山口大学

本学への寄付

No.02 2018年7月発行


秋芳洞で新発見!未踏の巨大空間

地底にはまだ誰も見たことのない世界が広がっている!!
前人未踏の洞窟探検へいざ出発!


写真:後藤聡(日本洞窟学会)提供

知られざる神秘の世界

 暑い夏にでかけたくなる県内のひんやりスポットの代表といえば、やはり秋芳洞(あきよしどう)でしょう。秋芳洞は国の特別天然記念物に指定されている日本屈指の規模を誇る鍾乳洞(しょうにゅうどう)※で、その一部が観光洞として一般に公開されています。実は、皆さんが知っている百枚皿や黄金柱(こがねばしら)の奥にも、洞窟は続いているんです。そして、驚くことにその長さは今も延び続けています。というのも、まだ見つかっていない場所があるからなんです。
 この秋芳洞を調査し続けているのが、山口大学文化会洞穴研究会の学生やOBです。研究会の歴史は63年と長く、洞窟のみを専門とする学生団体は全国的に見ても珍しいのだそう。彼らは、秋吉台・秋芳洞という学術的価値の高いフィールドを有する山口県ならではの特徴ある研究団体として活動しています。
 今回、彼らをはじめとする共同調査チームが見つけた新たな空間の入り口は、観光客が入ることのできない秋芳洞の奥深く、須弥山(しゅみせん)と呼ばれる大空間の天井です。高さはおよそ30メートル。なんと7~8階建てのビルに相当します。長いはしごをかけても届くような高さではありません。では、一体どのようにして入ったのでしょう?
 実は、天井に開いたもう一つの穴が鍵を握っていました。この穴は風穴と呼ばれ、以前から地上につながっていることが分かっていました。そこでまず、地上から下に降りて須弥山の天井部に出て、そこから壁伝いに横に移動して新空間の入り口へと進んでいったのです。さらに大変だったのはその先。新空間は上へ上へと延びていました。1時間登ったところで、ようやく開けた場所に到達。高さ15メートル、長さ80メートルの巨大通路、大回廊が姿を現しました。

新空間形成の謎に迫る


写真:後藤聡(日本洞窟学会)提供

 一体、どのようにしてこんなに巨大な空間ができたのでしょう。そのヒントは、新空間の天井に隠されていました。この空間全体がかつて水で満たされていた水中洞窟であったことを証明する、丸いくぼみがあちこちに残されていたのです。
 これは、地下水面が現在よりもっと高い位置にあった時代、秋芳洞が現在のような形になるずっと前に、この巨大な水中洞窟が形成され、これが秋芳洞の原形になったという新たな学説の可能性を示すもの。秋芳洞の成り立ちの定説を塗り替え、形成時期はこれまでより数倍古い数百万年前にさかのぼる可能性もでてきました。また、水の流れを考慮すると、当時の秋吉台の地表地形が現在のそれとは異なっていたことも推測されています。
 この新空間の発見とこれまで未調査だった場所の測量も含めて、秋芳洞の総延長は8850メートルから10.7キロメートルに延長し、国内第2位となりました。約1キロメートルの観光コースだけでも圧倒的なスケールですが、私たちが見ていたのはその一部。さらにその上にも巨大な空間が隠れていたなんて驚きです。
 今回の調査から、さらに奥に未知の空間が存在する可能性が高まったため、今後の延長も期待されています。このほかにも、秋芳洞の天井には未踏の穴がたくさんあるそう。秋芳洞に行ったなら、ぜひ天井にも注目してみましょう。将来あなたが見つける穴が、次の大発見につながるかもしれませんよ!

※石灰岩の割れ目から入った雨水や地下水に溶かされてできた洞窟


取材協力 山口大学文化会洞穴研究会OB・日本洞窟学会副会長 村上崇史氏/山口大学文化会洞穴研究会学生(清島蘭丸、金清嶺)

歴史を動かす「物語」

ドラマチックな物語は、多くの人々を魅了し、そして結束させるカがあります。
それが宗教や国に発展することもあるのです。


「清涼殿落雷」第三巻は、御所に落雷するシーンが描かれている。

菅原道真、理不尽と復讐のドラマ

 もしも才能のある良い人が陰謀にはめられ追放される、なんて事があったら「そんなバカな話があるか!」と思いませんか。まさにそんな事が約1100年前の京都で起きました。
 人望が厚く、学者でもあった菅原道真さんは、右大臣という要職まで登り詰めますが、政敵から無実の罪を着せられ、九州の太宰府に追放されてしまいます。道真さんは再起を願いますが、それはかなわず、無念のうちに亡くなってしまったのです。なんてひどい。
 しかし物語はここで終わりません。死んだ道真さんは、恨みを晴らすために、怨霊になる道を選びます。それも大親分です。そして手下の悪霊を次々に京都に送り込んで大暴れさせたのです。都は疫病や災害が蔓延して大パニックです。政府中枢である御所にも雷が落ちて、人が亡くなる状態です。
 都側は、怨霊退治の祈祷師を使って防戦しますが、歯が立ちません。道真さんは、自分を陥れた政敵を次々に倒していきます。その途中では、かつての同僚が戦いを止めるよう立ちふさがるといったドラマもありますが、ついに道真さんはラスボスを倒して恨みを晴らしたのでした!ああ良かった。
 心を静めた道真さんは、天神となります。そしてそのスーパーパワーを、今度は人々の幸せのために使うようになりました。なんですばらしい。

1000年のロングセラー


「松崎社の繁栄」第六巻には、防府の様子が描かれる。

 これが1000年以上にわたって、私たちを惹きつけてやまない道真さんの物語です。まさに日本の一大ロングセラーと言えるでしょう。
 道真さんの物語は絵巻物や掛け軸として全国の天満宮に奉られています。防府市の防府天満宮は、京都の北野天満宮や福岡の大宰府天満宮と同様に菅原道真公(天神さま)を祭神としてお祀りしており、防府天満宮独自の「松崎天神縁起絵巻」(国指定重要文化財)が伝わっています。このうち第1巻から第5巻は、北野天満宮の絵巻物を踏まえて成立したとされていますが、第6巻は、まさに中世の防府天満宮そのものを描く独自のものです。山口大学人文学部教授の真木隆行さんはこの第6巻について、現地の様子が意外にリアルに描かれていて興味深い、と語ります。

物語の結束力

 こういった魅力ある物語は人々を結束する力になるのかもしれません。例えば防府は、道真さんが都を追われ、九州に行く途中で立ち寄った場所であり、しかも亡くなったときに光が射して瑞雲が立ち上がったという伝説があります。そんな物語のゆかりの場所に、道真さんを慕う人々が集い、大きな町に成長するきっかけになるのです。
 また、物語を政治的に利用することもできるでしょう。例えば道真さんの天変地異がおさまったタイミングで、政治家が「我々が道真さんを鎮めた。いわば道真さんに認められた」と言えば、その政治家の正統性が高まるでしょう。そうして物語を使って、勢力拡大を図ることもできるというわけです。

新たな物語は始まるのか

 こういった物語による勢力拡大というのは、歴史的にたくさんの事例があると真木さんは語ります。王位の正統性を神話に求めるのは良くある事です。
 最近では、人気アニメにゆかりの地が“聖地”とされて、多くのファンが集まる現象があります。これがゆくゆくは一大勢力に成長するのでしょうか。そして100年、200年と結束力を保つことができるでしょうか。物語の魅力はどこまで続くのでしょうか。とても興味深いところです。
 防府天満宮には、1000年もの間、人々を魅了した物語があります。色彩豊かな絵巻物は、いまみても見劣りしない優れた美術品でもあります。ぜひ、一度本物を見に行きましょう。


取材協力 山口大学人文学部 真木隆行教授/資料提供防府天満宮「松崎天神縁起絵巻」は鎌倉本応長元年(1311年)と室町本文亀三年(1503年)があり、防府天満宮殿史館(宝物館)において毎月絵の場面を変えて常設展示

カブトムシ殺しのミステリー

 カブトムシやクワガタがよく集まる場所には、何者かにかじられたカブトムシの死骸が散乱していることがあります。おなかの部分が食べられ、頭部だけが残された死骸です。この無残な食べ残し、いったい誰の仕業なのでしょう?山口大学理学部助教の小島渉さんは、国内でも唯一の力ブトムシ生態の研究者です。小島さんは、子供のころからカブトムシが大好きで、ついに研究者になったのです。
 小島さんは、カブトムシが豊富な関東近郊の里山で、赤外線カメラを使って張り込み捜査をしました。
 そして犯行現場の撮影に成功したのです!犯人(犯獣?)はタヌキでした。タヌキはカブトムシが集まる時間帯に、樹液のある木にやって来て、背を伸ばしてむしゃむしゃと食べていたのです。とてもおいしそうに。
 更なる調査の結果、タヌキは、どの季節の、何時ごろに、どこに行けばよいのか、ちゃんと知っていて、わざわざ食べに来ていることがわかりました。本当にカブトムシが大好きなのですね。
 小島さんは、研究拠点を山口に移し、こちらでもカブトムシの研究を続けています。しかし山口では、カブトムシの死骸がいっぱいある繁殖地が見あたらないそうです。関東と何が遣うのでしょう?新たなミステリーです。
 読者の皆さんで、カブトムシが食べられた死骸がゴロゴ口している場所を見つけたら、ぜひアカデミック編集部へお知らせください。事件解決に力を貸してください!


取材協力 山口大学理学部 小島渉助教/イラスト YU-PRSS山口大学広報学生スタッフ 河野鈴子

卵にお絵かき

大学生が企画する子供たちとのワークショップで大人気!
中身を抜いた卵のカラに絵の具で好きな模様やイラストを描いてみよう。
色紙、スパンコールなどの飾りもつけて、自分だけのアート作品を仕上げてね。


取材協力 山口大学教育学部美術教育選修学生/イラスト YU-PRSS山口大学広報学生スタッフ 烏田苑実

「安心」して食べたい。選びたい。ムスリム的学食奮闘の記録

自分の身の周りのお店やレストランで自分の食べるものが取り扱われていなかったとしたらどうしますか。どこで食材を手に入れ、どこへ外食しに行けばよいのでしょう。皆さんならどうしますか。

YU-PRSS 山口大学広報学生スタッフ 小原彩乃

ハラールフード

 イスラーム教の食事に関するルールをご存知ですか。野菜や魚を食べることは問題ありませんが、豚肉やアルコールの飲食は禁止されています。鶏肉や牛肉も決められた手順にのっとって処理したものでなくては口にしてはいけません。そんなムスリム※の方が安心して食べられるように処理をした食べ物を「ハラールフード」と言います。

学食に新しい風を

 山口に住むムスリムの留学生たちは学食にハラールフードがないことに困っていました。それならば自炊するしかありませんが、県内でハラールフードを取り扱う店舗はごく限られ、そうでなければ高額な通販で入手するしかありませんでした。
 バングラデシュからの留学生で山口大学大学院経済学研究科の力ジ・ハサンさんは、吉田キャンパスの学食にハラールフードが導入されていない事を残念に思っていました。なぜならば同じ県内にある常盤キャンパスの学食にはすでに導入されていたからです。
 そこでハサンさんは大学の留学生支援室に相談、その後副学長を含めた話しあいを経て、吉田キャンパスの学食「ボーノ」にハラールフードを導入することにこぎつけました。調理場では豚や他の肉を調理した道具が作業過程に混ざっていないか、油を使う料理にも他の肉を揚げた油を使いまわしていないかなどもチェックされて、ようやくムスリムが安心して食べられるハラールフードのメニューが提供されるようになりました。

新メニューへの期待

 吉田キャンパスにハラールフードを広める先駆者となったハサンさんに今後学食に増えて欲しいメニューをインタビューすると「牛肉が食べたい。」とのこと。現在学食で提供されるハラールフードはカレーが四種類とタンドリーチキンの計五品ありますが、使われている肉はいずれも鶏肉であり、牛肉を使用したハラールフードのメニューはまだ登場していません。
 どれだけ美昧しくても同じメニューばかりでは誰しも飽きてしまうというもの。今後の新メニューへの期待が高まります。

※ムスリムとは、イスラーム教徒のこと。イスラーム教徒は世界の人口のおよそ1/4を占めるといわれている。


取材協力 山口大学大学院経済学研究科2年 カジ・ハサンさん/山口大学経済学部 西山慶司准教授/山口大学大学教育機構留学生センター 中野祥子助教

ヤマミィ4コマ『さんぽ日和』


企画・撮影:YU-PRSS 山口大学広報学生スタッフ
高松 安奈、烏田 苑実

YU-PRSS 広報学生スタッフ紹介

編集後記

 夏は天の川がきれいですね。夏の大三角形の中央から南の空にかけて白い帯が続きます。もし双眼鏡があれば、ぜひ天の川くだりを楽しんでみましょう。たくさんの小さな星々がザラザラと視野を通りすぎていきます。そして星が集まった星団や、ガス状の星雲をいくつも見つけることができるでしょう。
 天の川は私たちの太陽系が属する銀河系そのものです。銀河系には約2000憶の星があって、たくさんの星雲星団があります。サソリ座といて座のあたりに銀河系の中心があり、太陽系もそこを中心に回っているのです。
 そんな天の川は、残念ながら都会では見る事ができません。都会には、たくさんの照明があって、空が明るすぎるのです。もはやプラネタリウムにしか天の川はないのです。
 夏の夜に、本物の天の川を見上げながら宇宙に思いを馳せる。それはとてもぜいたくなことなのです。

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