国立大学法人 山口大学

本学への寄付

No.03 2018年12月号


(6.91MB;PDFファイル)

No.03 タブロイド版 12月号(2018年11月発行)

<特集>

「Academi-Q」タブロイド版は、山口大学総合図書館(吉田キャンパス)、医学部図書館(小串キャンパス)、工学部図書館(常盤キャンパス)、医学部附属病院外来診療棟入口(小串キャンパス)で入手いただけます。


湯田温泉×美肌×カピバラ?

日本には、温泉地に長期滞在して、温泉の効能によって傷や病を癒す“湯治(とうじ)”という文化があります。
この湯治、どうやら動物にも効果があるようなのです。

湯田温泉と白キツネ

 国内にはたくさんの温泉がありますが、その多くは火山地帯にあります。しかし、湯田温泉は違います。地球内部の奥深くにある熱水が活断層沿いに上がってきて混入するタイプであり、そのなかでも「湯田温泉ほどの高い湯温と湯量をもつ温泉はきわめて珍しい」と、地下流体を研究する山口大学副学長の田中和広さんは語ります。
 湯田温泉の泉質はアルカリ性で、肌をすべすべにする美肌の湯として有名です。この温泉には、昔、白キツネが傷を癒すために浸かっていたという伝説があります。本当にあったことなのでしょうか。

動物を温泉に入れる研究

 長野県に生息する野生のニホンザルは温泉に浸かることで有名ですが、これは世界的に見ても珍しい行動です。ペットや家畜、動物園などの飼育動物が、温泉に入る機会はなかなかないため、動物に対して温泉がどのような影響を及ぼすのか、その効能はよくわかっていないのです。
 湯田温泉は、秋吉台自然動物公園サファリランドからさほど遠くない場所にあります。この恵まれた立地を活かして、山口大学共同獣医学部教授の木村透さんは、サファリランドのカピバラを温泉に入れて、その効能を調べようと考えました。こうして世界初の動物の温泉効能研究が始まったのです。


入浴中のカピバラの体温をサーモグラフで測定する木村さん
撮影場所:秋吉台自然動物公園 サファリランド

カピバラの湯

 ぬぼーっと愛嬌のある顔が可愛らしいカピバラ。カピバラは南米のアマゾン流域に暮らすおとなしい動物です。暖かくて、湿度の高い環境で育った彼らにとって、どうやら日本の冬は厳しいようなのです。
 カピバラの体は太くて長くて硬い毛に覆われており、季節によって毛が生え変わることはありません。寒くて乾燥した風が吹くと、カピバラの毛はバサバサになり、皮膚も荒れてカサカサになります。ときにはあかぎれで血がにじむこともあるそうです。かわいそうですね。
 カピバラは35℃くらいのぬるめのお湯を好み、温泉に入れると、幸せそうに目を細めていつまでも入っているそうです。では、カピバラにとって温泉はどんな効果をもたらしているのでしょうか?

温泉の効果

 木村さんはカピバラを湯田温泉の源泉の湯に毎日30分程度入れる実験を行いました。特殊な皮膚用phメーターやサーモグラフでカピバラの体調を調べた結果、毛並みがすっかり良くなり、弱酸性になっていたガサガサの皮膚は、3週間で本来の弱アルカリ性にもどり、すべすべになったといいます。また、日焼けした皮膚は白くなったそうです。なんと美白効果もあるんですね!
 カピバラは、耳の末端などが冷えやすいのですが、これが温泉で温まると、粉雪の舞う寒い日でもお湯を出てから30分以上も温度を保ち、湯冷めしにくいそうです。おそらく温泉に溶けている微量な成分が重要なのでしょう。このような効果は、水道を沸かした普通の風呂ではなく、温泉水で見られるようです。

ほかのみんなも

 木村さんは、カピバラに限らず、いろいろな動物について温泉の効果を調べようとしています。例えば、モルモットは水が苦手ですが、温泉は別です。ぬるいお湯に長く入るのが好きで、ずっと嬉しそうに入っているそうです。木村さんは、モルモットにとって温泉は健康を促進する効果があるのではないかと推測しています。
 ペットや家畜、動物園の動物たちは、さまざまな環境でストレスを感じ、不調になることもあるでしょう。そんなとき、温泉に入れることで、動物たちがリラックスしたり、体調を回復したりできるなら、動物と私たち人間はより良い関係を築けるのではないでしょか。
 今回のカピバラの研究結果から考えると、白キツネが傷を癒すために湯田温泉に入っていたという伝説は、実際にあったことなのかもしれませんね。


モルモットの温泉実験、恒温槽で入浴中

取材協力:山口大学 田中和広 理事(地域連携・人事労務担当副学長)、 山口大学共同獣医学部 木村透 教授

学校じゃ教わらない 万葉集  ~物語を決めるのは君だ~

「万葉集」は奈良時代末期に編纂されたとされる日本に現存する最古の和歌集です。
天皇、貴族、下級官人、防人など、さまざまな身分の人々が詠んだ4500首以上もの和歌が収められており、当時の暮らしぶりを今に伝えています。この歌集、多くの研究者によって今も新しい解釈が生まれ続けていることをご存知ですか?

YU-PRSS 山口大学広報学生スタッフ 小原 彩乃


「御物桂万葉集(複製)」山口大学総合図書館蔵書

昼ドラのような恋の歌

 万葉屈指の女流歌人、額田王(ぬかたのおおきみ)の「あかねさす 紫野(むらさきの)行き標野(しめの)行き 野守(のもり)は見ずや君が袖振る※1」という一首があります。国語の教科書にも登場する有名な歌です。意味は、「茜色がかった紫草の野原に来て、あなたはそんなに袖をふっていらっしゃる。見張りの人に見られてしまうかもしれないのに」という内容です。当時、袖を振るのは、求愛のしるしでした。
 これに対する返歌といわれているのが大海人皇子(おおあまのおうじ)の「紫のにほへる妹を憎くあらば人妻ゆゑに我恋ひめやも※2」です。解説すると、「紫草の紫色のように高貴で美しいあなたをいやだと思っているとしたら、どうしてこんなにも私は恋焦がれてしまっているのでしょう。あなたはもう他人の妻で、愛してはいけない人なのに」となります。
 実は、額田王と大海人皇子は元夫婦という関係でした。しかし、離婚し、額田王と新たに恋仲になったのが、大海人皇子の兄である天智天皇(てんじてんのう)です。先程の歌は、額田王と大海人皇子が別れた後、額田王が天智天皇と深い仲だった頃に詠まれた歌だとされています。天智天皇の領地で、今は兄の恋人である元妻に求愛する大海人皇子。それを「見張り(天智天皇)に見とがめられますよ」と歌でたしなめる額田王に、「それでもあなたが恋しい」と返す皇子。もし、このやり取りが天智天皇の耳に入ってしまったらどうなってしまうのか…。なんていう真昼のドラマのようなスリリングな三角関係が浮かんできます。
 高貴な人々のロマンスを感じるこの二首は、奈良時代の頃から「万葉集」の恋歌として取り上げられてきました。

本当に昼ドラだった?

 しかし、近年この二人の歌に新たな解釈が生まれたと山口大学教育学部教授の吉村誠さんは紹介します。それは、「宴会を盛り上げるための戯れ歌であった」というユニークな解釈です。
 古代日本には、若い男女が集まり、飲食をともにしながら歌を掛け合う「歌垣(うたがき)」という文化がありました。現代でいうコンパや合コンのような出会いの場です。額田王と大海人皇子もこの歌垣のような軽いノリで歌を交わしたのではないか、というのが現在唱えられている新論です。それによると、この二首が歌われたのは宴会の席で、その場には、額田王の恋人である天智天皇もいました。
 宴会の席で元夫婦と今の恋人が揃っている。周囲の人々も、このまたとない機会に、根掘り葉掘り三人の恋バナを聞きたがったのかもしれません。それに嫌気のさした額田王が「そんなに気になるなら話のネタを提供しようじゃないの」と先ほどの歌を詠み、「ならば俺も」と大海人皇子も後に続いた。そう考えると、この二首は許されざる恋に翻弄される二人ではなく、元夫婦の宴会での洒落た冗談ということになります。二人のセンスの良さに拍手喝采した人々の様子が想像されます。

答えは一つとは限らない

 このように解釈が揺れている歌は他にもたくさんあります。例えば、柿本人麻呂(かきのもとのひとまろ)の詠んだ「み熊野(くまの)の浦(うら)の浜木綿百重(はまゆうももへ)なす心は思へど直(ただ)に逢(あ)はぬかも」(み熊野の浦の浜木綿のように、幾重にもあなたを思うけれど、実際に逢うことはできないでいるよ)という歌は、一見すると恋歌のようにも思えますが、情報が少ないため対象が恋の相手であるかどうかはっきりとしません。
 「実際に逢うことはできない」という点を、「死に別れていて二度と逢えない」と取るならば、この歌は恋歌ではなく挽歌(哀悼歌)ということになります。


撮影場所:山口県下関市角島の浜木綿(はまゆう)群生地
下関市役所豊北総合支所地域政策課提供

解釈を自分で考える

 どう解釈すると一番しっくりくるか。5、7、5、7、7の31文字という少ない情報だけを見るのではなく、いつ、どこで詠まれたのかなど、歌が生まれた背景を知ることも大切です。いかにして歌人の紡ぐ物語をくみ取るのか、どんな物語になるのか、それは読み解く貴方にしか分かりません。それを自分自身で考えて見つけるのが歌を読む楽しみの一つでもあります。いろいろな情報を集めて、想像力をはたらかせることで、あなただけの新たな解釈が生まれるかもしれません。そう考えるとワクワクしてきませんか。
 千年以上昔の奈良時代の頃からそうやって、幾人もの人々に読まれてきた「万葉集」。現代でも読み解かれ続けているのは、この答えのない問いに、皆が夢中になってきたからといえるでしょう。あなたは彼や彼女の歌にどんな物語を見ましたか。

※1 紫野は、染料のもとになる紫草が生えている野。標野は、皇室や貴人が占有し、一般の者の立ち入りを禁じた野
※2 紫草の根で染められた衣は、高貴な身分の者しか身に着けられなかった


取材協力 山口大学教育学部 吉村誠 教授

身の回りの数学を探してみよう!

「数学」といえば何を思い浮かべますか?

YU-PRSS 山口大学広報学生スタッフ 森野 美由紀

 関数、微分・積分、サイン・コサイン…数式を用いて何やら難しそうなことをしていると考えている人も多いのではないでしょうか。では、数学と三つ編みが結びつくと言ったらどう思いますか?
 山口大学理学部教授の廣澤史彦さんは、「紙の帯が絡みあった三つ編み・四つ編み・六つ編みを丸めて作られたボールは、変形することによって正多面体※にすることができる」と語ります。下の写真をご覧ください。紙の帯を太くしていき、隙間を埋めるようにすると…正十二面体に見えてきませんか?
 六つ編みでできたボールを変形していくと正十二面体や正二十面体ができます。なんだか不思議ではありませんか?
 十二面体と二十面体が同じ六本の帯で編めるということは、数学的に同じ性質を持っていると考えることができるのです。一体どういうことなのか、表を見て皆さんで考えてみてくださいね。
 三つ編みと正多面体は、一見すると何のつながりもないように見えます。しかしそういった異なる成り立ちのものを関連させたり、共通する決まりを見つけたりすることは、数学的な捉え方といえるでしょう。
 数学は思わぬところに隠れているかもしれません。数学が好きな方はもちろん、苦手だという方も、ぜひ身の回りの数学を探してみてはいかがでしょうか。


取材協力 山口大学理学部 廣澤史彦 教授

雪だるまの生息地  -北国にはなぜ少ない?-

わあ雪だ! 雪だるまを作ろう!
大きいのを作ろう! ドンドン作ろう!

 雪といって真っ先に思い浮かぶものといえば…そう、雪だるまです!
 山口では雪の日になると、玄関にも、道路にも、校庭にも、雪だるまがたくさん出没します。まさに雪だるまの大発生です。雪さえ降れば日本中どこでも雪だるまが大発生!と思うところですが、どうやらそうでもないみたいです。
 日本各地で雪の観測を行っている気象学の研究者、山口大学農学部准教授の鈴木賢士さんは、これまで日本各地で雪景色を見てきたそうですが、北国では雪だるまにさっぱり出会っていないそうです。金沢でも、新潟でも、山形でも、青森でも、北海道でも、雪はたくさん降るのに、なぜでしょう?
 気温が特に低い北国では、乾いた雪が降る地域があります。これは、山口の湿った雪とは全く違います。ぎゅっと押し固めてもサラサラのままです。雪だるまはおろか、雪合戦すらできません。なるほど、「作りたくても作れないのか」と、思いますよね。ところがそういうわけでもないのです。
 北国でも湿った雪が降る地域もありますが、それでも雪だるまはあまり出没しないのです。おそらく普段からたくさんの雪に慣れているので、雪は生活に密着したものであり、雪が降っても驚かないということではないか、と鈴木さんは推測します。
 雪だるまは「わあ雪だ!」という雪に対する驚きの気持ちから生まれ出るのでしょう。だから山口のように、たまにしか雪が降らないところに、たくさん生息しているのかもしれませんね。


取材協力 山口大学農学部 鈴木賢士 准教授 /イラスト YU-PRSS 山口大学広報学生スタッフ 金丸彩佳

むいて食べるだけがバナナじゃない!

日本で私たちが普段食べているバナナは、皮をむいてそのまま食べるものが一般的です。しかし、世界にはさまざまな種類のバナナがあり、調理して食べるものがあることを知っていますか?そんな世界のバナナ事情を見ていきましょう。

YU-PRSS 山口大学広報学生スタッフ 岡 芳乃


大規模農園でのバナナの収穫

バナナの2つの種類

 山口大学国際総合科学部教授の北西功一さんは、バナナには大きく分けて2つの種類があると語ります。一つは、私たちが普段食べているような甘みが強くフルーツとして扱われているバナナです。これは、フィリピンやガーナなどの大規模農園で大量に育てられ、日本など海外へ輸出されています。
 もう一つは、ガーナやフィリピンで現地の人々が主食や軽食として食べているバナナです。これらのバナナには多くの種類があり、そのまま食べることができるものもありますが、多くは火を通して食べる調理用バナナで、これはデンプン質を多く含んでいます。こうした調理用バナナは、赤道を中心とした国々で広範に分布しています。

未知なるクッキングバナナ

 アフリカ大陸にあるカメルーンという国では、狩猟採集をしながら生活をしている人々がバナナを主食として食べています。彼らは、バナナの皮をむいて蒸し煮にしたり、焼いたりしてバナナを食べています。日本では思いもよらない食べ方ですね。
 また、同じアフリカ大陸にあるガーナという国でも、カメルーンと同様に主にバナナを煮て食べます。さらに、バナナとキャッサバというイモを餅のようについた「フーフー」という料理が、日常のごちそうとして親しまれているそうです。では、実際にこれらのバナナ料理はどんな味や食感なのでしょうか?
 現地でたくさんのバナナ料理を口にしている北西さんは「バナナ風味の淡白でほくほくしたイモのようだ」と語っていました。また、「単純に煮たり焼いたりしたものもおいしいが、餅のように手の込んだ料理はよりおいしい」とのことでした。
 日本ではあまり食べる機会のないバナナ料理。皆さんもどんなものなのか興味がわいてきませんか?


魚と油やしの煮込み料理には、煮たバナナがベストチョイス

取材協力 山口大学国際総合科学部 北西功一 教授

ヤマミィ4コマ『トレードマーク』


企画・撮影:YU-PRSS 山口大学広報学生スタッフ
烏田苑実、高松安奈

あなたのご意見・ご感想

YU-PRSS 広報学生スタッフ紹介

編集後記

 今回取り上げた温泉、恋バナ、三つ編み、雪だるま、バナナ。いずれも身近なものばかりでした。でもこうして別の面を知るようになると、今までと違って見えてきます。バナナも温泉も、それ自体はいつもと一緒なのですが、どこか深みが増したという感じです。
 学問はこのように私たちの世界を変えていきます。私たちの日々の生活や人生を豊かなものにしてくれるのです。学ぶという事は人間の悦びのひとつなのでしょうね。


総発行部数160,000部/ 山口県内の教育委員会・学校等を通じて、児童、生徒、保護者、先生方に配布します。次回4月発行予定。

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