国立大学法人 山口大学

本学への寄付

No.04 2019年4月発行


(4.04MB;PDFファイル)

No.04 4月号(2019年4月発行)

<特集>

「Academi-Q」タブロイド版は、山口大学総合図書館(吉田キャンパス)、医学部図書館(小串キャンパス)、工学部図書館(常盤キャンパス)、医学部附属病院外来診療棟入口(小串キャンパス)で入手いただけます。


ドクターヘリが来た!

出動要請!ドクター(医師)がヘリコプターで現場に急行します。
このヘリは空飛ぶ救急車ではないのです。ドクターが駆けつけるためのヘリなのです。

ドクターヘリが舞い降りた

 大きな病院から遠く離れた山間部や離島。そんな場所で大きな病気や怪我をした人がいたら、どうしたら良いでしょう。「早く治療しなきゃ。間に合わないかもしれない」気持ちばかりが焦ります。
 そこに大きな音を立てながらドクターヘリが降り立ちます。医師や看護師からなるドクターヘリのチームが駆けつけてくれたのです。「もう大丈夫ですよ」「よかった。間に合った」こんなドラマのような場面が山口県内でも毎日のように繰り広げられています。

空飛ぶ救急車じゃない

 時速250kmのヘリコプター。これがあれば県内ならどこでも30分以内に飛んでいくことができます。救急車や船では間に合わなかったような緊急事態にも対応できるでしょう。患者さんを速やかに設備とスタッフが充実した大きな病院に運んで治療することができます。
 でも、ドクターヘリは本来は患者さんを搬送することがメインで導入されたわけではないのです。
 「現場に医師が駆け付けることが大事なんです」
 山口大学医学部教授の鶴田良介さんは話します。例えばアメリカでは、患者さんを乗せて病院まで搬送するための救急ヘリが活躍しています。これはまさに救急車のヘリ版です。広大なアメリカでは救急車で搬送するには時間がかかり過ぎるので、こういったヘリが発達したのでしょう。
 また、たとえ大型のものであっても、ヘリにたくさんの医療機器を積み込むことはできません。本格的な治療は設備の整った病院に行かないとできないでしょう。そう考えると、ヘリの大事な役割は患者搬送とも思えます。
 「もちろんドクターヘリは患者搬送も行います。しかし、医師が直接現場に行けば、その場で判断して、応急処置を行うことができます。そこが大きな違いです」鶴田さんは熱っぽく語ります。
 「例えば、脳の血管の障害や重い喘息(ぜんそく)などの一刻を争う状態のときは、1分でも早く最初の処置が必要です。そこで運命が分かれてしまいます。大事なのは素早い判断です。病院に搬送するまでの間に、どういう応急処置を行うのが最適なのか、判断します。そのためには、救急医療の経験が豊かな医師が現場に飛んでいくのがベストなのです」


ヘリに乗り込む救急医の鶴田さん

ドクターヘリが描く未来

 ドクターヘリは多くの自治体に配備されるようになってきました。山口県では平成23年にドクターヘリが山口大学医学部附属病院に配備されました。近年では年間300回を超える出動があるそうです。
 ドクターヘリは大規模災害でも威力を発揮します。平成28年の熊本地震の時にも、山口大学をはじめ全国各地のドクターヘリが被災地に集結しました。道路や鉄道が寸断された場所でも、ヘリなら駆けつけることができます。そこで医療を行い、患者さんを病院に搬送することもできます。かつては不可能だった災害救助が実現されつつあるのです。ドクターヘリは救急医療の未来を変える大きな力を秘めているといえるでしょう。でも、決して万能ではありません。1機に乗れる人数や運べる機材の量は、救急車よりもずっと少ないのです。そもそもドクターヘリは山口県内に1機しかなく、救急車に取って代わることはできません。
 従来の救急車や救急病院のネットワークにドクターヘリが加わる。それによって救急医療の未来が変わるのです。そこが新しいのです。

Column ワンポイント

 緊急の時は119番に電話しましょう。消防本部が最適な方法を判断してくれます。必要ならドクターヘリが出動するでしょう。ヘリが着陸する場所なども、現地の救急隊員がリードして決められます。まずは救急車。基本ですね。


取材協力:山口大学医学部 鶴田良介 教授
山口大学医学部附属病院に新病棟が6月開院。屋上ヘリポートからエレベーターで手術室、集中治療室などへ直結します。5月18日14時から新病棟の一般向け内覧会が開催されました。

意外と身近にいるクローン

「クローン」と聞いて皆さんはどのようなものを思い浮かべますか?
そっくりな人間が複製される不気味なイメージをもつ人も多いのではないでしょうか。
しかしクローン生物は意外と身近なところに存在しているのです。

YU-PRSS 山口大学広報学生スタッフ 五十川 奈穂

「クローン」って何?

 クローンは、簡単に言うと、同じ遺伝情報を持つ生物のコピーのこと。同一の起源をもつもので、遺伝的に同じ性質をもつ細胞や個体、その集団のことをいいます。  動物の繁殖方法は、精子と卵子が合体して新たな遺伝的特徴を生み出す「有性生殖」です。それに対して植物の繁殖方法は、この「有性生殖」だけではなく、植物の一部から分裂して新しい次の個体をつくる「無性生殖」に分かれます。つまり、無性生殖で増えた植物は、全てクローンといえます。植物の世界では、クローンが普通に存在しているのです。

人とクローン植物

 春の訪れを告げる桜の代表種であるソメイヨシノは、クローン植物です。一本の苗木を接ぎ木などで増やし、人の手によって全国に植えられました。気象条件が整うと順次、南から北へと桜の開花前線がきれいに描かれるのは、同じ遺伝子をもつクローンだからこその現象なのです。その他、お茶も「やぶきた」という日本人の味覚に合った品種を挿し木で増やしています。紙の原料となるユーカリも生長が早いものを選抜して増やしています。このように身近なもののあれこれに、クローン技術が使われています。
 それでは、植物のクローンは、人が同じ性質の植物を作ることを目的として、編みだした技術として存在するだけなのでしょうか?

丸ごとクローンの森

 自然発生的なクローン繁殖の例として、ユキツバキを紹介しましょう。ユキツバキは、雪の重みをうまく利用して地面についた枝から、根を出し横に張り出しながら辺りを制覇します。このようにクローン繁殖は、育成に時間がかかる種子繁殖よりも、早く短期間に繁殖することが可能です。
 そのほか公園などでクローバーを摘んだ時に、カーペット状のクローバーがたくさんの根のようなものでつながっているのを見たことがありませんか?これは地下茎による同じ遺伝的特徴をもつ個体の繁殖、クローンであることのしるしです。
 森や樹木の研究者である山口大学教育学部准教授の柴田勝さんは、植物は生存戦略としてクローンによって繁殖してきたと説明します。
 自然環境が温和な土地では、種子から芽吹き、多種多様な植物が見られます。しかし種子から生育するのに適さない、厳しく過酷な土地では、自然の森ひとつが丸ごとクローンといった驚くような話もあるのです。
 アメリカには、世界最大・最古といわれる約4万7千本からなるポプラの森があります。このポプラ全てが、一つの根を共有していることが明らかにされています。地下茎を通じてあちこちから幼木が芽吹き育った結果、時を経て大きな森となったのです。


Photo:USDA Forest Service

植物の生き残り戦略

 このようなクローン繁殖にも弱点はあります。種子によって増える植物とは違い、多様性に欠けてしまいます。同じ遺伝的特徴をもつクローン集団は、環境変動などにより一気に絶滅してしまう危険性があるのです。
 さて、植物の生き残り戦略の話はここで終わりではありません。植物の世界には、クローン繁殖と種子繁殖の二刀流を操る強者もいます。竹は地下茎で竹林を作りますが、およそ120年に一度花をつけて受粉し、環境に適した新しい遺伝情報をもつ個体として生まれ変わり、竹林全体を更新しながら自身の絶滅を避けています。
 植物には、クローン繁殖と種子繁殖とのどちらか一方だけで生き残るものもありますが、環境によって両者を使い分けたり、両立したりと、驚くべき能力を発揮しながら旺盛に繁殖するものもあります。そして、さり気なく私たちの身近にいます。皆さんも、身のまわりのクローン植物を探してみませんか?


Photo:Dennis Hinkamp , Utah State University

取材協力 山口大学教育学部 柴田 勝 准教授

いくつ知っちょる?山口の方言

もうこんな時間!ぶるとっぴんで支度しないと!

YU-PRSS 山口大学広報学生スタッフ 杉尾 ひとみ(文・絵)

もうこんな時間!ぶるとっぴんで支度しないと!

 「ぶるとっぴん」って何だろう!? そう思われた方も多いのではないでしょうか。なんだか口にしたくなる響きです。もしかして外国語?

 いえいえ、「ぶるとっぴん」は主に山口県の中部から西部にかけて用いられる方言で、「大急ぎで」という意味です。つまり「もうこんな時間!大急ぎで支度しないと遅刻しそう!」と言っているわけですね。

 国際総合科学部教授の有元光彦さんによると、山口県の方言は西部地方の長門方言と東部地方の周防方言に分かれるそうです。中でも、“程度を表す言葉”に大きな特徴が表れているのだとか。例えば、「とても」の意味として、長門方言では、「ばくだい」「ばくちん」「ちゅーに」「じょーに」などが使われています。一方、周防方言では、「どよーし」「よいよ」「えっと」などが使われているそうです。県内全域で用いられている「ぶち」の陰に隠れて、こんなにも同じ意味の方言があったとは!

 みなさんはいくつ知っていましたか?

 これらはどれも単語レベルのものですが、方言はそれだけではありません。言葉の使い方やイントネーションの違いなどによる広がりも、方言の魅力の一つだと有元さんは語ります。

 他にも、「届く」を意味する「たう」。「物が壊れる」ことを意味する「やぶれる」。「ふてくされる」ことを意味する「はぶてる」。「物を片付ける」意味の「なおす」など。私たちが普段何気なく使っている言葉のなかにも方言はあります。方言って面白いですね。


取材協力 山口大学国際総合科学部 有元光彦 教授

イメージしよう君の歌声を

歌が得意な人、好きだけど思い通りに歌えない人。いろいろな人がいますが、きっと歌が本当に嫌いという人は少ないでしょう。もし、思い通りの歌声を響かせることができたら、歌うことがもっと楽しくなるのではないでしょうか。

YU-PRSS 山口大学広報学生スタッフ 小原 彩乃

自分のからだを意識して音を出してみよう

 声楽や合唱を指導する山口大学教育学部講師の白岩 洵さんは、私たちが発している声は、大きく分けて三つの要素で支えられていると説明します。呼吸によって吐き出される「息」、振動して音を出す「声帯」、喉や口内で音を響かせる「共鳴」の三つです。歌声も声の一種である以上、この三つの要素の組み合わせからできています。
 例えば、腹式呼吸。これをすると、肺の下にある横隔膜が伸びて、より多くの空気を吸い込むことができるため、声を長く出せるようになります。声帯は、喉を空気が通ることで振動する器官で、イメージはギターの弦です。弦は、緩く張られていると低音が、きつく張ってあると高音がでます。声帯も同じで、ゆるいときは低い声がでます。声帯が発した音は、喉と口を通って体外に放たれます。この喉と声帯を通る時に起こるのが共鳴です。コンサートホールのような広い場所で声が響くように、喉や口が大きく開かれていると、そこを通った音が反響してより響くようになります。

からだの中で生まれた音が歌声に

 イメージしてみましょう。あなたの肺と横隔膜は風船、声帯はギター、喉と口はコンサートホールです。吸い込んだ空気が風船をどんどん膨らませてたっぷりの息をたくわえます。風船からはき出された息が、ピンと張られたギターの弦を揺らして音を出します。ギターから生まれた音は、コンサートホールを吹き抜けてもっと大きな伸びのある音へと成長します。たっぷりの息は歌声を長引かせ、大きく開いた喉と口は音に響きを持たせます。体の中で音が生まれ、成長する過程を意識してみましょう。さぁ、あなたの歌声はイメージできましたか?


取材協力 山口大学教育学部 白岩洵 講師

プリーズ!フリーズドライ! 南極から宇宙へ。-過酷な研究活動を支えた食-

お湯を注げばすぐに食べられる、身近なフリーズドライ食品。
実は、こんなところで活躍しているのです。

YU-PRSS 山口大学広報学生スタッフ 岡 芳乃

南極生まれのフリーズドライ

 時は2008年、舞台は氷におおわれた南極大陸のセール・ロンダーネ山地。ここに、6人の地質学者の姿がありました。第50次日本南極地域観測隊、通称「セールロンジャー」、これが彼らの名前です。氷点下25℃、風速30メートルの猛吹雪という厳しい極寒の地で、3カ月間のテント生活を送ることになった彼ら。持っていける物資の量には限りがあり、食料を軽量化する必要がありました。それに、南極では、水は貴重な資源のため、限られた量しか使用できません。
 そこで、セールロンジャーと専属シェフが考えだしたのが、フリーズドライの食料です。急速に凍結し、真空状態で乾燥させることによって水分を除去するフリーズドライ製法は、軽量で携行しやすく、少量の水やお湯をかけるだけで元の状態に戻すことができます。

「おいしい食事をとりたい」

 「厳しい環境だからこそ、おいしいものが食べたい」。そんな思いから、和洋中バラエティーに富んだ200種類以上のフリーズドライメニューが準備されました。お正月には極寒のテントの食卓にサーロインステーキや海鮮丼などの豪華なメニューも並んだそう。山口大学理学部からセールロンジャーに参加した、隊長の大和田正明さんと隊員の志村俊昭さんは、当時を振り返り「隊員全員で食事を食べながら雑談をするのが、唯一の楽しみだった」と話します。フリーズドライ食料を使った「おいしい食事」は、過酷なミッションに立ち向かう隊員たちの身体と心を支え、南極大陸での研究調査を支えていたのです。


なんとお刺身まで!!

南極ごはん宇宙へ

 さらに、この話には続きがあります。場面は、2009年の宇宙。国際宇宙ステーションに長期滞在する日本人宇宙飛行士のための食事として、このフリーズドライ食料が採用されました。おいしい食事に心が満たされた宇宙飛行士の若田光一さんからは、セールロンジャーへお礼の写真が届きました。
 南極、そして宇宙といった厳しい環境下での研究活動を影で支えていたのは、フリーズドライ食料を使ったおいしい食事だったのです。


地球を背景に国際宇宙ステーション日本実験棟「きぼう」の
窓に貼られているのは、第50次日本南極地域観測隊のワッペン

取材協力 山口大学理学部 大和田正明 教授、志村俊昭 教授

ヤマミィ4コマ『ヤマミィのお出迎え』

YU-PRSS 広報学生スタッフ紹介

編集後記

 今年は2009年の防府市の土砂災害から10年目になります。読者の皆さんのなかには、遠い昔の話だ、記憶にない、と考えている方はおられないでしょうか。それはまさに“教訓の風化”です。災害の記憶は薄れ、徐々に忘れ去られていきます。でも自然災害は繰り返し発生します。次に再び災害に遭遇した時に「自然の前に人間は無力だ」とあきらめるのでしょうか。いや、それでは犠牲者が増えてしまいます。私たちにできることがあるはずです。過去の教訓を忘れずに、できる対応を取るべきです。そうすることで確実に被害を減らすことができるはずです。まずは10年前に何があったのか、知ることから始めたいと思います。山口県立山口博物館で「土砂災害を知ろう~防府土石流災害から10年を迎え~ (山口大学共催)」が4月16日から6月30日まで開催されます。足を運んでみてください。


総発行部数160,000部/ 山口県内の教育委員会・学校等を通じて、児童、生徒、保護者、先生方に配布します。次回7 月発行予定。

発行人 山口大学長 岡 正朗 / 編集長 山口大学教授 坂口 有人
デザイン・企画 株式会社無限 / 発行 山口大学総務企画部総務課広報室
〒753-8511 山口市吉田1677-1
TEL 083-933-5007 FAX 083-933-5013
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