国立大学法人 山口大学

本学への寄付

No.07 2020年7月発行


(4.79MB;PDFファイル)

No.07 7月号(2020年7月発行)

<特集>

「Academi-Q」タブロイド版は、山口大学総合図書館(吉田キャンパス)、医学部図書館(小串キャンパス)、工学部図書館(常盤キャンパス)、医学部附属病院外来診療棟入口(小串キャンパス)で入手いただけます。


あれもこれもそれもぜんぶ疑え! それが哲学の第一歩だ!

ホンモノってなんだろう?
当たり前はアタリマエ?

教科書は正しいの?

 この世はぜんぶウソかもしれない。学校で習うことも正しくないかもしれない。理科もウソ、社会科も間違いばかり、道徳もデタラメ、かもしれない。世界は教科書に書いてあることとは違う”何か”かもしれない。大切な”何か”にちがいない。その”何か”ってなんだろう?

みんなの視点。いろんな見方

 いつも見慣れた風景。空や山や道路や街。ボクがみる世界。この風景をみんなも同じように見ているのかなあ。他ひとから見たら、違って見えるのかもしれない。たとえば外国人から見たらどうだろう。平凡な田舎の風景が、キラキラした魅力的な田園に映るかもしれない。逆に、有名なコーヒースタンドは世界中どこにでもあるツマラナイ店に見えるかもしれない。
 鳥にとってはどうだろう。偉人の銅像は、ただの止まり木に過ぎないかもしれない。もしくは単なるトイレかもしれない。魚にとってはどうだろう。立派な橋は、ただの日陰にすぎないかもしれない。そもそも地上の事はどうでもいいかもしれない。UFOに乗ってきた宇宙人ならどうだろう?この風景をどう思うだろう。
 あたり前のことが、あたり前じゃない。いつもの風景も、いろんな視点でみると違って見えてくる。世界はひとつじゃないんだ。

新しい「お茶漬け」

 新しい視点に気づくと、いろんな事が違って感じられる。たとえば「お茶漬け」だってそうだ。お茶漬けってなんだろう?ごはん。お茶をかけたもの。それともお茶漬けの素にお湯をかけたもの。お茶漬けの素をパラパラと入れる。入れすぎると、お母さんに「塩分の摂りすぎよ」と怒られる。えっ!体に良くないの?でも、おいしいよ。軟らかいごはん。ふやけた具材。消化によさそうなごはん。そうだお茶漬けは食べる前に消化し始めているんだ。そうだ!お茶漬けは食前消化食品なんだ。
 そう思ってお茶漬けを食べたら、なんだか体にやさしい味がした。

これが哲学。それも哲学

 「あらゆる物事を疑って、別の視点から考えてみることが哲学の入口なのです」と山口大学国際総合科学部の小川仁志さんは語ります。いろんな見方をして、最後はまとめて再構成する。そしてそれをわかりやすい言葉で表現する。そうすると、今まで当たり前だとスルーしていたことが、違って見えてくるのです。モノの本質に近づいていく。それが「哲学」だというのです。

哲学問答

 では、さっそく哲学を実践してみましょう。「おいしいって何だろう?」「宿題って何だろう?」「化粧って何だろう?」いろんなテーマがありそうです。友達と問答すると新しい世界が広がるかもしれません。でも決して、論破してやろう、なんていうヨコシマな気持ちじゃダメですね。思いもつかなかった新しい発想に出合いたい、いままでと違う世界を見たい、という気持ちでモノの本質に迫るべきです。そうすれば新しいアイデアが生まれてくるでしょう。そして困っていた問題を一気に解決するステキな糸口がみつかるかもしれません。それが哲学の活用法。哲学って便利なんだなあ。

気軽に語ろう ~哲学カフェ~

 小川仁志さんは「哲学カフェ」を定期的に開催しています。お茶でも飲みながら気軽に哲学対話を楽しんでもらおうという試みで、誰でも無料で参加することができます。


取材協力:山口大学国際総合科学部 小川 仁志 教授

相手の出方を予測する ゲーム理論で解決せよ!

対戦ゲームの魅力は相手との駆け引きです。これを理論化すると実社会でも役に立つ!?

YU-PRSS 山口大学広報学生スタッフ 岡 芳乃

ゲーム理論とは?

 「ゲーム理論」という言葉を耳にしたことはありますか?
 2人以上のプレイヤーで行う対戦ゲームを思い浮かべてみてください。対戦ゲームでは、プレイヤー一人ひとりが、勝つことを目的としてゲームを進め、相手がどのように動くのかを考えながら自分の行動を決定します。このように複数のプレイヤーがお互いに影響しあう状況で、どのように意志決定するのかを研究する学問が「ゲーム理論」です。その昔、数学者と経済学者が数理モデルを用いてまとめ、経済学者が発展させてきました。
 ゲーム理論は、経済学や経営学における企業戦略のほか、国と国の交渉といった国際政治の駆け引きや交渉術など、さまざまな分野の意思決定に使われています。山口大学経済学部の小嶋寿史さんは、「ゲーム理論は、ゲームの世界だけでなく、現実のあらゆる場面に応用できる面白い理論なのです」と話します。

ケーキをめぐる駆け引き

 たとえば、あなたが弟と二人でおやつに買ってあったケーキを黙って食べてしまったとしましょう。お母さんがそれを見つけますが、誰がケーキを食べたのかは分かりません。そこでお母さんは、あなたたち兄弟を一人ずつ呼んで、ケーキを食べたのは誰か問いただします。あなたたちには「素直にケーキを食べたことを謝る」と「ケーキを食べてないと言い張る」の2つの選択肢があります。さあ、あなたならどうしますか?
 このようなケースでどのような行動をとるべきかを決定するのに利用できるのが、ゲーム理論です。あなたたち二人は互いに相手がどちらの選択肢を選ぶのか分かりません。もしもどちらもが「食べていない」と言い張れば、お母さんから怒られずに済むかもしれません。でも、ウソがばれてしまったら、「勝手にケーキを食べた」「ウソをついた」というダブルの要素で、お母さんから猛烈に怒られる可能性が大きいですね。二人ともリスクが高くなることが予想されます。
 どちらか片方だけが素直に謝った場合は、「食べていない」と言い張った方だけが猛烈に怒られるでしょう。こうした状況下では、あなたたち兄弟のどちらもが素直に謝った場合、二人ともお母さんから怒られるものの、怒られるリスクが分散するため、リスクは最も低くなることが予想されます。ゲーム理論に基づいて考えれば、二人とも「素直に謝る」選択をするのではないでしょうか。

駆け引き! 得か損か?

 小嶋さんは、「ゲーム理論の本質は、勝つことではなく、長期的に見て自分が幸せになるために行動することである」と語ります。ゲーム理論は、「勝ち負け」だけでなく「競合」や「協力」の分析にも用いられてきました。「一人勝ち」を目指すよりも「双方勝ち(ウィンウィン)の関係」になる方が、ジレンマに陥らずに、より利益のある結果が得られる場合もよくあるということが分かってきたからです。双方がゲーム理論を使えば、お互い相手の出方をふまえて自身の戦略を立てるため、その繰り返しによって、双方により利益がある結論を導きやすくなると考えられています。

現実は勝ち負けだけではない

 現実の場面では、想定外の出来事が起こる可能性もあり、複雑な要素が絡み合って意思決定がなされるため、ゲーム理論の理屈通りに事が運ばないこともあるでしょう。しかし、身近に問題が起きたとき、ゲーム理論にあてはめて、まずは相手の出方のパターンと自分の出方をシンプルな表にまとめてみてはどうでしょうか。分かっていることと分からないことの境界がはっきりしてきます。それが問題解決の糸口になるかもしれません。

数学者ジョン・フォン・ノイマンと経済学者オスカー・モルゲンシュテルンの共著書『ゲームの理論と経済行動』(1944年) に発表


取材協力:山口大学経済学部 小嶋 寿史 准教授

香りの持つ可能性 -possibility of scent-

風味さえも変えてしまう「香り」。香りの持つ可能性を探ってみましょう。

YU-PRSS 山口大学広報学生スタッフ 五十川 奈穂

香りの正体とは?

 自然の花や果実、人工的な香りのついた洗剤など、私たちの身のまわりにはたくさんの香りがあふれています。香りの正体はごくごく小さな分子。香りの分子の組み合わせは無限にあり、私たち人間はそれを敏感にかぎわけています。動植物から採取した天然の香りが使われ、その香りの成分を分析することで、似たような香りを人工的に作れるようになりました。また、さまざまな分子を組み合わせることで、今までに出会ったことのない新しい香りを作り出すこともできます。

味には香りも含まれる

 味には、甘味、酸味、塩味、苦味、うま味の5つがあります。これに香りを含めた「風味」で、私たちはおいしさを感じています。山口大学農学部の赤壁善彦さんは、「香りの力を使えば、食材の風味を変えることもできます」と話します。この効果を利用したのが「柑味鮎(かんみあゆ)」です。アユの風味は、アユが生息する川の環境やエサである藻に影響されるといわれています。そこで赤壁さんは、柑橘類の皮を鮎に食べさせることで、魚特有の生臭さを消した柑味鮎を開発しました。
 柑橘類は山口県の特産品ですが、果実を加工した後の皮は捨てられるものでした。これは、産業廃棄物の有効活用にもつながっています。また、赤壁さんは「小さいころから慣れ親しんだ食物の香りは、その人のソウルフードとして記憶に残ります」と語ります。柑味鮎には「山口を懐かしんでほしい」という願いも込められているのですね。


養殖池写真提供:椹野川漁業協同組合

香りの可能性

 ある香りをかいだときに大切な思い出がよみがえることはありませんか?香りは私たちの記憶や感情と結びついています。そのため、ある人にとっては嫌な香りが、別の人にとっては心地良い香りに感じることもあるでしょう。また、リラックス効果やリフレッシュなど、心身の健康を保つのにも大きな役割を果たしています。香りは、さまざまな場面で、私たちの生活をより豊かにしてくれる可能性を秘めているんですね。


取材協力:山口大学農学部 赤壁 善彦 教授

虹のフシギ 光の屈折と色の関係

ある雨上がりの山大生の会話…
あいさん:見て!ほら、あそこに虹!
メイさん:なんかいいことありそう♪
あいさん:7色の虹ってきれいだよね。
メイさん:えっ? 虹って4色じゃないの?私の国では4色って言うよ!

YU-PRSS 山口大学広報学生スタッフ 小原 彩乃

虹はなぜできる?

 「虹は何色?」と聞かれたらみなさんは何と答えますか?日本では「赤・橙・黄・緑・青・藍・紫」の7色といわれていますが、果たして本当にそうでしょうか?そもそも、どうしてカラフルな色ができるのでしょうか?
 理科の実験などでみなさんも見たことがあるかもしれませんが、太陽の光をプリズムにあてると、虹のように色が分かれます。「私たちの目には白っぽく見える太陽の光ですが、実はさまざまな色の光でできているのです」と山口大学教育学部の重松宏武さんは話します。では、なぜ色が分かれるのでしょうか?
 太陽の光をプリズムに通すと折れ曲がります。これを「屈折」といいます。光は、空気からガラス、水から空気など、異なるものの中を進むときに屈折する性質があります。雨粒はこのプリズムに似たはたらきをします。太陽の光は雨粒の中を通るときに屈折して奥で反射、さらに雨粒から出るときに屈折します。そうすることで、色がわかれて虹色に見えるのです。ポイントは屈折するときの角度。それぞれの光の色には屈折する特有の角度があります。例えば、紫の光は屈折する角度が大きく、赤の光は小さくなるため、虹の内側は紫色、外側は赤色に見えるのです。

虹をつくってみよう!

 みなさんも光と水滴があれば簡単に虹をつくり出すことができますよ。良く晴れた日に、太陽を背にして、ホースなどで水をまけば、概ね観察することができるでしょう。強い太陽の光と光の角度が大事な現象なので、実験する時間は朝か夕方がおすすめです。
 重松さんは「虹にははっきりとした色の境目があるわけではなく、見る角度や光の強さなど、そのときの状況によっても色は変わります」と話します。また、その人の感性や文化の違いなどによっても異なるそう。雨上がりに虹を見つけたら「今日の虹は何色かな?」とじっくり観察してみませんか?

ガラスやプラスチックなどの透明な物質でつくった三角柱


取材協力:山口大学教育学部 重松 宏武 教授
イラスト:山口大学大学院教育学研究科教職大学院1年 藤野 真江さん

召しませ!忍者飯 -Ninja Food Hyourougan-

軽い身のこなしで野山を駆け回る、忍者。彼らの力の源は、特別なご飯「忍者飯」にあったのかもしれません。
知恵と工夫が詰まった忍者飯の秘法をご紹介します!

YU-PRSS 山口大学広報学生スタッフ 古屋 美祐

忍者飯ってなぁに?

 みなさんは、携行食という言葉を聞いたことがあるでしょうか?携行食とは、簡単に持ち運べて、すぐ食べられて、しかもおなかにたまる食べ物のことです。今ではアウトドアでよく用いられますが、実はその昔、戦国時代の武士や忍者も戦いの際の携行食として使っていたといわれています。それが「兵糧丸(ひょうろうがん)」です。長い時間動き回り、落ち着いて食事をすることが難しかった忍者にとって、走りながらでも栄養補給ができる兵糧丸は欠かせないものでした。
 兵糧丸には、おなかを満たすこと以外にも、唾液を出させて喉を潤したり、おなかの調子を整えたりと、さまざまな効果がありました。みなさんも、梅干しなどのすっぱいものを食べると、普段よりもたくさん唾液が出ますよね。昔の人もそれを知っていて、水が飲めないときに、梅干しが入った兵糧丸を食べて喉を潤していたそうです。喉が渇いたからといって、咳をして敵に見つかったら大変ですもんね。

一家伝来、秘密のレシピ

 兵糧丸にどれだけの機能性があるかによって、戦況が左右されると考えられていたので、兵糧丸のレシピは公にされませんでした。そのため、兵糧丸の材料や作り方は秘伝とされてきました。ただし、小さなお団子の形は同じ。材料には、そば粉や小麦粉などのでんぷん質、きな粉やかつおぶしなどのたんぱく質、水が使われています。そこに、梅干しやはちみつ、シナモンなどを加えて味を調えます。作り方はとてもカンタン!全ての材料を混ぜ合わせて、直径1.5センチくらいの団子状に丸め、蒸し器で20分蒸せば完成です!
 出来上がった兵糧丸は、何ともいえない不思議な味。確かに、数個食べるだけでお腹がいっぱいになる感覚があるんですよ!戦国時代を生きた人たちの、知恵と努力が詰まった兵糧丸。みなさんもぜひオリジナルレシピに挑戦してみてください!



取材協力:山口大学農学部 赤壁 善彦 教授

ヤマミィ4コマ『カレイドスコープ』


企画:YU-PRSS 山口大学広報学生スタッフ 小原 彩乃

あなたのご意見・ご感想

Academi-Q のwebページにご意見ご感想等をお寄せください。
※皆さまからお寄せいただいたご意見等は、誌面で紹介させていただく場合があります。あらかじめご了承ください。


ヤマミィストラップのプレゼント応募は締め切りました。

YU-PRSS 広報学生スタッフ紹介

編集後記

 新型コロナウィルス感染症のために、みなさんもたいへんな日々を過ごしていることでしょう。当たり前だった日常がうばわれる、というのは本当に恐ろしいことです。
 それでも、ぜひ今おきていることを記憶しておいてください。みんながマスクをしていること。パスタやホットケーキがなくなったこと。プールや運動会がなくなったこと。夏休みが短くなったこと。不安な気持ちを抱えていること。学校が再開されて友達と会えた日のこと。
 まだしばらく続くコロナウイルスとの毎日ですが、こうしたひとつひとつの記憶が今を乗り越えるためのヒントをくれるかもしれません。また、いつか遠い将来に、別の困った何か、に出会うことがあるかもしれませんね。そんなときには、今おきていることの記憶が、逆に皆さんを助けてくれるかもしれません。そしてどんな時も、みなさんの心に「きっと大丈夫」という希望がありますように。


発行人 山口大学長 岡 正朗 / 編集長 山口大学教授 坂口 有人
デザイン・企画 株式会社無限 / 発行 山口大学総務企画部総務課広報室
〒753-8511 山口市吉田1677-1
TEL 083-933-5007 FAX 083-933-5013
E-MAIL yu-info@(アドレス@以下→yamaguchi-u.ac.jp)

総発行部数170,000部 / 山口県内の教育委員会・学校等を通じて、児童、生徒、保護者、先生方に配布します。次回12月発行予定。

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