国立大学法人 山口大学

本学への寄付

No.08 2020年12月発行


(4.36MB;PDFファイル)

No.08 12月号(2020年12月発行)

<特集>

「Academi-Q」タブロイド版は、山口大学総合図書館(吉田キャンパス)、医学部図書館(小串キャンパス)、工学部図書館(常盤キャンパス)、医学部附属病院外来診療棟入口(小串キャンパス)で入手いただけます。


ウイルスって何モノ?

新型コロナウイルスのために私たちの生活は大きく変わりました。なんてことをしてくれたのでしょう。
そもそもウイルスって何でしょう?情報生物学を専門とする山口大学国際総合科学部の杉井 学さんにお話を伺いました。

ウイルスは生物か無生物か?

アカデミック 早速ですが、このコロナ禍をどう見ておられますか?
杉井 ネットやテレビで大いに話題になったことで、ウイルスについていろいろと理解されていないことに気づきました。例えば、抗生物質が効かないという話題がありましたよね。抗生物質は、細菌を退治するための薬で、ウイルスには効きません。ウイルスは細菌とは全く違うということが理解されていないのでしょう。

アカデミック 細菌とどこが違うのでしょうか?
杉井 細菌は小さいですが、ちゃんとした生物です。一方、ウイルスは細菌よりもさらに小さく、生物に分類されたり、無生物に分類されたり、研究者によっても意見が違います。

アカデミック 杉井さんは生物とお考えですか。それとも無生物と?
杉井 生物だと考えています!

アカデミック では、生物と無生物はどこで分けるのでしょう?
杉井 生物は、細胞という殻を持っていて、呼吸をして、栄養を取り込んで、タンパク質を合成します。また、遺伝子を持っていて、子孫を残すという特徴があります。ただし、ウイルスのような例外も多くあります。ウイルスは、タンパク質の殻の中に遺伝子を持っていますが、自分で子孫を残すことはできません。別の生き物に取り付いて、そこで作ってもらいます。

アカデミック 他人に頼って生きているのですね。
杉井 そうです。でも、生物の生命活動とは何か、ということを突き詰めると、子孫を残すことは最も重要な活動です。無生物にはできません。ウイルスは、他者の力を借りながら、それを実現しています。子孫を残すという性質を重視すれば、ウイルスは生物だと考えることができると思っています。

ウイルスの生き方

アカデミック しかし、新型コロナウイルスが生きるために、私たちに取り付くというのは迷惑な話ですよね。
杉井 実は、ウイルスが他の生物に取り付いて、その宿主が病気になるのは、ウイルスにとってもマイナスです。私たちの体には免疫という仕組みがあって、ウイルスを敵と認識すると攻撃して、病気にならないようにしてくれています。そして、ウイルスは排除されて、子孫を残せません。だから、ウイルスにとって、宿主は病気にならず、免疫にもスルーされているのがベストです。敵と認識されれば排除されてしまいます。ちなみに、ワクチンは特定のウイルスを敵だと教えるために打つものです。

アカデミック でも、実際には次々に感染していますよね。
杉井 ウイルスは誰かの体の中でしか生きていけませんが、その宿主が発病して免疫が働き始めたら終わりです。体から離れると長くは生きられません。次の宿主に移動しなければなりません。自分で歩くことも、エサを食べることもできません。速やかに新しい宿主に移動しなければ死んでしまいます。こうしてウイルスはどんどん感染を広げているのです。

アカデミック たいへんな生き方ですね。同情しませんが。
杉井 ウイルスだけでなく、多くの生物は他者と一緒に生きています。例えば、私たちの皮膚の表面や大腸には、たくさんの細菌がすんでいて、その全体でひとつです。例えば、ミドリゾウリムシは体内にクロレラという別の生物がすんでいて、ミドリゾウリムシは二酸化炭素や窒素を与え、クロレラはそれを使って光合成して養分をつくり、互いに助け合って生きています。また、私たちを含め、多くの生物の細胞には、ミトコンドリアという器官がありますが、これはもともと別の生物だったものが取り込まれたものです。進化の過程で、ついに細胞の器官になってしまったのです。
 ウイルスもこの地球で一緒に進化してきました。彼らは迷惑がかからない宿主を捜しています。新型コロナウイルスも本来はコウモリを宿主としていたと考えられていますが、それがヒトに感染したことで今回の事態になっています。こうしたことは長い生物の歴史の中でずっと繰り返されてきたことです。そして、今後も起こる地球の営みといえるでしょう。これに私たちの社会がどう対応していくのか、ということが大事です。

アカデミック なるほど。ウイルスに対する見方が変わりました。本日はありがとうございました。

山口大学公式YouTubeから杉井先生の模擬授業を配信中!


https://youtu.be/Ebd0G1cSMcI


取材協力:山口大学国際総合科学部 杉井 学 教授

お金って紙じゃん!?

千円札や一万円札を手に取ってみてください。本当はただの紙きれですよね。
どうして私たちはこれを価値があるものと信じているのでしょう?そもそもお金って何なのでしょう?

お金って何?

 おいしい食べ物や自転車、ゲーム、暖房器具など、身の回りのモノはお金がなければ手に入りません。私たちはお金なしでは生活できません。いや、山の中で自給自足をすればお金は必要ない?いいえ、その前に、山を手に入れるためにもお金が必要なのです。
 そんな大事なお金。じっくりながめてみると、実は印刷物ですよね。そう、単なる紙です。でも、この紙があらゆるものに化けるのです。スゴイ!いったいお金って何でしょう?

おやつ交換とハイチュウ貨幣

 もしもお金がなかったら、私たちはモノとモノを交換して欲しいモノを手に入れる物々交換をすることになります。「それはとてつもなく大変なことなのです」と山口大学経済学部の山本周吾さんは語ります。物々交換は、自分が欲しいモノと、その代わりに提供できるモノが一致する相手を探さないといけません。例えば、小説家の人が魚を食べたいと思った場合、小説を欲しがっている上に、魚を持っている相手でなければ交換が成立しません。どうです?なかなか難しいでしょう?それに、タイやウナギ、ナマズなど、魚にも種類があります。小説にも恋愛ものやサスペンス、SFもあるでしょう。互いの希望が二重に一致するのは、とても難しいことなのです。そんな物々交換を毎日続けることはできません。では、どうしたら良いでしょう?
 みんなが欲しがるモノを持っていれば、交換は楽になると思いませんか?遠足のときに、みんなが大好きなハイチュウをたくさん持っていたらどうでしょう。きっとポッキーにもビスケットにも交換してもらえるでしょう。もしかしたらハイチュウをもらった友達のなかには、そのハイチュウを使って、また別のおやつを手に入れる人もいるかもしれません。
 このように物々交換を仲立ちしてくれるものがお金、貨幣なのです。

すべての人から愛されたい

 貨幣の特徴は、みんなに愛されていて、信頼されているということです。そうでないと交換が成立しませんから。昔は、米や布、塩など、誰にとっても貴重で利用価値が高いモノが貨幣として使われていた時代がありました。
 中国では珍しい貝がらが使われていました。「買う」「貯める」など、お金に関する漢字に「貝」が入っているのはこのためです。
 でも、古くなったり壊れたりして品質が変わりやすいモノは、そのままの価値を保存できません。そこで、金(きん)や銀、銅が使われるようになりました。金属は重くて持ち運ぶのが大変なので、貨幣としてはやや不便です。そうして紙のお金が登場しました。紙幣です。
 紙幣は紙ですが、ただの紙ではありません。信頼されている紙です。例えば、米1kgの交換券があったとしましょう。本来なら米1kgと同じ価値があるはずです。でも、その発行者が怪しい会社ならどうでしょう?全く価値を感じませんよね。みんなが信頼している国(政府)が発行した交換券なら全然違います。すばらしい価値を感じることができます。貨幣には信頼が大事なのです。
 貨幣のスゴさは、モノの交換にとどまりません。私たちの生き方にも影響します。物の交換が不自由で、何でも自分でこなすとどうでしょう? 魚を釣り、米を育て、家を建てて、井戸を掘って、発電して…いやいやとても無理です。でも、自分が最も得意なことに専念して、貨幣を稼ぐならなんとかなるでしょう。みんなが互いに分業して、得意分野を伸ばした方が、楽しく、効率的で、生産性が上がります。みんなが豊かに暮らせるようになるでしょう。

お金じゃ買えないものがある!

 あまりお金のすばらしさを説明すると、「でも、お金がすべてじゃない!愛情や信頼はお金では買えない!」という声が聞こえてきそうです。まったくその通りですね。そもそもお金自体が、信頼され、みんなから愛されることで成り立っています。少しでも信頼を失うと、ただの紙クズになってしまいます。人の気持ちはうつろいやすく、ささいな出来事で100年の恋が覚めてしまうこともあるでしょう。信頼が失われるのは一瞬です。もしもお金が信頼を失うと、いわゆるハイパーインフレになります。札束をいくら積み上げても、コーヒー一杯の価値もなくなる状態です。もはや何も買えません。
 そんなことにならないように、たゆまぬ努力が続けられています。だから私たちは、お金をただの紙とは思いまん。最近では、電子マネーなどの新しいタイプのお金も登場しましたが、それもただの数字ではありません。その向こうに、目に見えない信頼があるのです。そして、みんなに愛されて、いろいろなモノやサービスと交換されながら、私たちの生活を支えているのです。

需要が供給を上回り、モノの値段が上がりすぎて、お金が紙クズ同然になるくらい価値が下がる現象。
ハイチュウ、ポッキーは登録商標です。

山口大学公式YouTubeから山本先生の模擬授業を配信中!


https://youtu.be/LG0MHNEF5pA


取材協力:山口大学経済学部 山本 周吾 准教授
イラスト:YU-PRSS 山口大学広報学生スタッフ 左海 莉子

気になるぞ!そのへんな名前 トゲアリトゲナシトゲトゲ!?

一体どうしてこんな名前なの? 昆虫のネーミングはどうやって決められるのでしょう。

YU-PRSS 山口大学広報学生スタッフ 五十川 奈穂

ややこしい昆虫の名前

 「世の中にはおかしな名前をつけられてしまった昆虫がいます。ある日、ハムシと呼ばれる昆虫に、トゲのある新種が見つかり、トゲハムシと名付けられました。トゲハムシはその見た目からトゲトゲというあだ名で呼ばれていました。その後、トゲトゲの仲間でトゲのない新種が見つかったため、トゲナシトゲトゲと呼ぶことにしました。さらにその後、トゲナシトゲトゲの仲間でトゲのある新種が発見されたので、トゲアリトゲナシトゲトゲと呼ぶことにしました」という本当のような笑い話のような話を聞きました。一体トゲがあるんだかないんだか、どっちなんだ!と思わずツッコミたくなりますよね。では、どうしてこんなことが起きたのでしょうか?

名前の付け方のルール

 生き物の名前には、ラテン語で表記される世界共通の「学名」があり、生き物の世界に同姓同名はなく、学名は世界で唯一でなければいけません。そのルールは『国際動物命名規約』という本にまとめられています。一方、私たちが普段使っている和名には規約がなく、色や形、模様、人名や地名などに由来しています。
 例えば、似ている顔の形の昆虫が4匹いるとします。aとcは口の形が四角、bとdは丸で、aとbは毛が4本生えていて、cとdは毛が2本だけ生えているとします。みなさんはこの中には何種の昆虫がいると考えますか?口の形を分類の基本とすると、毛の本数は3本であろうが2本であろうが関係ありません。このように、どこに注目するかで変わってきますよね。先程のハムシは、トゲのあるなしだけに注目してしまったために、おかしな名前になってしまったわけなんですね。
 形を見て種を分ける場合には、たくさんの標本を並べて、どの特徴を重要視すべきかを判断しなければいけません。そのことを、「昆虫を分類する研究者が経験則で共通項がわかるのはまさに職人技のようなもの」と、シロアリの研究を行う山口大学農学部の竹松葉子さんは語ります。みなさんもこの機会に図鑑を開いてみて、その面白さに触れてみてはかがですか?


取材協力:山口大学農学部 竹松 葉子 教授
イラスト:YU-PRSS 山口大学広報学生スタッフ 金丸 彩佳

美に隠された数

なんとなくきれい、落ち着く、しっくりくる。
私たちがそう感じるカタチには、ある”秘密”が隠されているのです!

YU-PRSS 山口大学広報学生スタッフ 古屋 美祐(文・イラスト)

黄金比、その名に恥じない美しさ

 ピラミッドとモナリザ。全く違うように思えますが、その美しさの理由には共通点があります。それは、どちらも黄金比を用いているという点です。黄金比とは、大きさが約1対1.618になるような比率のこと。人間が最も美しく感じる比率とも言われており、美術作品から企業のロゴまで、世界中の幅広い場所で使われています。
 私たちが黄金比を見て、なんとなく美しいとか安心できるとか感じる理由は、自然そのものが黄金比に深く関係しているからかもしれません。絵画・現代アートを研究する山口大学教育学部の中野良寿さんは、「私たちは黄金比の中で暮らしている」と話します。
 黄金長方形を基準に、ぐるりと渦を巻く黄金螺旋。私たちが暮らすこの銀河系を上から見たとき、銀河の渦は丁度この黄金螺旋に沿った形になっているのです。他にも、台風の渦やオウムガイの貝殻、さらには人のDNAの二重螺旋構造にも、黄金螺旋が見られます。
 私たちが今までなんとなく美しいと感じていたものには、数字の法則が隠されていたなんて、ちょっと驚きですよね。みなさんも身のまわりのものを測ってみると、発見することができるかもしれませんよ!

書いてみよう 黄金比を使った長方形

 そんなにすごいものなら、なにか特殊な道具を使って書くんだろうな……と思うかもしれません。実は、この比率を使った長方形は、コンパスと定規で簡単に書くことができます。
 まず、正方形の底辺の中点にコンパスを置き、対角線を半径とする円弧を書きます。円弧が収まるような長方形を作ったら、黄金長方形の完成です。この長方形から短い方の辺を一辺とする正方形をとります。すると小さい長方形が残ります。この長方形の比率は黄金長方形です。この長方形は、繰り返される不思議な性質を持っているのです。


取材協力:山口大学教育学部 中野 良寿 教授
★中野良寿先生Topics★ 現代アートの活動『N3ART Lab』、『山口現代芸術研究所(YICA)』を展開中です。

お菓子な科学実験!キッチンは身近な実験室!

どうしてケーキはふくらむの?
理由を知ればお菓子づくりはもっと楽しくなる!

YU-PRSS 山口大学広報学生スタッフ 岡 芳乃

 「お菓子づくりやお料理には、たくさんの化学が詰まっている」と山口大学工学部応用化学科の鬼村謙二郎さんは語ります。今回は、ケーキのスポンジ生地がふくらむナゾを化学的に考えてみましょう。スポンジ生地がふくらむ理由は、主にベーキングパウダーと小麦粉にあります。ベーキングパウダーの主成分は炭酸水素ナトリウムです。これに熱を加えることで、二酸化炭素による泡が発生してスポンジ生地がふくらむのです。また、小麦粉は、粘りの性質を持ったグリアジンと、弾力性を持ったグルテニンという2つのタンパク質を持っていて、水分を吸収すると網目状につながっていきます。この網目状のグルテンが、先程の二酸化炭素の泡をうまく抱き込み、支えることで、ふっくらとしたスポンジ生地が出来上がるのです。

Let’s Cook!

 今回は簡単にできるマグカップケーキのレシピを紹介します。炭酸水素ナトリウムとグルテンの働きを思い出しながら、ぜひ作ってみてください!


取材協力:山口大学工学部 鬼村 謙二郎 教授

ヤマミィ4コマ『冬毛』


企画:YU-PRSS 山口大学広報学生スタッフ 小原 彩乃

あなたのご意見・ご感想

Academi-Q のwebページにご意見ご感想等をお寄せください。
※皆さまからお寄せいただいたご意見等は、誌面で紹介させていただく場合があります。あらかじめご了承ください。

YU-PRSS 広報学生スタッフ紹介

編集後記

 学校が大きく変わろうとしています。皆さん一人ひとりにコンピュータを渡して、それを使って学んでもらおうとしています。新しい道具の登場は、教室の風景を一変させることでしょう。新しい道具には新しい道具の良さがありますが、これまで使ってきたものに取って代わるとは思いません。縦笛は自分で吹かないとおもしろくないですし、漢字も書きとらないと覚えられません。それぞれをどう活かすかが大切です。
 おそらく皆さんはコンピュータ化された学校教育の第一世代となるでしょう。いわば、この新しい「おもちゃ」を遊び倒して、みんなが、あっ!と驚くようなスゴイ使い方を発明して欲しいです。それによって学校の未来は大きく変わることでしょう。


発行人 山口大学長 岡 正朗 / 編集長 山口大学教授 坂口 有人
デザイン・企画 株式会社無限 / 発行 山口大学総務企画部総務課広報室
〒753-8511 山口市吉田1677-1
TEL: 083-933-5007 FAX: 083-933-5013
E-MAIL: yu-info@(アドレス@以下→yamaguchi-u.ac.jp)

総発行部数160,000部 / 山口県内の教育委員会・学校等を通じて、児童、生徒、保護者、先生方に配布します。次回2021年4月発行予定。

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