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カブトムシの大量死はなぜ起こった?

小島 渉 (生物・化学科 生物学分野)

 

 カブトムシは暑さにそれほど強い虫ではありません。直射日光にさらされて体温が上がりすぎると死んでしまうことがあります。ところが実際に野外でそのようなことが起こるとはほとんど考えられません。日が昇り気温が上がると、カブトムシは風通しの良い木の茂みへ入り暑さをやり過ごすからです(写真1)。夏の昆虫であるカブトムシは、昼間の日差しから身を守るすべを持っているのです。

写真1: 昼間に木の茂みで休むカブトムシ

 では、なぜtwitterの写真のようなカブトムシの大量死が起こったのでしょうか?写真にはシマトネリコという木が写っていました。シマトネリコは日本に自生していますが、どちらかといえば庭木や街路樹として植えられることが多い種です。カブトムシの集まる木といえばクヌギが有名ですが、じつはシマトネリコにもカブトムシが集まります。シマトネリコは何らかのきっかけでカブトムシを強くひきつけるようになります。近くにクヌギの樹液があっても、カブトムシは見向きもしなくなるほどです。カブトムシはクヌギの樹液を吸うときとは違い、シマトネリコの樹皮を大あごで傷をつけて樹液を出します(写真2)。そのため、カブトムシが集まるシマトネリコの樹皮には多くの特徴的な傷が残ります。傷つけられたシマトネリコが弱ってしまうようなことはありませんが、もしかすると木の管理をしている人が心配して、殺虫剤を撒いてカブトムシを殺してしまったのかもしれません。

写真2: シマトネリコの樹皮を削るカブトムシ

 この夏には、カブトムシを放し飼いにしているいくつかの施設でも大量死が報告されました。暑さから逃れる場所がなかった、子供たちに触られて弱ってしまったなど、いくつかの理由が考えられますが、いずれにせよ自然界では簡単に起こらないと思われます。この夏の暑さは過去にないほど厳しかったため、自然界で起こる変化を私たちはどうしても暑さと結びつけて考えがちです。しかし、もう少し冷静に、他の可能性について考えを巡らせることも自然を理解する上では重要なのではないでしょうか。

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