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化学科 綱島 亮 先生

化学分野の綱島亮先生です。強誘電体と呼ばれる物質を身近な化学物質から合成できることを世界に先駆けて見出しました。身近な化学物質とはいったい何なのか?研究内容をお伺いしました。

 


綱島 亮 Ryo TSUNASHIMA
山口大学大学院創成科学研究科 准教授
学域:理学系学域(化学分野)
学科:化学科
研究室HP:http://web.cc.yamaguchi-u.ac.jp/~ryotsuna/tsunashima/


 

インタビュアー(以下、イ):今回のインタビューは化学科の綱島亮先生です。よろしくお願いします。

綱島亮先生(以下、綱):よろしくお願いします。

どのような研究をされていますか?

綱:これ、何か分かりますか?

イ:きれいですね!大きな・・・宝石?水晶?何ですか?

綱:これは、ミョウバンの結晶です。

イ:ミョウバン?ナスの色止めなどに使う、あのミョウバンですか?

綱:そうです。本当は透明なんですが、クロムイオンを少し入れるとこうやって黒くなるんですよ。これが、溶液の中から自然とできます。こうやって溶液を放っておいてできた固体の性質を調べる研究をしています。
それをどうやって調べるかというと、レントゲンにも使われるようなX線を使います。X線を使うことによって、どんな分子でできているのか?分子の並び方はどうなっているのか?ということを知ることができます。同じ分子でも固体の中の並び方が違うと性質が全く違うんですよ。

イ:それはどういうことですか?

綱:手作りチョコレートには、美味しい、美味しくないがありますよね。これは、同じチョコレートでも混ぜ方や冷やす温度によって分子の並び方が変わるからです。そして、その並び方によってチョコレートの溶ける温度、つまり口どけが変わってきます。要するに、全く同じ物質でも構造によって性質が変わるということです。そういった構造をX線を使って調べています。

イ:なるほど。イメージができました。
では、具体的にはどのように解析を行っているのですか?

綱:X線で調べた結果は3次元の解析ソフトを使って結晶構造を解いていきます。

イ:星座みたいですね。

綱:はい。始めは全て白い点です。その白の濃さを測ることができて、濃ければ濃いほど周期表の下の方にある元素、つまり電子をたくさん持っている原子となります。その数字をもとに1個1個、これは鉄かな?酸素かな?って手作業で決めていきます。作る過程で何を混ぜたかで、ある程度の予測はできますが、こうやって自分で決めるので100%正しいわけではないですよ。例えば、鉄と酸素は周期表で言うとだいぶ違う位置にあるので迷いはないですが、炭素と酸素は周期表でも二つ隣で近い位置にあるので区別がつきにくい場合があったり、炭素と窒素なんてまさに隣なので、なかなか区別がつかなかったりします。そういった場合は別の測定をして、炭素何個、窒素何個と個数を出してそれをもとに決定していきます。こうして色んな測定を合わせて点と点を結んで、うん!こういう形で間違いないんじゃないか!っていう結論を最後に下します。

イ:時間がかかる作業になりそうですね。

綱:はい、結構時間がかかります。でも僕は、パズルを解いていく感じで結構このプロセスが好きです。こうして構造がわかったら今度は物理的な性質を調べて、次のステップに研究を進めていきます。

イ:これを手がかりに?

綱:そうですね。これはかなりの手がかりになります。例えば、鉄が入っていたとしたら磁石を近づけるとくっつくかな?とか、性質を調べてどういった個性を持っているのかを1個1個調べています。

イ:そうやって調べて面白いものが見つかった場合、もう1回これを作ろう!って作れるものですか?

綱:そうですね。ただ、出来ない場合もあります。同じようにやっても、気温が高いので夏になるとできないとか・・・。

イ:そうか。環境が大事なんですね。

綱:はい。同じ環境じゃないと難しいですね。24時間365日エアコンをずっと点けたままにはできないので、冷蔵庫などを使っています。

研究成果が新聞に掲載

イ:まずは、おめでとうございます。(記事:化学工業日報 2019年5月)

綱:ありがとうございます。

イ:「強誘電体」と呼ばれる物質を見出したとのことですが、これはどのような内容ですか?

綱:普通は、金属を用いらないとできないと言われているものですが、金属イオンが全く入っていないのに同じものを作ることが出来ました。それはある特殊な構造ですが、それがわかった時はまだ世界にも例がなくて、世界初だ!!!!とにかく急いで論文にしよう!と思った矢先、ほぼ同じものを中国の研究グループが発表しました。

イ:えーーー!!!

綱:論文はかなり近いものがサイエンス誌に掲載されていまして、全く知らなくて、え!?何これ!?て驚いたというか・・・。結果的に論文にしたのは1年遅かったので、向こうの方が随分早くから進めていたんだろうなって思います。

イ:発表のタイミングが向こうの方が早かったってことですか?

綱:はい、早かった。1年早ければ僕らの勝ちだったんですけどね・・・。世界ニュースにもなっているような、かなり大きなものでした。ものすごくデカい魚を取り逃しました。

イ:あぁ、悔しいな~!悔しいですね。

綱:悔しいよ!!僕もほんとに悔しかった!一緒にやっていた学生さんと「生まれて来るのが1年遅かったね。」て言いながら・・・。完敗ではありました。
まあ、幸い100%同じではなかったのでそこが救いでしたね。そうは言ってもまだ2番手なんでね。先を越されたからと言って、論文にしないわけにはいかないじゃないですか。見方を変えて何か別の新しさを付け加えないといけないので。色んな角度から見てよ~く考えた結果、これは空気で作れる!てことが分かったんです。

材料は空気!?

イ:え?そもそも、金属を使わないと出来ないものが空気で?

綱:はい。空気中の二酸化炭素と窒素から作ろうと思えば作れます。

イ:それはどのようにして?

綱:まず、僕たちが使用したものは、ヘキサメチレンテトラミンという分子です。中国のグループが発表したものは、これではありませんでした。
並び方、
つまりレシピは似ているのですが、これだけが違いました。

綱:この、ヘキサメチレンテトラミンは薬として処方されている物質で、作り方としては、まず二酸化炭素からメタノールが作れます。作ったメタノールからホルムアルデヒドという物質を作ることができる。できたホルムアルデヒドにアンモニアを反応させるとヘキサメチレンテトラミンの出来上がり。アンモニアって空気中の窒素から作ることができるので、結局、空気中の二酸化炭素と窒素からこれを作ることになります。

イ:なるほど。たしかに空気中のもので作れますね。

綱:はい。これに、アンモニアと臭化物イオンであるBrを作用させると、今回発表した強誘電体という物質ができるんです。このBrは海の中に入っているミネラルなので、空気と海水からこの物質をつくることができます。そういうところが新しかったので、そこを売りにしました。

強誘電体って何??

イ:その強誘電体とはどのようなものなんですか?

綱:カードなんかに付いているICチップの中に入っています。要するにメモリに使用されています。

綱:上がプラスで下がマイナスのような状態で、プラスとマイナスの向きが個体の中で全部揃っているんですよ。これに外部電場をかけるとプラスとマイナスの向きが反転します。ICチップ付きのカードをお店などでピッとかざすと、中でプラスとマイナスの向きがクルクルクルって反転してデジタル信号を保存します。
これが強誘電体メモリというものです。強誘電体は、こういったところに随分前から使われているのですが、チタン酸ジルコン酸鉛が主流で、人体にも有毒な金属を含む物質が多いです。今、世界的にもそういった有害なものは使わないようにしようという流れがあって、そもそも鉛を使う電子部品は無し!というルールがあります。でも、強誘電体だけは代わりのものがないため、鉛の使用を許可されています。

イ:なるほど。では、今回そういった有害なものを使わずに作ったということですか?

綱:はい。鉛も入っていません!空気と海水で作れます。

イ:とってもエコですね!しかも、その辺にある身近なものから作れる!これが現時点で発展したらすごいですね。今後もこの研究の続きをされるのですか?

綱:はい!

宝探し☆

 イ:そもそも強誘電体を作ろうと始めた研究だったのですか?

 綱:いいえ。初めからヘキサメチレンテトラミンで強誘電体が作りたかったわけではないんですよ。

イ:では、やっていくうちにだんだんと?

綱:はい。学生さんが変わったものを作ってくれて、その構造を先程の様に解いていったら、まだ世界にはない金属が入らないとできない構造でした。それで、だいたいこの構造は強誘電体になる!ということがわかり、無機化学の教科書にも載っている有名なものでした。じゃあ、本当に強誘電体になるかなって調べたら、案の定そうだったという経緯です。

イ:なるほど。しかし偶然にしては、ものすごいものを作りましたね。

綱:そうですね。まだ十分性能を発揮しているとはいえないので、これからですね。

イ:また新しく違うものが見えてきたら、それはそれで良いですよね。

綱:そうですね。ある程度、こういったものをつ、つ見つけていって、どんどん世の中に役立つものができればいいな。と思っています。単純に宝探しをしているような感じですね。宝はもう何個か出てきたので、あとはそれをつめていきます。

イ:こういった宝を見つけると楽しいいでしょうね。

綱:はい、そうですね。クセになります(笑)。でも、なかなか見つからないし、学生さんは大変ですけどね。真っ暗な中で手探りでドアを見つけるようなものですからね。

イ:いつどのタイミングでできるかわからないですよね?

綱:そうですね。何か特定の物質を探しているとか、そういった目的はあまり持たないようにしています。新しくて世の中にないものが見つかれば何でもいいなって思っています。特に今世の中で問題になっているものを解決しよう!とかそんな大それたことは全く思っていません。もちろん、作ったものが何か世の中の役に立つのであればそっちの方向で進めていきますけどね。最初に目的をもってやっちゃうとそれが目的通りにならなければ、全部要らないってなってしまいますよね。そうすると新しいものって出てこないて思います。
そんなに大きな目的は持たずに新しければ何でもいい。ぐらいの気楽な気持ちでやっています。

きっかけは・・・

イ:先生が化学をやろうと思ったきっかけは何ですか?

綱:なんだろうな?小さい頃から物を混ぜて色が変わるっていう現象が好きでしたね。お風呂の入浴剤とかいろんな色を混ぜて並べて遊んでいました。何色になるかな?て。でも結局、色々混ぜすぎて全部黒になるんですけどね()

(実験室にはきれいな色が並んでいました)

数々の素敵な作品

廊下には素敵な絵が飾られていました。

イ:こちらは何ですか?

綱:これは僕がデザインした絵が、論文雑誌の表紙に選ばれた作品です。

イ:すごい!!!これ全部ですか!?綺麗なものから、かっこいいものまで、どれも素敵ですね。

綱:これは、瑠璃光寺の五重塔です。夜空に星座をイメージして先程の解析ソフトで点を繋げたものを描いてます。
イ:おお!見事に星座ですね。

イ:こちらも、とても素敵ですね。
綱:これ、娘です。
イ:そうなんですか!!とても良い写真ですね。
綱:七五三の時の写真を使ってデザインしました。これは、今度は雪の結晶をイメージして描きました。
イ:お見事です!!!

多彩な才能の綱島先生。未来のためにも、今後のご活躍を期待しています。

本日は、ありがとうございました。

インタビュー日:2019109

 

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