病態制御学講座 獣医感染免疫学研究室
教 員
最近の研究内容のご紹介
“ウシ白血病ウイルスの感染をブロックする人工タンパク質の開発に成功!”
—新たな抗ウイルス治療・予防法への応用に期待—
研究の要点
世界の牛産業に深刻な被害をもたらしている「ウシ白血病ウイルス(BLV)」の感染を強力に阻害する、新しい人工タンパク質(可溶性エンベロープタンパク質:Env-SU)の開発に成功しました。本研究成果は、これまで有効なワクチンや治療薬がなかったウシ白血病に対する、画期的な予防・制御技術につながるものとして期待しています。
本研究の背景
経済的被害をもたらすウシ白血病の脅威
ウシ白血病ウイルス(BLV)は、感染した牛にリンパ腫(白血病)を引き起こすウイルスであり、日本国内を含む世界中の牛群で高く蔓延しています。BLVは一度感染すると生涯にわたり持続感染し、牛の免疫力を低下させ、畜産業に大きな経済的損失を与えます。しかし、現在にいたるまで効果的なワクチンや抗ウイルス薬は実用化されておらず、新たな感染制御技術の確立が世界中で切望されています。
発見のヒント
ネコの細胞が持つ「ウイルスの邪魔をする仕組み」
近年、イエネコの遺伝子から、レトロウイルスの感染を自らブロックする「Refrex-1」や「FeLIX」といった特殊な天然のタンパク質が発見され、注目を集めていました。これらは、ウイルスが細胞に侵入する際に使う「受容体」を先回りして塞ぐことで、ウイルスの侵入を徹底的に邪魔する(受容体干渉)性質を持っています。
研究の成果
私たちの研究グループは、「これと同じ仕組みを人工的にデザインすれば、ウシ白血病ウイルス(BLV)の感染も防げるのではないか?」と考え、BLVの表面にあるエンベロープ(外膜)タンパク質の一部を改造した、複数の人工タンパク質の開発に挑みました。
ウイルスの侵入を強力にブロック!
私たちの研究グループは、BLVのエンベロープのSU領域とシグナルペプチドを組み合わせ、細胞の外へ分泌されやすい「可溶性エンベロープタンパク質」を設計・作製しました。そして、実際の細胞を用いた感染実験を行ったところ、以下の画期的な成果が得られました。
本研究の意義と今後の展望
開発した人工タンパク質(特に、分泌能を高めた特定のコンストラクト)を細胞に添加したところ、BLVが細胞へ侵入・感染するのを強力に抑制することが確認されました。
ウイルスの「受容体」を塞ぐメカニズム この人工タンパク質が、標的となる細胞の表面にあるBLV受容体に先回りして結合し、ウイルスが細胞内に侵入するための結合部位を物理的に覆い隠す(ブロックする)ことで、感染を防いでいることが証明されました(受容体干渉の再現)。
本研究は、自然界の哺乳類(ネコなど)が進化の過程で獲得した巧妙なウイルス防御システムを模倣し、人工的なバイオ医薬品(抗ウイルス分子)としてウシに応用できる可能性を初めて示した極めて重要な成果です。
掲載論文情報
今回開発した人工タンパク質は、ウシ白血病ウイルスの感染を極めて効果的に塞ぐことができます。この技術をさらに発展させることで、生体内でのウイルスの伝播を防ぐ新しいタイプの予防薬や、感染牛の病勢進行を抑える治療法への応用が期待されます。畜産現場におけるウシ白血病の根絶に向け、実用化を目指した研究を進めています。
タイトル: Engineered soluble truncated envelope proteins block bovine leukemia virus infection
著者: ワンジェラ ネーション, 松本龍介, プラモノ デイデイク, 三宅在子, 西垣一男
掲載誌: Virus Research, 2026 Feb 5
DOI: 10.1016/j.virusres.2026.199701
