絶滅危惧IA類 ツシマヤマネコを感染症から守ろう!
山口大学共同獣医学部獣医感染症学研究室の西垣一男教授らの研究グループは、対馬に棲息する野生のネコであるツシマヤマネコにイエネコのレトロウイルス感染症が伝播し蔓延していることを突き止めました。
発表のポイント
- ツシマヤマネコ(Prionailurus bengalensis euptilurus)においてレトロウイルスの一種であるネコフォーミーウイルスの感染が89匹中7匹(7.86%)に認められました。
- ウイルスの遺伝子配列の同定と解析の結果、対馬のイエネコ(Felis catus)に蔓延しているネコフォーミーウイルスが、ツシマヤマネコに感染しているウイルスと一致しました。このことから、イエネコが宿主であるネコフォーミーウイルスがツシマヤマネコに伝播したと考えられます。
- ツシマヤマネコにイエネコ由来の感染症が伝播しないよう注意を払っていく必要があります。
概 要
ツシマヤマネコは、絶滅のおそれが極めて高い種の一つ(環境省のレッドリストの「絶滅危惧IA類」に分類)であり、現在は70~100頭が対馬に棲息していると推測されています。ツシマヤマネコの棲息を脅かす一因としては、イエネコに由来するウイルス感染症が挙げられます。本研究ではツシマヤマネコとイエネコにおけるウイルス蔓延状況を調査した結果、レトロウイルス感染症がイエネコからツシマヤマネコへと伝播し、ツシマヤマネコ内で蔓延している可能性を見出しました。そのため、イエネコに由来する感染症の蔓延状況を調査し、ツシマヤマネコの適切な保護活動につなげていく必要があります。こうしたウイルス伝播はイエネコとツシマヤマネコとの接触によって生じたと考えられるため、イエネコの室内飼育により予防できる可能性があります。ウイルス感染症調査を継続することで、ツシマヤマネコの絶滅リスクを下げることが可能になるかもしれません。
本研究は山口大学共同獣医学部獣医感染症学研究室、越田雄史獣医師(NPO法人どうぶつたちの病院(対馬))、箕浦千咲獣医師(対馬野生生物保護センター、現・野生動物保護管理事務所)および川崎純菜博士(早稲田大学)の共同研究として実施されました。また、国際オープン科学雑誌「Viruses」に2023年3月24日に掲載されました。
発表論文の情報
- タイトル:Feline Foamy Virus Transmission in Tsushima Leopard Cats (Prionailurus bengalensis euptilurus) on Tsushima Island, Japan
- 著 者:Loai AbuEed (山口大学), Isaac Makundi(山口大学), 三宅在子(山口大学), 川崎純菜(早稲田大学), 箕浦知咲(対馬野生生物保護センター), 越田雄史(NPO法人どうぶつたちの病院), 西垣一男(山口大学)
- 掲載雑誌:Viruses 2023, 15(4), 835
- 掲載日:2023年3月24日
- DOI:https://doi.org/10.3390/v15040835
謝 辞
本研究成果は、以下の研究費の支援を受けて得られました。
- 科学研究費補助金・基盤研究(B)
研究代表者:西垣 一男(山口大学 共同獣医学部)
研究課題番号:20H03152
お問い合せ先
山口大学 共同獣医学部 獣医感染症学研究室
教授 西垣 一男
E-mail: kaz@(アドレス@以下→yamaguchi-u.ac.jp)