国立大学法人 山口大学

本学への寄付

タマネギの品種育成の効率化に役立つ画期的なDNA多型分析手法を開発

 

 山口大学大学院創成科学研究科(農学系学域)の執行正義教授のグループは、農研機構等との共同研究により、巨大なゲノムのためDNA分析が困難であったタマネギにおいて、染色体全体のDNA型の違いを効率的に分析できる手法の開発に成功しました。本技術により、苗の段階で有用な形質を持つタマネギを選ぶことができるDNAの目印を迅速に開発でき、この目印を利用した新品種の早期育成が期待できます。

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タマネギは巨大ゲノムをもつからDNA分析が難しい

 

 


染色体全体に配置されたDNAマーカーセットを作成

発表のポイント

  • これまで、病気に強い、収量が高いなどの望ましい形質をもつ野菜を選び出すには、たくさんの個体の栽培、形質の調査、有望な個体の選抜を繰り返すことが必要でした。そのため、新しい品種の育成には多くの労力と長い時間を費やしてきました。品種育成の効率化には、DNA型の違い(DNA多型)を検出するDNAマーカーを開発し、活用することが有効です。特に、特定の形質と関連したDNAマーカー(選抜マーカー)は、DNA多型によって苗の段階で特定の形質が優れた有望な個体を判別できるため、様々な形質について開発が望まれています。選抜マーカーの開発には、まず染色体全体のDNA多型を調べ、それらと形質データと照らし合わせて、目的の形質と関連するDNA多型の位置を特定する必要があります。近年は次世代シーケンサーの登場により、大量のDNA情報を安価に解読できるようになったため、染色体全体でのDNA多型の効率的な分析が可能になり、多くの野菜品目において選抜マーカーの開発が飛躍的に進んでいます。
  • しかし、タマネギでは染色体全体でのDNA多型の分析は容易ではありません。生物によって染色体全体のDNA情報である「ゲノム」のサイズは、大きく異なっており、タマネギは野菜の中でも最大級のゲノムサイズを有し、その大きさはトマトの16倍もあります。そのため、トマトなど他の品目で使われてきた手法を用いて、タマネギの染色体全体でのDNA分析を行う場合、解析に要する費用や時間が大幅に増えることが予想されます。この手法でのタマネギのDNA分析は困難であり、タマネギでは染色体全体でのDNA分析法が確立していないため、選抜マーカーの開発や育種利用が遅れていました。
  • 農研機構をはじめとする共同研究グループは、タマネギにおいて、染色体全体のDNA多型を効率的に分析する方法の開発を目指しました。まず、タマネギにある8本の染色体について、各々に圴一に配置され、染色体全体をカバーしたDNAマーカーのセットを作成しました。次に、次世代シーケンサーを利用し、これらのマーカーセットの全てのDNA多型を一度にまとめて分析する手法を試みました。その結果、染色体全体のDNA多型を効率的に分析することに成功しました。この分析手法で得られた個体間のDNA多型と形質を照らし合わせれば、DNAマーカーセットの中から目的の形質と関連したDNAマーカーを特定でき、選抜マーカーとして利用できるようになります。この技術は、タマネギでの選抜マーカーの開発を飛躍的に進め、育種の効率化および新品種の早期育成に貢献することが期待できます。

 

謝辞

本研究は、以下の執行教授が代表者等になった研究資金等を用いて実施されました。

  1. 農林水産省「戦略的国際共同研究推進委託事業」
  2. JSPS科研費JP26292020

 

論文題目

  • 題目:Development of a genome-wide marker design workflow for onions and its application in target amplicon sequencing-based genotyping.
  • 著者:Daisuke Sekine, Satoshi Oku, Tsukasa Nunome, Hideki Hirakawa, ‪Mai Tsujimura, Toru Terachi, Atsushi Toyoda, Masayoshi Shigyo, Shusei Sato, and Hikaru Tsukazaki‬
  • 雑誌:DNA Research.‬‬‬‬‬‬‬‬‬‬‬‬‬‬‬‬‬‬‬‬‬‬‬‬‬‬‬‬‬‬‬‬‬‬‬‬‬‬‬‬‬‬‬‬‬‬‬‬‬‬‬‬‬‬‬‬‬‬‬‬‬‬‬‬‬‬‬‬‬‬‬‬‬‬‬‬ 
  • DOI: https://doi.org/10.1093/dnares/dsac020‬‬‬
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