国立大学法人 山口大学

本学への寄付

犬のがんに対する免疫チェックポイント分子阻害抗体医薬(抗PD-1犬化抗体)の開発とその効果
~犬の悪性腫瘍に対する獣医師主導パイロット臨床試験の成果~

 

 山口大学共同獣医学部の水野拓也教授・伊賀瀬雅也助教の研究グループは、日本全薬工業株式会社と共同で、犬の悪性腫瘍に対する抗犬PD-1犬化抗体医薬を開発しました。本抗体医薬は、in vitroにおいて犬のPD-1とPD-L1の結合を阻害するだけはなく、犬化により免疫原性を低くすることで長期的な投与を可能にしました。動物医療センターに来院した進行期の悪性腫瘍の犬合計30例に投与したところ、肺転移の認められたステージ4の口腔内悪性黒色腫15例中4例(26.7%)に奏効がみられました。またそれ以外の腫瘍についても一部効果が認められた犬も存在しました。このことは本治療法が、犬の悪性腫瘍の新たな治療法として有用であることを示唆しており、今後幅広い症例を用いた臨床試験における効果検討が期待されるものです。
 本研究成果は、2020年10月27日に、米国科学誌Scientific Reportsに掲載されました。本研究は、文部科学省の科学研究費助成事業によって支援されました。

 

発表のポイント

  • 犬のがんに対する治療薬として市販されている免疫チェックポイント分子阻害抗体はありませんが、山口大学共同獣医学部では、日本全薬工業株式会社とともに、世界初となる抗犬PD-1犬化抗体医薬を開発しました。
  • 山口大学共同獣医学部動物医療センターでは、世界に先駆けてこの抗犬PD-1犬化抗体医薬を用いた獣医師主導臨床試験を実施し、進行期の犬の悪性腫瘍の一部の症例に対して効果が認められることを確認しました。
  • 本臨床試験により、抗犬PD-1犬化抗体医薬は、既存の治療法の効果が認められなくなった悪性腫瘍の犬の新しい治療オプションとして期待されます。

 

研究内容

 犬のがんは高齢犬の死因でもっとも多く、通常3大療法とよばれる外科手術、放射線、抗がん剤などで治療が行われます。しかし進行した例やこうした治療に抵抗性の場合、有効な手立てはありません。ヒトでは免疫チェックポイント分子に対する抗体医薬を用いた免疫チェックポイント分子阻害療法が開発され、さまざまな悪性腫瘍の治療薬として使用されるようになり、これまで治療法がなかったような患者さんの予後の改善が認められるようになりました。したがってこのような治療法は、がんの犬に対しても画期的な治療法になる可能性がありますが、残念ながら、市販されている犬の免疫チェックポイント分子阻害抗体は世界的にも存在しておりません。
 本研究において水野拓也教授・伊賀瀬雅也助教のグループは、まず以前に同研究室で開発した犬PD-1分子に特異的なモノクローナル抗体をもとに、遺伝子組換え技術によりそれらを犬に対して投与できるようにし、抗犬PD-1犬化抗体(ca-4F12-E6)を作製しました(図1)。この抗体は、in vitroにおいて、PD-1とPD-L1分子を阻害し、リンパ球の機能を増強することを確認しました。さらに健常ビーグル犬に対してこの抗体を投与し、安全性について問題がないことを確認しました。

図1.抗犬PD-1犬化抗体の作製

研究の詳細はこちら

 

研究論文

  • タイトル:“A pilot clinical study of the therapeutic antibody against canine PD-1 for advanced spontaneous cancers in dogs”
  • 著者名:Masaya Igase, Yuki Nemoto, Kazuhito Itamoto, Kenji Tani, Munekazu Nakaichi, Masashi Sakurai, Yusuke Sakai, Shunsuke Noguchi, Masahiro Kato, Toshihiro Tsukui, Takuya Mizuno
  • 公表雑誌:Scientific Reports
  • 公表日:2020年10月27日(オンライン公開)
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