国立大学法人 山口大学

本学への寄付

病原細菌を効率よく消化・除去するゾウリムシを発見

 

 山口大学共同獣医学部の渡邉健太助教、度会雅久教授、藤島政博教授(特命)らの研究チームは、病原菌として知られるレジオネラを効率よく消化する機能を持つゾウリムシを発見しました。
 レジオネラ(Legionella pneumophila)は人に肺炎などを引き起こす呼吸器感染症の原因菌で、ゾウリムシを用いた実験を行うことで、レジオネラの原生生物共生メカニズムの解明を試み、これまでに、レジオネラは水中に生息するゾウリムシに共生し、共生関係に不都合が起きたときに増殖を開始してゾウリムシを殺して脱出してしまうことが分かっていました。今回、高い消化能力によりレジオネラを減少させる機能を持つゾウリムシの存在が確認されたことで、水系感染症の原因となる様々な病原細菌を環境水中から除去する新しい技術開発に繋がることが期待されます。
 山口大学では、文部科学省ナショナルバイオリソースプロジェクト (NBRP)の一環として、ライフサイエンスの研究に広く用いられる実験材料であるゾウリムシ属の体系的な収集、保存(保存種数は世界一の25種)、提供を行っており、このことが継続する体系的な研究を可能としています。
 本研究成果は、2020年10月23日付けのFrontiers in Microbiology電子板に掲載されました。

 

研究の背景

 レジオネラ症はLegionella pneumophila(レジオネラ)の感染によって引き起こされる呼吸器感染症です。日本国内でも温泉施設等での集団感染事例が報告されています。レジオネラは身近な水環境に広く存在しており、そうした環境中では原生生物を宿主として大量増殖していると考えられています。我々はこれまでに、ゾウリムシがこのレジオネラの自然宿主になり得ること(図1の上段)、さらに、場合によってはゾウリムシを殺して細胞外に脱出するレジオネラが存在すること(図1の中段)を報告してきました。今回、本研究グループでは、レジオネラとゾウリムシの第3の関係性として、レジオネラを消化することができるゾウリムシを探索し(図1の下段)、その詳細なメカニズムについて解析を行いました。

図1.レジオネラとゾウリムシ宿主の関係性

 

研究結果

  • ナショナルバイオリソースプロジェクト(NBRP)ゾウリムシから性状の異なるゾウリムシ60株を取得し、これにレジオネラを感染させる実験を行ったところ、Paramecium multimicronucleatumの2株(Y-2株およびYM-25株)において顕著な菌数の減少が認められました。
  • これら2株は複数のレジオネラ株に対して同様に高い消化能力を示しました。また、病原性の低い大腸菌に対しても高い消化能力を示したことから、あらゆる細菌に対して非特異的に高い消化能力を発揮することが予想されました。
  • レジオネラを取り込んだゾウリムシの食胞について、その形成・成熟過程を詳細に解析したところ、Y-2株とYM-25株はどちらも初期に形成される食胞数が有意に多く、このことが高い消化能力の一端を担っていると考えられます。

 

研究の詳細はこちら

 

原著論文情報

  • タイトル:Peculiar Paramecium hosts fail to establish a stable intracellular relationship with Legionella pneumophila
  • 掲載誌:Frontiers in Microbiology
  • 著者:Kenta Watanabe, Yusei Higuchi, Mizuki Shimmura, Masato Tachibana, Masahiro Fujishima, Takashi Shimizu, Masahisa Watarai
  • DOI:https://doi.org/10.3389/fmicb.2020.596731

 

謝辞

 本研究は、文部科学省・科学研究費補助金制度の支援を受けて行ったものです。

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