国立大学法人 山口大学

本学への寄付

細胞が生み出す力を形の情報を用いて、高精度で推定する技術を開発 ~がん、免疫、神経発達など細胞変形が係わる研究への応用が期待~

 

 山口大学大学院創成科学研究科 理学系学域の岩楯好昭教授は、奈良先端科学技術大学院大学データ駆動型サイエンス創造センターの作村諭一教授(兼:先端科学技術研究科 バイオサイエンス領域 データ駆動型生物学研究室)、先端科学技術研究科 バイオサイエンス領域の稲垣直之教授、情報科学領域の池田和司教授らとの共同研究により、細胞が体内で変形して移動するなど物理的に変化するときに、細胞が生み出す機械的力の推定精度を向上する技術開発に成功しました。
 細胞の力は直接計測することができないため、細胞の形の変化により生じた培養基質の変形量から推定されます。これまでの推定アルゴリズムは基質の変形のみから力を推定することが主流であり、これは細胞の力に対する反作用を測定する基質の応力の推定に近いものでした。その結果、細胞が生み出した力としての推定の精度は決して良いとは言えませんでした。
 本研究は、「あくまで細胞が力を出して基質を変形する」という事実を重視し、その力を推定する際に、基質の変形情報だけでなく、細胞自体の形状に関する情報によるバイアス(制約)を導入し、ベイズ統計学習という統計学の手法によって精度の良い力推定を実現しました。精度の良い細胞の力が推定されることにより、細胞や組織の変形など、力学的な要素を含む生命現象の原理の解明に役立ちます。例えば、がん細胞や免疫細胞、発達中の神経細胞などのデータに応用可能で、医学や生物学の発展に寄与することが期待されます。
 この研究成果は、2023年11月1日付で、Biophysical Journalオンライン版(https://doi.org/10.1016/j.bpj.2023.10.032)に掲載されました。

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図:細胞が生成した力(赤)により弾性基質が変形する。基質の変形を蛍光ビーズの変位で部分的に観測する。

 

論文情報

  • タイトル:Bayesian traction force estimation using cell boundary-dependent force priors
  • 著 者:Ryosuke Fujikawa, Chika Okimura, Satoshi Kozawa, Kazushi Ikeda, Naoyuki Inagaki, Yoshiaki Iwadate, Yuichi Sakumura*(*責任著者)
  • 雑誌名:Biophysical Journal
  • 掲載日:2023年11月1日
  • U R L:https://doi.org/10.1016/j.bpj.2023.10.032

謝 辞

 本研究は、国立研究開発法人日本医療研究開発機構(AMED)の革新的先端研究開発支援事業(AMED-CREST)「メカノバイオロジー機構の解明による革新的医療機器及び医療技術の創出」研究開発領域における研究開発課題「細胞-基質間の力を基盤とした細胞移動と神経回路形成機構の解明およびその破綻による病態の解明」(研究開発代表者:稲垣直之)および文部科学省 科学研究費補助金 学術変革領域(A)学術変革研究「力が制御する生体秩序の創発」研究開発領域における研究開発課題「定量細胞モデルによる血管新生の秩序力学の解明」(代表者:作村諭一)による支援によって実施しました。

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