国立大学法人 山口大学

本学への寄付

波長222nmの遠紫外線照射効果~大腸癌細胞株の細胞膜を傷害し細胞死を導く

発表のポイント

  • 波長260nmの深紫外線と波長222nmの遠紫外線を大腸癌細胞株に照射し、両紫外線の細胞死誘導機序の違いを明らかにしました。
  • 深紫外線と異なり、遠紫外線による細胞死の機序はアポトーシスではなく、細胞膜の傷害によることが分かりました。
  • 波長のわずかな違いによって、細胞死の機序が異なることは興味深い結果といえます。

概 要

 山口大学大学院医学系研究科 基礎検査学講座の西川 潤教授らは、消化器内科学、臨床検査・腫瘍学およびウシオ電機株式会社(本社:東京)との共同研究により、遠紫外線が大腸癌細胞株の細胞膜を傷害し、細胞死を誘導することを明らかにしました。ウシオ電機株式会社が開発した波長222nmの遠紫外線を特異的に照射可能な装置を用い、単層培養した大腸癌細胞株DLD1に照射を行いました。遠紫外線を照射した細胞をタイムラプス撮影で経時的に観察したところ、細胞は照射4時間から膨張し始め、細胞死に至りました。細胞膜に傷害のない生細胞のDNAに結合できるSyot9(下図:緑の蛍光)と細胞膜に傷害のある細胞でしか細胞に取り込まれないPropidium iodide(PI)(下図:赤の蛍光)を反応させたところ、遠紫外線を照射した細胞にはPIが著明に取り込まれることが分かりました。波長が260nm付近の深紫外線はDNAに吸収され、DNA傷害を起こし、細胞はアポトーシスになることは良く知られています。したがって、波長222nmの遠紫外線の細胞に与える影響を深紫外線と比較検討しました。細胞の形態は、遠紫外線照射で膨張するのに対して、深紫外線照射ではやや縮小しました。4′,6-diamidino-2-phenylindole(DAP)で細胞の核を染色すると遠紫外線では核に変化はなく、深紫外線照射では核は凝集、断片化してアポトーシスになりました。また、紫外線によるDNA傷害のマーカーであるCyclobutane Pyrimidine Dimer(CPD)は遠紫外線照射ではわずかしか検出されず、DNA傷害は軽度と考えられました。以上のことから、DNA傷害からアポトーシスを起こす深紫外線に対して、遠紫外線は核やDNAへの影響は少なく、細胞膜傷害による細胞死が誘導されると考えられました。
 これらは紫外線の中でもわずかな波長の違いによって、細胞へ与える影響が異なることを示す重要なデータです。今後さらに細胞膜の脂質やタンパク質への影響を中心に解析を進める予定です。
 本成果は2024年6月27日付でInternational J of Molecular Sciences(IJMS)(IF 4.9)に掲載されました。


図:照射後の細胞のSyto9/PI染色
細胞膜傷害を示す赤色の蛍光色素PIが明瞭に取り込まれています。


図:紫外線による細胞死の機序
波長222nmの遠紫外線は細胞膜傷害による細胞死を誘導します。

発表論文の情報

  • タイトル:Far-Ultraviolet Light at 222 nm Affects Membrane Integrity in Monolayered DLD1 Colon Cancer Cells
  • 著 者:Nishikawa J, Tamura Y, Fujii T, Fukuda S, Yoneda S, Yamaura N, Takahashi S, Yamamoto T, Nojima J, Suehiro Y, Yamasaki T, Takami T.
  • 掲載誌:International J of Molecular Sciences
  • 掲載日:27 June 2024 2024 Jun 27;25(13):7051.
  • D O I:10.3390/ijms25137051.

謝 辞

 本研究は、JSPS科研費 JP22K07985の支援を受けて行われました。

お問い合せ先

大学院医学系研究科(保健学専攻)基礎検査学講座
教授 西川 潤
E-mail: junnis@(アドレス@以下→yamaguchi-u.ac.jp)

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