COVID-19咽喉頭炎の特徴に関する新たな所見を発表
発表のポイント
- COVID-19咽喉頭炎に特徴的な内視鏡所見(喉頭両側披裂部の浮腫、喉頭内腔の白苔・偽膜形成、喉頭蓋喉頭面の炎症、声門下喉頭炎)を明らかにしました。他感染症が原因の咽喉頭炎にはまれであり、COVID-19(特にオミクロン株)に特徴的な所見と考えられます。
- 喉頭内腔の組織学的に線毛上皮に覆われている部位に強い炎症が見られました。
- COVID-19患者は後遺症として、喉頭気管狭窄(LTS:laryngotracheal stenosis)による呼吸困難を生じることがあり、難治性のため大きな問題となっています。これは今回の研究から、急性期に喉頭の内腔に高度の炎症を生じていることが関係していると示唆されます。
研究の背景と概要
山口大学大学院医学系研究科耳鼻咽喉科学講座の中林 遥 診療助教(研究当時)、津田 潤子 講師、菅原 一真 教授からなる研究グループは、新型コロナウイルス感染症(COVID-19)咽喉頭炎の特徴について新たな知見をまとめて報告しました。COVID-19は、2019年12月以降、世界中に拡大し、原因ウイルスである重症急性呼吸器症候群コロナウイルス2(SARS-CoV-2)は、現在も変異を繰り返し、その感染力や症状は変化し続けています。2021年末にはB.1.1.529(オミクロン)変異株が出現し、2022年3月までに日本国内はオミクロン株が主流となりました。オミクロン株は鼻汁や咽頭痛などの上気道症状が強く、気道の狭窄による呼吸困難に注意が必要です。しかしながら、喉頭内視鏡検査を行うためには、医療従事者は厳格な感染対策を行う必要があり、COVID-19咽喉頭炎の特徴をまとめた報告はこれまでありませんでした。そこで、十分な感染対策を行いながらCOVID-19咽喉頭炎患者の喉頭内視鏡画像を蓄積し検討を行ったところ、他のウイルスや細菌が原因の咽喉頭炎とは異なる特徴があることが分かりました。喉頭の特徴的な所見(図1)として、両側の喉頭披裂部浮腫、喉頭内腔の白苔付着・偽膜形成、喉頭蓋喉頭面の炎症、声門下喉頭炎の4つの特徴がありました。さらに、ほとんどの入院患者にこれらの所見が複合して認められることが分かりました。咽喉頭炎の多くは短期間で改善しましたが、所見の変化が非常に速いことが分かり、気道狭窄が急速に進行する危険性があることから、慎重に経過観察を行う必要があると分かりました。また、COVID-19後遺症として難治性の喉頭気管狭窄(LTS)を生じることが大きな問題となっていますが、その原因はこれまでよく分かっていませんでした。今回の研究から喉頭の内腔に高度の炎症を生じることが原因の一つである可能性が示唆されました。
本研究成果は、日本時間2025年4月11日に科学誌「The Laryngoscope」に掲載されました。
図1.COVID-19咽喉頭炎患者の喉頭内視鏡画像
表1.COVID-19咽喉頭炎患者16名の喉頭内視鏡所見のまとめ
研究結果のまとめ
山口大学医学部附属病院耳鼻咽喉科で入院治療を受けたCOVID-19患者16名の、喉頭内視鏡所見を検討しました(表1)。喉頭披裂部浮腫は全患者(100%)に認められ、また特徴として両側性で、さらに披裂部の正中部に所見が強いことが分かりました。喉頭の白苔付着および偽膜形成は14名(87.5%)に認められ、仮声帯、喉頭蓋の喉頭面、および披裂部内面といった喉頭の内腔に強く認められました。喉頭蓋炎は14名(87.5%)に認められ、うち13名(81.3%)では喉頭蓋の喉頭面に重度の炎症がみられました。声門下喉頭炎は12名(75%)に認められました。また13名のうち、12名(92%)で上咽頭炎を併発していました。所見のピークは2~3日目に最も強く、その後多くの患者が短期間で改善を認めました。
本研究で認められた喉頭所見は、他感染症が原因の咽喉頭炎ではまれであり、COVID-19に特有のものと予想されます。これは、SARS-CoV-2が細胞に侵入する機序が関係していると考えられます。具体的には、ウイルスはアンジオテンシン変換酵素2(ACE2)受容体を介して細胞に入り込みます。喉頭蓋の中でも、喉頭面は線毛上皮に覆われておりACE2が高発現しているため、この部位で特に強い炎症が起きやすいと考えられます。一方で、喉頭蓋の舌面から先端にかけては重層扁平上皮で覆われています。さらに、近年ではCOVID-19後遺症として後天性LTSの報告が多数あり、非常に難治性の気道狭窄をきたすため、治療に難渋します。本研究によりCOVID-19咽喉頭炎では喉頭の内腔に強い炎症所見を生じることが分かり、このように炎症が強い状態である喉頭内腔に気管挿管処置や気管挿管チューブ留置を行うことは、COVID-19関連LTSの要因となる可能性があり、慎重な判断が求められる事が示唆されました。
論文タイトルと著者
- タイトル:A Case Series of Sixteen Patients With Coronavirus Disease-Related Laryngopharyngitis
- 著 者:Haruka Nakabayashi, Junko Tsuda, Shunsuke Tarumoto, Kengo Yagyu, Takeshi Hori, Yosuke Takemoto, Makoto Hashimoto, Kazuma Sugahara
- 掲載誌:The Laryngoscope
- D O I:10.1002/lary.32211
問い合わせ先
- <研究に関すること>
山口大学大学院医学系研究科耳鼻咽喉科学講座
講師 津田 潤子(つだ じゅんこ)
TEL:0836-22-2719
E-mail:tjunko@(アドレス@以下→yamaguchi-u.ac.jp ) - <報道に関すること>
山口大学医学部総務課広報・国際係
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