前乾燥処理が不要!凍結切片で実施できる次世代の電子顕微鏡観察法「ナノスーツCLEM法」を開発―700kgを超える大型動物でも実証
発表のポイント
- 前乾燥処理を行わずに観察可能 ― 真空下でも試料の構造を保持
- 凍結切片で実施できる ― 多様な動植物材料や研究目的に対応
- 体重700kgを超える大型動物にも適用 ― ウシ組織で実証
- 光電子相関法(CLEM)をより簡便かつ実用的に
山口大学共同獣医学部臨床獣医学講座の角川博哉教授と、浜松医科大学光医学総合研究所の河崎秀陽准教授の共同研究チームは、前乾燥処理を行わずに凍結切片を用いて、光電子相関法(Correlative Light and Electron Microscopy:CLEM)を実施できる新手法「ナノスーツCLEM法」の開発に成功しました。
光電子相関法は、光学顕微鏡と電子顕微鏡を組み合わせて観察する技術で、従来は試料の前乾燥処理が不可欠でした。本研究により、扱いやすい凍結切片を用いて、試料へのダメージを抑えつつ、多様な抗体などと組み合わせた解析が可能になりました。
電子顕微鏡は超高解像度観察が可能である一方、観察視野が極めて狭いという欠点があります。CLEMはこの制限を克服する唯一の手法であり、光学顕微鏡で見つけた標的の内部を電子顕微鏡で詳細に観察できます。今回開発した「ナノスーツCLEM法」により、前乾燥処理を必要とせず、凍結切片をそのまま観察に利用できるため、材料本来の構造を保持したままの可視化が可能となりました。これにより、細胞核やミトコンドリアなどの細胞内小器官、細胞内寄生菌、ウイルス、分子の局在や状態を高解像度で捉えることができます。
実際に、体重700kgを超えるウシの下垂体前葉の凍結切片を用いた実験において、全体のわずか12%しか存在しないLH分泌細胞内の分泌顆粒などを電子顕微鏡画像として捉えることに成功しました。
今後の展望
前乾燥処理が不要で凍結切片を用いるだけの簡便さ、さらに大型動物にも適用可能という特長から、今後は生命科学研究を中心に、理学・農学・工学・獣医学・医学など幅広い分野での応用が期待されます。基礎研究だけでなく、医療現場や企業研究所での活用にもつながると考えられます。
謝辞
本研究は、日本学術振興会科学研究費助成事業「挑戦的研究(萌芽)」(25K22421)および「基盤研究(B)」(24K01910)の支援を受けて実施されました。
図:ウシの下垂体前葉の中に、12%しか存在しないLH分泌細胞の中の分泌顆粒などの電顕画像の撮影に成功
論文情報
- 論文名:A novel method of correlative light and electron microscopy in cryosectioning of bovine anterior pituitary tissue using NanoSuit CLEM
- 著者名:Hiroya Kadokawa,Hideya Kawasaki
- 掲載誌:Journal of Reproduction and Development
- 掲載日:2025年8月14日(オンライン先行公開)
- URL:https://doi.org/10.1262/jrd.2025-025
- DOI:10.1262/jrd.2025-025
問い合わせ先
- <研究に関すること>
山口大学共同獣医学部臨床獣医学講座獣医予防管理学研究室
教授 角川 博哉(かどかわ ひろや)
電話番号:083-933-5825
Eメール:hiroya@(アドレス@以下→yamaguchi-u.ac.jp) - <報道に関すること>
山口大学総務企画部総務課広報室
電話番号:083-933-5007
Eメール:sh011@(アドレス@以下→yamaguchi-u.ac.jp)