カブトムシのメスは一生に一度しか交尾しない
発表のポイント
- カブトムシのメスは、一度交尾するとその後は他のオスを拒絶し、一生に一度しか交尾しないことを発見した
- 他種の昆虫のメスは複数のオスと交尾をすることが多く、このような単回交尾は非常に珍しい例である
- オスは交尾時にメスへ大きな精包(精子や分泌物を含むカプセル)を送り込む。通常よりサイズが小さな精包を受け取ったメスは再交尾率がわずかに上昇したが、産卵数や卵の孵化率には影響が見られなかった
- オスが作る大きな精包は、メスの栄養源としてではなく、メスが他のオスと再交尾するのを防ぐために進化したと考えられる
概要
山口大学理学部(大学院創成科学研究科(理学系))の小島渉准教授、学部4年生(当時)の圓尾明日香大学生、大学院創成科学研究科修士課程2年生の山手颯太大学院生らの研究グループは、アメリカ・モンタナ大学との共同研究により、カブトムシTrypoxylus dichotomusのメスが、生涯に一度しか交尾しないことを明らかにしました。研究グループが実験室環境下で観察を行ったところ、90%以上のメスが最初の交尾から少なくとも一カ月間にわたり、他のオスからの交尾の試みを拒絶することがわかりました。この拒絶期間は、野生下の成虫のメスの寿命を上回る長さです。他種の昆虫のメスは複数のオスと交尾をすることが多く、このような単回交尾は非常に珍しい例です。さらに、オスが別のメスと交尾した直後で、通常より60%小さな精包をメスに渡した場合、メスの再交尾率は15%へとわずかに上昇しました。しかし興味深いことに、小さな精包を受け取ったメスでも、産卵数や卵の孵化率には通常と違いが見られませんでした。これは、1回の交尾(小さな精包)で一生分の受精に十分な精子を受け取っていることを示しています。未交尾のオスが大きな精包を作る理由は、メスの生殖器を物理的に満たすなどして、再交尾率のわずかな上昇すらも封じるためであると考えられます。
発表内容
カブトムシは日本人にとってなじみの深い昆虫であり、オスの立派な角を使った闘争など、交尾前の行動についてはこれまで多くの研究が行われてきました。その一方で、交尾後の生態やプロセスについてはほとんど解明されていませんでした。そこで研究グループは、カブトムシのメスが一生のうちに何度交尾するのか、またその行動を制御するメカニズムについて、実験室で詳細な検証を行いました。
まず、85頭の未交尾のメスを用いて実験を行ったところ、すべてのメスが最初のオスとの交尾を受け入れました。しかし、その後のメスは劇的に行動を変化させます。1日から28日後に別のオスと引き合わせたところ、メスはオスを激しく蹴り飛ばすなどして交尾を拒否するようになりました(図1)。野生下でのカブトムシの寿命を考慮すると、28日間という長期の拒絶期間は、メスが生涯に一度しか交尾しない(単回交尾)ことを意味します。コガネムシ科の昆虫は複数回交尾することが一般的であり、このような極端な単回交尾性は非常に珍しい現象です。
では、どのようなメカニズムでメスは再交尾を拒絶するようになるのでしょうか。一部の昆虫のオスは、精子やタンパク質などの栄養を含む“精包”と呼ばれるカプセル(図2)を交尾の際にメスの交尾器内に送り込みます。研究グループは、精包に含まれる化学物質が原因か、あるいは交尾時の物理的な刺激が原因かを探るため、2つの実験を行いました。1つ目は、精包の抽出液をメスの体液中に直接注射する実験です。他の昆虫ではこの方法で再交尾が抑制されることがありますが、カブトムシのメスは注射後もオスとの交尾を受け入れました。2つ目は、交尾を途中で人為的に中断させる実験です。オスの生殖器が挿入されてから15分後に強制的に引き離したところ、このメスも翌日には別のオスと交尾しました。これらの結果から、単なる化学物質の血中への移行や、生殖器への物理的な刺激だけでは、メスの再交尾を抑制するには不十分であることがわかりました。メスの生殖器内が精包で物理的に満たされることなど、より複雑なメカニズムが関与していることが示唆されました。
さらに研究グループは、オスがメスに渡す精包のサイズに着目しました。未交尾のオスは大きな精包を作りますが、別のメスと交尾した直後のオスは、精包のサイズが60%も減少します。この小さな精包を受け取ったメスを観察すると、通常はほぼ0%である再交尾率が15%へとわずかに上昇することが分かりました。しかし驚くべきことに、この小さな精包を受け取ったメスであっても、大きな精包を受け取ったメスと産卵数や卵の孵化率、さらには寿命に至るまで、まったく変わりませんでした(図3)。すなわち、カブトムシのメスは、わずか1回の交尾(しかも60%縮小した精包)であっても、生涯の繁殖には十分すぎるほどの精子を受け取っていることになります。それにもかかわらず未交尾のオスが大きな精包を作る理由は、メスにより多くの精子や栄養を渡すためではなく、メスの生殖器を巨大なカプセルで物理的に満たすことで、他のオスとの再交尾を完全に防ぎ、確実に自分の子を残すためであると考えられます。
本研究の意義
カブトムシは、日本人にとって最も馴染みの深い昆虫のひとつですが、本研究によって、メスの単回交尾性という、コガネムシ科のなかでも極めて稀な繁殖生態を持っていることが初めて明らかになりました。本研究は、身近な生物にも興味深い生態が隠されていることを示すとともに、メスの単回交尾性がどのように進化するのかという、進化生物学の重要な問いに答えるための大きな一歩となります。
本研究成果は、2026年3月2日に学術誌「Behavioral Ecology and Sociobiology」に掲載されました。
図1.メスの交尾率の変化。初回の交尾ではすべてのメスが交尾を受け入れたが、1~28日後に別のオスと引き合わせても、再交尾率はわずか0~7%にとどまった。

図2.オスが作る精包(青線で囲まれた構造)。精子やタンパク質などの栄養を含むカプセルである。通常はメスの体内に作られるが、この写真は交尾中のオスを人為的に引き離し、体外に作らせて撮影した。
図3.精包のサイズと繁殖成績の関係。通常の大きな精包を受け取ったメスと、小さな精包を受け取ったメスが残した孵化幼虫の数(A)と卵の孵化率(B)。精包のサイズが変わっても繁殖成績には影響しないことがわかる(グラフ内の線は、同じオスとの交尾に由来するデータを結んでいる)。
掲載誌情報
- 掲載誌:Behavioral Ecology and Sociobiology
- タイトル:Monandry and its underlying mechanisms in the rhinoceros beetle Trypoxylus dichotomus
(カブトムシにおける単回交尾性とそれをもたらすメカニズム) - 著者:Asuka Maruo, Souta Yamate, Sophia Fitzgerald, Douglas J. Emlen, and Wataru Kojima
- 掲載日:2026年3月2日
- DOI:10.1007/s00265-026-03708-6
- URL:https://link.springer.com/article/10.1007/s00265-026-03708-6
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<研究に関すること>
山口大学大学院創成科学研究科 生物学分野
小島 渉(こじま わたる)
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E-mail:wkojima@(アドレス@以下→yamaguchi-u.ac.jp) -
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