国立大学法人 山口大学

本学への寄付

卵巣老化の新たな分子メカニズムを解明 ―アルドケト還元酵素1b7(Akr1b7)の低下が卵胞発育障害と生殖機能低下を引き起こす―

 

発表のポイント

  • 2万種類の遺伝子発現の解析とデータベース分析予測から卵巣注1老化に伴いAldo-Keto Reductase(Akr1b7:アルドケト還元酵素1b7)注2という酵素のシグナルが低下することを発見
  • Akr1b7欠損マウスでは、未成熟卵子注3の排卵増加、卵胞注4発育障害、産仔数減少が起こる
  • プロゲステロン注5代謝異常と発情周期延長が、加齢性生殖機能低下と強く関連
  • 卵巣老化の分子基盤理解や不妊治療研究への応用が期待される

概要

 女性の生殖能力は加齢とともに低下しますが、その分子レベルでの仕組みは十分に解明されていません。
 山口大学大学研究推進機構総合科学実験センター遺伝子実験施設の水上洋一教授および諌山慧士朗助教は、山口大学大学院医学系研究科、東海大学、京都産業大学と共同でマウス卵巣を用いた性周期に応じた網羅的遺伝子発現解析により、Akr1b7(アルドケト還元酵素1b7)が卵巣老化と生殖機能維持に重要な役割を果たすことを明らかにしました。
 若齢マウスでは排卵刺激後にAkr1b7が一過性に活性化されるのに対し、高齢マウスではこの反応が失われていました。さらに、Akr1b7を欠損させたマウスでは、卵胞発育障害、未成熟卵子の排卵増加、産仔数の減少といった、加齢に類似した表現型が観察されました。

研究背景

 卵巣には出生時に形成された卵子が一生分蓄えられており、卵巣老化は卵子数の減少だけでなく、卵胞を取り巻く体細胞やホルモン環境の変化によっても進行します。
 これまで、卵巣老化に関与する細胞間シグナルの全体像は不明でした。

研究成果

 本研究では、排卵刺激後の卵巣における2万種類以上の遺伝子発現を排卵時間経過に沿って解析しました。
 その結果、Akr1b7は若齢マウス卵巣の莢膜細胞注6で一過的に強く発現し、高齢マウスではAkr1b7の発現誘導が起こらないことを見いだしました。
 Akr1b7欠損マウスを作製した結果、卵子内Aktシグナルの低下、卵胞発育不全、未成熟卵子の排卵増加、プロゲステロン濃度の持続的上昇、発情周期(特に黄体注7期)の延長が確認されました。
 さらに、Akr1b7は女性ホルモンであるプロゲステロンの代謝酵素の発現制御にも関与しており、この経路の破綻がホルモン恒常性の乱れと生殖機能低下につながることが示されました。

本研究成果についてわかりやすく解説します。
解説資料はこちら

今後の展望

 本研究は、卵巣老化を引き起こす新たな分子機構を明らかにした点で重要です。Akr1b7シグナルの低下は、加齢に伴う不妊、月経異常、ホルモンバランス変化の理解につながる可能性があります。
 今後は、ヒトにおける対応分子の解析や、卵巣機能低下の早期診断・治療標的としての応用が期待されます。

論文情報

  • 論文タイトル:Reduced Akr1b7 signaling drives ovarian aging and reproductive dysfunction
    (Akr1b7シグナル伝達の低下は、卵巣の老化と生殖機能不全を引き起こす)
  • 著者:Keishiro Isayama1, Kenji Watanabe1, Masato Ohtsuka2, Seisuke Kimura3, Tomoaki Murata4, Takeshi Honda5, Masataka Asagiri5, Shun Sato6, Hiroshi Tamura6, Norihiro Sugino6, and Yoichi Mizukami1
    (諌山慧士朗1 、渡邉健司1 、大塚正人2 、木村成介3 、村田智昭4 、本田健5 、朝霧成拳5 、佐藤俊6 、田村博史6 、杉野法広6 、水上洋一1
  • 所属
     1)山口大学大学研究推進機構 総合科学実験センター・遺伝子実験施設
     2)東海大学医学部基礎医学系分子生命科学遺伝子工学・ゲノム編集研究室
     3)京都産業大学生命科学部 産業生命科学科植物環境応答学研究室
     4)山口大学大学研究推進機構 総合科学実験センター・生命科学施設
     5)山口大学大学院医学系研究科 薬理学講座
     6)山口大学大学院医学系研究科 産婦人科学講座
  • 掲載誌:iScience. 2026 Jan 19;29(2):114719. doi: 10.1016/j.isci.2026.114719. eCollection 2026 Feb 20. PMID:41727189(Cell Press)

用語解説

  • 注1)卵巣:
    卵子を作り、女性ホルモンを分泌する臓器
  • 注2)Akr1b7:
    アルドケト還元酵素1b7;酸化ストレスによって生じる有害な物質を毒性の低いアルコールへと還元・解毒することが報告されている
  • 注3)卵子:
    赤ちゃんのもとになる細胞
  • 注4)卵胞:
    卵巣に存在し、卵子を包む袋状の構造で卵子を保護し栄養を供給する
  • 注5)プロゲステロン:
    卵巣から放出されるホルモンで月経周期を調節し妊娠を助ける
  • 注6)莢膜細胞:
    卵胞の周りの細胞群で卵胞の発育やホルモンに重要な役割を果たす
  • 注7)黄体:
    排卵後に卵胞が変化して出来る組織でプロゲステロンを分泌する

 

お問い合わせ先

  • <研究に関すること>
    山口大学大学研究推進機構総合科学実験センター・遺伝子実験施設
    研究代表者:教授・水上 洋一(ミズカミ ヨウイチ
    Tel:0836-22-2183
    Eメール:mizukami@(アドレス@以下→yamaguchi-u.ac.jp)
  • <報道に関すること>
    山口大学総務企画部総務課広報室
    Tel:083-933-5007
    Eメール:sh011@(アドレス@以下→yamaguchi-u.ac.jp)
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