バイオエタノールの工業生産に向けた高温同時糖化・発酵・減圧蒸留プロセス(HT-SSFD)を開発
発表のポイント
バイオエタノールの工業生産では、原料確保に加えて、複雑で長時間の処理、高価な設備費用等が実用化の大きな課題となっており、その普及が進まないことが指摘されています。この課題に対処するため、山口大学では高温同時糖化・発酵・減圧蒸留プロセス(HT-SSFD)を新たに開発しました。
このプロセスでは糖化槽を兼ねた発酵槽を減圧しながら発酵により生成したエタノールを蒸留・留出させます。従って、従来の糖化、発酵、粗蒸留(固液分離)の3ステップを同時に進行できます。プロセスは糖化槽を兼ねた発酵槽と減圧蒸留により留出するエタノールの凝縮器、受槽及び真空装置から構成されます。HT-SSFDでは山口大学が長年研究していた耐熱性酵母Kluyveromyces marxianusによる高温発酵技術を適用することにより、従来のエタノール発酵では不可欠であった発酵熱を徐熱するための冷凍設備及びその使用電力が省略できます。更に発酵とエタノール蒸留・留出を同時に行うことで、発酵槽でのエタノール阻害を抑制し、有害な活性酸素種の生成を抑制することで発酵を促進します。このプロセスにより、通常法(蒸留の無い高温発酵)より更に約5℃高い温度で安定した発酵が可能となり、エタノール回収率も高温発酵後に減圧蒸留を行ったものより1.6倍に向上しました。加えて蒸留・留出により得られるエタノール濃度は通常発酵の8%程度に対して20%程度と倍以上の濃度となるため、以降のエタノール濃縮に関わるエネルギーを大きく削減できます。
山口大学が開発したHT-SSFDはコンパクトで安定性が高く効率的な発酵プロセスであり、工業用バイオエタノール生産技術の革新技術となりうるものです。
HT-SSFD:High-Temperature Simultaneous Saccharification, Fermentation, and Distillation processの略
研究概要
山口大学大学研究推進機構 中高温微生物研究センターの山田守教授(特命)、Sornsiri Pattanakittivorakul学術研究員、前野慎太朗助教らの研究グループは、タイ・カセサート大学、タイ・コンケン大学、ベトナム・カントー大学、ラオス国立大学との共同研究により、耐熱性酵母の特性を活かした高温同時糖化・発酵・減圧蒸留(HT-SSFD)という新規な統合プロセスを提案し、その性能を評価しました。高温SSF(HT-SSF)は、従来のSSFよりも10℃以上高い温度で実施できることから糖化酵素量の削減、冷却コスト削減、雑菌混入の抑制などのメリットがありますが、高温でのエタノールや活性酸素種による発酵阻害や酵母の生菌数低下、エタノールの漏洩損失の増加などが問題となっていました。
同時減圧蒸留は、固液分離のためだけでなく、エタノールや活性酸素種が発酵に及ぼす悪影響を回避し、発酵生産性を向上させることが期待できました。そこで、原料として古米を用い、温度切替えプロファイルや減圧蒸留のタイミングなど、重要なパラメータを最適化しました。統合プロセス全体を通して十分な細胞生存率が維持されていることを確認し、エタノール回収率を最大化するために、最適化された条件下で3バッチのリサイクルプロセスを実行しました。さらに、このプロセスの適用可能性を、耐熱性Saccharomyces cerevisiaeなどの他の比較的耐熱性の強い酵母を用いて検証しました。
HT-SSFDプロセスの利点は、HT-SSFの利点に加えて、第1に、発酵からエタノール回収までの全工程を単一タンクで行えるため、コンパクトで低コストな設備であること、第2に、発酵からエタノール回収までの時間を大幅に短縮できること、そして第3に、減圧蒸留が従来の発酵よりも約10℃高い温度で行われるため、比較的低い圧力でエタノールを回収できることです。さらに、コンパクトであることから、分散する少量のバイオマスも対象にできます。このようにして生産されたエタノールが燃料として直接利用できれば極めて革新的なものとなり、改質エンジンや燃料電池がその対象として期待されます。
開発に至るまでの経緯
山口大学の中高温微生物研究センターには耐熱性微生物ライブラリーがあり、本研究に利用した耐熱性酵母も含まれています。本研究で用いた耐熱性酵母はアセアン諸国との幾つかの国際共同研究を通じて開発されたものであり、特に、K. marxianus DMKU3-1024については糖資化性解析や完全ゲノム解読、ストレス耐性強化育種等を行ってきました。中でも高温(45˚C)での活性酸素種の蓄積と代謝切替えの発見は本研究に結びつきました。エタノール発酵生産研究では、まず、通常法に倣って高温糖化、高温発酵、減圧蒸留を3ステップで、続いて、高温糖化発酵、減圧蒸留を2ステップで検証し、高温発酵が可能なことを示しました。さらに、この2ステップで得た低濃度エタノールを膜分離によって90%以上に濃縮することを達成しました。また、高温発酵の利点を実証し、冷却不要の発酵槽サイズをシミュレーションしました。
掲載誌情報
- 掲載誌:Biomass and Bioenergy
- タイトル:Development of an integrated simultaneous process of saccharification, fermentation, and distillation at high temperatures using thermotolerant yeast
- 著者:Sornsiri Pattanakittivorakul, Koudkeo Phommachan, Shintaro Maeno, Chansom Keo-oudone, Ngo Thi Phuong Dung, Savitree Limtong, Pornthap Thanonkeo, and Mamoru Yamada
- 掲載日:2026年3月26日
- DOI:10.1016/j.biombioe.2026.109294
- Link:https://doi.org/10.1016/j.biombioe.2026.109294
お問い合わせ先
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<研究に関すること>
山口大学 大学研究推進機構 中高温微生物研究センター
教授(特命) 山田 守(ヤマダ マモル)
TEL:083-933-5869
E-mail:m-yamada@(アドレス@以下→yamaguchi-u.ac.jp) -
<報道に関すること>
山口大学 総務部総務課広報室
Tel:083-933-5007
E-mail:sh011@(アドレス@以下→yamaguchi-u.ac.jp)

