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地球圏システム科 永嶌 真理子 先生

レアアースを含む「ランタンバナジウム褐簾石」の発見。発見された新鉱物はどのようなものだったのでしょう。いろいろな鉱物の結晶も見せていただきました。
物語に出てくる水晶の洞窟がどういう風に出来たのかがイメージ出来ました。

 


永嶌 真理子 Mariko NAGASHIMA
山口大学大学院創成科学研究科 准教授
学域:自然科学基盤系学域(地球科学分野)
学科:地球圏システム科学科


 

インタビュアー(以下、イ):今回のインタビューは地球圏システム科学科の永嶌真理子先生です。よろしくお願いします。

永嶌 真理子先生(以下、永):よろしくお願いします。

ランタンバナジウム褐簾石

レアアースのランタンを含む褐簾石(かつれんせき)の新種「ランタンバナジウム褐簾石」を三重県伊勢市矢持町の山中から発見し,国際鉱物学連合の新鉱物・命名・分類委員会により新鉱物として2013 年3 月1 日に承認されました。

イ:(↑) プレスリリース拝見しました。大発見おめでとうございます。

イ:レアアースのランタンを含む「ランタンバナジウム褐簾石」。これは一体どのような経緯で見つかったのでしょうか。

永:鉱物研究家の稲葉幸郎さんが,伊勢市の旧マンガン鉱山で鉱石中に珍しい鉱物が入っているのを発見して、調査依頼したのが学術的なきっかけです。
調査・分析の結果,同地域から2種類の珍しい鉱物が発見されました。
一つは既にレアメタルのモリブデンとマンガンの酸化物である新鉱物で、「伊勢鉱」として既に認められています。
もう一つが褐簾石という鉱物に似ていたことから,緑簾石族という褐簾石が所属するグループの鉱物を研究している私に共同研究の持ちかけがあり、プロジェクトリーダーとして参加することになったのです。

褐簾石の結晶構造(↑)

(VESTAソフトウェアで作成.Momma & Izumi 2011)

この図は構造が3Dで表わされていて、
角度を変えて立体的に構造を見ることができます。

 

永:岩石全体にレアアースが入っているわけではありません。岩石は多様な鉱物の集まりです。今回の岩石では褐簾石にレアアースが濃集していることが分かったのです。
「褐簾石」自体は,日本や世界から発見される鉱物ですが、レアアースを取り込みやすい結晶構造をしています。
今回の新鉱物はランタンとバナジウムが多く含まれている点が新しいです。
ランタンとバナジウムが一緒に存在する鉱物は稀なのですよ。更に、ランタンだけではなく、セリウムやプラセオジム、ネオジムなどのレアアースも含まれていました。
鉱物の結晶構造には元素が規則的に分布していてどこに何の元素が一番多いかが重要です。それぞれの場所で最も多く入っている元素の種類で名前が変わります。今回は褐簾石の中でも、バナジウムとランタンが多いということで「ランタンバナジウム褐簾石」という名前になったのです。

 

(←)ランタンバナジウム褐簾石を含む岩石(山大サンプル)

永:これです。全体にマンガンや鉄が多く含まれた黒色の岩石ですが割れ目に白や黄色の脈がありますね。この脈内にこの新鉱物が発見されました。

脈の中にピッピッピと黒く見えるのが今回の特徴です。実際相当小さなものです。矢印が付いている先の所を見てください。この黒い今回の鉱物が「ランタンバナジウム褐簾石」。黒い柱状結晶です。

イ:黒い・・・ ??? えっと・・・、どれですか? あ、この細い傷のような・・・?

永:それです!

イ:発見された稲葉さんはこれを見て新種の可能性に思い至ったわけですか!?

永:そう!発見した方が凄いんです!

地元で調査を続けてこられた中、今回この鉱物を目にされ、「おや」と思われたんですね。見つけたものはこれよりはもう少し大きいものだったのでしょうが、非常に鑑定眼の優れた方だと思います。

今回、この新しい発見に関わることができて、ラッキーでした。

この鉱物グループを研究してよかった♪って思いましたよ。
新鉱物の発見は見つけようと思って出来ることではありません。

運に左右される部分が大きいと思います。勿論、それと鑑定眼。

レアアースは国内にも

永:分析技術の向上と研究が進んだ結果、様々なことが分かってきています。レアアースの濃度が高いところは国内にもあるのですよ。
今は採算の関係で閉山していますが、かつて国内にマンガン鉱山がたくさんありました。
今、そのマンガン鉱床の石の再調査が進んでいます。
これは産業技術総合研究所による発表ですが、かつてはマンガンだけを採っていた鉱床に、実はレアアースが多く含まれていると分かってきたのです。今回もそれと似たケースですね。元マンガン鉱山だった所ですから。
海底の海底熱水活動で出来たマンガン鉱床にレアアースが吸着・濃縮したんですね。
マンガン鉱のあるところにレアアースが眠っている可能性が有望ということです。

永:近年、南鳥島近くの海底でレアアースを含む泥が発見されましたね。ああいったものが、数億年後プレートで運ばれて陸地に上がってきたらレアアースが今回のこのランタンバナジウム褐簾石ような鉱物に濃集するのかもしれません。

イ:レアアースは高度な産業技術を支える重要な元素で、ハイテク製品に多く使われているということですよね。
海底の物は採掘するのが大変そうですが、今回のことで、レアアースが国内地上で採掘できるようになるということになるのでしょうか。

永:いえいえ、そういうことには・・・ (笑)
ご覧になったでしょう?とっても小さなものなのです。サイズを見れば産業的に利用するのは難しいことが分かっていただけるでしょう。
発見量はわずかで、現状では資源としての利用は期待できないです。

今回は三重の一般の方に知っていただきたいと思い発表しました。
レアアースってハイテク産業に使うとか海底で見つかったとかで注目されています。それだけを耳にするとなんだか遠い存在に感じるものですが、実は皆さんが住んでる近くの山の中にも宝物のようにこそっと隠れていることがあるということです。
地元の自然に目を向ければ面白い発見があるかもしませんよ。

今後

永:日本のマンガン鉱床にレアアースがあるということが近年明らかになり、そして今回はこういった鉱物にレアアースが濃集していることが分かりました。

これは一つの大きな成果です。
日本のマンガン鉱山の規模はあまり大きくなくて産業的利用は難しいかもしれません。けれど例えばアフリカなどの規模な大きなマンガン鉱山で、こういった研究成果が生かせるかもしれないでしょう?

基礎データの蓄積が大事なのです。地球という単位で考える地球科学の面白さですよ。

イ:この鉱物の研究は続行されるのですか?

永:この黄色い鉱物の中に入っているものと白い鉱物の中に入っているものは化学分析の結果化学組成が少し違うことが分かっていますので、この点についてはもう少し研究を継続していこうと思っています。

イ:また、新たな発見があるかもしれませんね。

永:この標本は後々地球科学の標本室に納めて、皆さんにも見ていただけるようにしますね。

研究の世界

永:研究の世界って面白いです。
同じような研究をしている方の論文はやはりお互い良く読みますからね、本人に面識はなくとも、お互いよく知っています。そういった研究者の方に学会や国際会議で出会うと、初対面なのだけどもすでにお互いよく知っているということになります。

 

(←)Armbruster教授研究室の仲間たちと( スイス・ベルン大学)

だから、いきなり研究の話が始まるんですよ。
人種も国籍も関係ないです。世界中の研究者と共通の話題でコミュニケーション!
議論したりサンプルを交換したり。研究がワールドワイドに人と人をつなぎます。科学の世界ってそういうところも面白いです。

 

永:研究を初めた頃は大先生方の論文を読み漁りますが、その論文を書かれた大先生を国際会議で実際にお見かけして「うわーっ!」と嬉しくなってました。愛読書の著者に会うようなものですね。勿論、研究は面白いですが、そういったことろも楽しいですよ。

おまけ(珍しいものを沢山見せていただきました)

イ:綺麗。パワーストーン屋さんみたいですね。これも鉱物でできているのですか?金塊みたいですね。

永:これは黄鉄鉱です(↑)。加工されたものではありませんよ。自然の形です。

イ:自然にこの形に?驚きです。

永:結晶に含まれるわずかな元素の違いでバリエーションがあるものもありますが鉱物には自分の形である「自形」というものがあります。水晶(石英)は先の尖った六角柱のものをよく見かけますよね、あれも自形です。あと、実はダイヤモンドの自形は八面体なんです。

永:これは方解石(↑)。よく見ると筋が入っています。ここが割れやすいので、この筋目で砕いていくと四角くなります。方解石はこれが自形ですね。

イ:なるほど、それで方(四角)に解する石という名がついているんですね。

永:言われてみれば,そのような意図で名前がついているのかもしれませんね。目からウロコです(笑)
方解石って炭酸カルシウムです。理科の実験で塩酸につけて二酸化炭素を発生させる実験をしたことがあるでしょう?

イ:あります。あります。あれですか。でも、溶かすのは勿体ないですね。とっても綺麗です。

<ガーネットの原石>
赤だけではないそうです。
緑(クロムを多く含む)もあります。

<水晶の詰まったビン>
氷砂糖みたいです。

 

永:これは沸石(↓)。山口県長門の海岸で拾ったものです。

イ:面白い石ですね。こういうのが落ちてるのですか?

永:そうですよ。黒いところは溶岩が固まってできた玄武岩で、これを割ってみると中がこんな風になっているんです。この白いところが沸石です。

イ:石の中の空洞に綺麗なキラキラの結晶がありますね。どうしてこんな風に出来ているのか・・・不思議です。

永:晶洞って言うのですよ。
溶岩中の二酸化炭素などで出来た空洞に、いろいろな元素の溶けた熱水が入って、その閉鎖された空洞の中に鉱物の結晶を作るのです。
高温の飽和塩水(これ以上塩が溶けない濃い塩水)をゆっくり冷やすと結晶ができるでしょう?溶けきれなくなった分の塩が固体に戻って結晶を作るんですね。
あれと同じですよ。熱水に溶けた元素が閉じた空間で徐々に冷やされ、結晶を作るのです。

イ:なるほど 塩の結晶の作り方と一緒ですか。

永:一緒ですよ。塩も鉱物ですからね

イ:え?塩って鉱物なんですか?

永:そうですよ。勿論。「ハライト」という立派な鉱物です。

イ:そうなんですか(驚)・・・そういう風に考えた事がなかったです。

 

<晶洞>
こんな不思議なものが
自然に出来るなんて面白いです。

 

<紫水晶(アメジスト)>
これも晶洞の一部

<岩塩>
これも鉱物
舐めてみました。塩辛い。

 

<ブラックライトで光る蛍光鉱物>

これらの鉱物にブラックライトを当てると 光ります!

右上から時計回りに方解石、蛍石、方解石、蛍石、蛍光鉱石、真中は合成ルビー

暗い箱の中でライトを当てると・・・この通り!(右)
そしてルビーも光ります。

 

インタビュー:2013年5月2日(木)

<お土産にいただいた水晶と蛍石>
綺麗☆ なんだかいいことがありそうです♪

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