山口大学医学部 大学院医学系研究科・医学部

Vol.3「in vitro 着床モデルの構築と着床不全治療の開発」について

山大研究Q&A Vol.3「in vitro 着床モデルの構築と着床不全治療の開発」について

 

 妊娠の最初のステップといわれる「着床」は子宮内で行われる現象であり、可視化できないことから、そのメカニズムについてはほとんど解明されていません。そのため、着床不全に対する有効な治療法が確立されていないのが現状です。

 この着床現象を可視化し、そのメカニズムを解明するための研究を進める大学院医学系研究科産科婦人科学講座の田村功医師に聞きました。

田村 功 講師

Q.「着床」について教えてください。

 着床は、受精卵が細胞分裂を繰り返しながら成長した「胚盤胞」が、子宮の内側を覆う子宮内膜に接着・浸潤する現象から始まります。この時、子宮内膜の間質細胞は「脱落膜化」という、胚盤胞を受け入れられる状態に変化します。この「脱落膜化」は妊娠の成立・維持に必要不可欠な現象で、これが障害されると着床不全の原因になります。着床は、この脱落膜化とともに胎盤が形成されるまでの一連の現象を指します。

 しかしながら、実は、着床がどのようにして起こっているのか、実際のところはあまり分かっていません。なぜなら着床は体の中で起こる現象のため、見ることができないからです。受精や受精卵が育つ過程は体外受精で確認することができますが、着床そのものは目で確認できません。そのため、着床が起こらない「着床不全」に対する効果的な治療法が確立されていないのが現状です。着床不全を解決するには、着床現象を可視化し、そのメカニズムを解明することが必要不可欠だと考えています。

Q.研究グループが進めている着床の可視化について、詳しく教えてください。

 私たちの研究では、子宮内膜を体外の人工的な環境下(=in vitro)で、三次元構造で作製することを試みました。マウスの子宮を用いて、子宮内膜の細胞である「子宮内膜上皮細胞」と「子宮内膜間質細胞」を持つ三次元の構造体(改良型子宮内膜オルガノイド)を作製しました。

 そして、この改良型子宮内膜オルガノイドを培養液で満たした培養皿の中に浮かせて入れ、マウスの胚盤胞と一緒に培養したところ、胚盤胞がオルガノイドに接着・浸潤していく様子を捉えることができました。すなわち、着床現象の4ステップ(①接着:Attachment ②陥凹:Invagination ③貧食:entosis ④浸潤:invasion)を観察することに成功しました。タイムラプスイメージングでリアルタイムに可視化し、動画に収めたのは私たちの研究が世界で初めてです。培養皿の中でプカプカ浮かせた状態で培養できる子宮内膜オルガノイドを開発できた点が、これまでの着床研究で用いられたオルガノイドとは異なる新しい点だと思います。

マウスにおける着床の4ステップ

マウスにおける in vitro着床のタイムラプスイメージング

Q.研究は、現在どこまで進んでいますか。

 培養皿の上で着床したマウスの胚盤胞は、胎盤の元となる絨毛細胞へ分化することを確認しています。また、子宮内膜は妊娠の成立・維持に必要な脱落膜化を起こしていることを確認できており、実際に生体内で起こる着床反応を再現することに成功しています。

Q.研究の成果と今後の課題について教えてください。

 着床現象を培養皿の上で観察できたことは、着床のメカニズムを解明する手掛かりになると思います。メカニズムを解明できれば、着床不全の原因解明や治療法の開発にもつながるかもしれません。

 一方、着床の初期については再現できましたが、胎児が大きくなるところまで培養皿の上で育てられないかという点が課題です。

 また、実際の子宮内膜には免疫細胞などさまざまな細胞が含まれています。これらの細胞を含んだ三次元構造を作れば、より実際の着床に近い現象を可視化することができるかもしれません。

Q.日常診療をしながら研究を続けるのは大変ですか。

 限られた時間の中で研究を遂行していくのは大変ですが、この研究は私一人ではなく、後輩医師や大学院生と協力しながら行っています。また、地方大学の研究であっても、その成果が認められて国の支援事業に採択※1されるのはモチベーション維持にも繋がっています。

 日常診療では、着床不全の患者さんを診察させていただく中で、さまざまな治療方法を試しても妊娠が成立しない患者さんがおられます。そういった方に対する治療法を開発したいという思いから本研究は始まりました。診療に携わる立場であるからこそ、臨床に即した疑問点や問題点、アイデアなどを抽出しやすいと思っています。

 研究は良い成果がでないことも多いですが、これまで誰も見ることができなかった着床が「目で見える」ようになるのは興味深いし、ワクワクします。誰も挑戦していない研究に思いを馳せ、どうしたらもっとすごいことができるだろうって考え続けることがとても大事と思います。これこそが、良いアイデアの創出にもつながると思います。幸い後輩の中には「山口大学の産科婦人科で研究したいから入局した」と言ってくれる医師もいます。皆で協力しながら、これからもワクワクするような研究を続けていきたいと思います。

※1本研究は国立研究開発法人科学技術振興機構(JST)の2024年度創発的研究支援事業に採択されました。(2262件の応募に対し246件採択)


研究者情報

大学院医学系研究科 産科婦人科学講座

講師 田村 功

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